第50話 自警団新入団員。(ガザシ視点)
初めて会ったのは副業にしていた夜店だ。
ずいぶんちっこいのにおもちゃの魔拳銃で大暴発をやらかした。
目が点になったがあのカインがぴったり張り付いているのを見て少し安心したな。
腕は良いのにどこか浮わついた生き方をしていたカインが気にかけているのは微笑ましい。
俺も何度も自警団に誘ったものだが一度たりともよい返事は貰っていない。
しかしそれがあの魔蜥蜴の大物襲撃でがらりと変わることになるとは。
あの夜の俺には想像もつかないことだった。
突然の襲撃に自警団の幹部もパニックになりかけた。
どうにか住民の避難誘導をするのが精一杯で、対応できるレベルを越えた魔物をどうにかするなんて考えもしなかった。
俺は街の防衛責任者として逃げ遅れた者がいないか門の方から順に見回りしていた。
露店広場の片隅に見覚えのある小さな背中を見つけたときは驚いた。
その頃にはほぼ人影はなく坊主一人で逃げられるとは思えなかった。
保護するために声をかけ(悲鳴をあげられそうになって焦った)連れだって自警団本部へ行った。
そこらの武器屋を漁っても非常事態ゆえと言えただろうがそれより坊主の適性を思い浮かべたから。
この街に唯一の本物の魔拳銃。
かつて勇者と呼ばれた召喚者に愛用されたという伝承の武器が、自警団本部には在った。
夜店のおもちゃであの威力ならあるいは…。
ただそれは希望的観測でもあったが。
万が一の時には時間稼ぎさえすればあいつがくると確信していた。
何にも執着せず漂泊の人生を生きてきた男。
忘れたように、忘れられるように、存在を無くすように。
そんなあいつが初めて見る目をしていた。
この国一番と勝るとも劣らない剣の腕を持つあいつが、傍に在ろうとする者。
願わくば共に在って欲しいと、そう思うのは俺の勝手だが。
放っておけば孤独を極めんとするあいつの傷を癒すかもしれない坊主を、守ってやろうと思っていた。
だがそれは思い違いであった。
自分の武器をとることを忘れたのは俺もやはり混乱の極みにあったからなのか、咄嗟に庇えたことは誉めて欲しいところだが。
不幸にも遭遇した魔蜥蜴のしかもゾンビ化した大物が、坊主の魔拳銃の一撃で倒されるなどとは。
思っても見なかった現実に怪我の痛み以上に衝撃で気絶しそうだった。
カインの斬撃でも前足を落としただけだったというのに、魔弾で消し飛ばすとはどういうことか。
襟首つかんで振り回したいくらいの動揺があったがそれだけで終わらず。
坊主は俺の右肩から肘の欠損まで治癒したのだ。
この世界に部位欠損を治癒する魔法は存在しない。
いやそこまでできる魔力が能力が不足していた。
伝説、勇者と呼ばれた召喚者であればあったのかもしれない。
まさか、という思いはあったが。
気を失った坊主を抱き止めたカインの泣きそうに歪んだ顔を見ては突っ込んだことを聞くことはできなかった。
異常な魔力の強さ、多さ、外見の幼さから、近くで守れる方がいいと自警団に誘ったものの、カインまで釣れるとは正直期待していなかった。
そこまでの執着なのか。
若い恋着で終わるのかそれとも。
いずれにしても二人とも既に息子のようなものだと思っているのだ。
亡くした息子よりずっと手のかかる息子だが俺にとっては可愛いものなのだ。
自警団新入団員としてせいぜい構っていくつもりである。
初めての巡回業務で一ヶ月も持ちそうな食料(魔物の肉、しかも旨い)を確保してきた二人に、また目が点になるのはすぐ後のことだ。
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