第42話 マモノ。

 少しだけ疲れがとれた頃、ガザシさんが投げ掛けた問いに僕は戸惑いながら答えた。

「坊主、なんか武器は持っているか?」

「え、あ、このぱちんこ、いえスリングショットなら…」

 僕の答えを聞くとガザシさんは自警団本部の受付の奥へ入り何かを探して戻って来る。

「ふん、悪かねえが…今回の魔物の気配はちっとばかし強い感じがするからな。こいつを念のため渡しておく。いいか?念のためだ」

 手の中に滑り込まされたのは冷たく固い感触。

 あの夜市で掴んだものよりも重い、武器マジックガンだった。

 水鉄砲みたいな軽いおもちゃじゃない夜市で使った短銃より一回り大きな本物の魔拳銃に無意識に手が震える。

「いざってときはこいつで自分の身を守れ。使うんだぞ?」

「は、はは、はい…っ」


 ガザシさんの大きな手で銃を握った手を包まれて、その暖かさにほっとする。

 一人じゃないこと。

 魔物と戦うためじゃなく身を守るために使えと言われたこと。

 それらを脳に浸透させる。

 僕はこの異世界で死ぬんじゃない。

 生きると決めたのだから。

 震えがおさまったのを見てとったガザシさんが立ち上がる。

「そんじゃ、避難行動開始だ、行くぞ坊主!」

「はい!」


 物陰に隠れ細い路地を抜け、後少しというところで地響きのような低い重低音の咆哮が聞こえた。

「…グオオォォオ…!」

「チッ、ここまで来やがったか!」

 ずしーん、と地面が揺れて走る足が絡まってつんのめる。

「うっ、うわぁ!」

 頭上に影が落ち恐る恐る振り返ると暗い穴から生臭い風が吹き付けられる。

 それが魔物の顔の限界まで開かれた口だったとは後になって気づいたことだ。

 僕を襲ったのは二階建ての家くらいありそうな巨体と長い尻尾を持つ大蜥蜴と呼ばれる魔物だった。

 黒い粘液をずるずると垂らして動き腐臭を漂わせている。

 まるで蜥蜴のゾンビみたいだ。

 顔面より大きく開く口には鋭く長い牙が唾液を垂らして光っている。

「危ねえ坊主!」

「ひっ!?」


 現状の把握なんて出来ていない僕の目前にガザシさんが飛び込んでそのまま彼に抱え込まれた。

 ガザシさん越しに見える大きな影はちっぽけな僕よりがありそうな方へ狙いを定めて牙をたてる。

 ぐしゃり、とガザシさんの肩が食いちぎられ、魔物の涎とヒトの血が咀嚼と共にぼたりぼたりと垂れる。

「…ッッ!ぐ、ぅ、逃げ、ろ、坊主…」

「ぁ…ぁあ…ッガザ、シさん…」

 身を呈して庇われながら僕はただ恐ろしさで身動きできずにいた。

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