この小説はドロドロとした人間関係を甘いブラコン女子高生の視点で描かれており(違うこともあるがかなり感情的な人物であることに変わりはない)、そのギャップが魅力の一つであると思う。
また自宅にいる兄とは関わりなく表向きには事件が終わり、兄の心理学による見立てが始まるという構成も読んでいて面白いと思った。
そして何より良いと思ったのはこの小説がミステリでありアンチミステリである一番の要素として、兄の見立てこそ述べられあたかもそれが真実かのように思ってしまった頃に、兄が再度思考実験に過ぎないことを告げることだ。
つまりは一応の解決を見せた事件に別の解を与えた上で真相が謎のまま終わるのである。
無論主人公たる妹の愛らしさも大きな魅力ではあるが、私はこの決して真相を読者に伝えずに終わるスタイルを一番良い要素としてあげたいと思う。
もし未読でこのレビューを見てしまった方には少々ネタバレ気味になってしまって申し訳ないが、1幕だけでも読んでみてその魅力を味わってみて欲しい。
読み始めて、ニヤリ。
ふふふ、アームチェア・ディテクティブか。さあ、この椅子の座り心地は、どうかな?
読み終えて、やはり、ニヤリ。
やべえ、この安楽椅子、すげえ、いい!
ミステリという枠に、キャラクター小説、という定義(敢えて、ここではコンプレックスと読んで下さい)が、しっかり収まっている。
行動する妹、思考する兄。
静と動。
しかし、一人称形式であるから、妹の知りうる情報でしか、兄は判断出来ない。
それこそが、この作品の肝だ。
解き放たれた思考は、自由。ときに、それは、我々の常識の先を行く。
そう! 見えないからこそ、見えるものが、ある!
結末は、カタルシスがなければいけない。だが、カタストロフも、また一興。どちらが、お好み? ならば、貴方は、読まなくてはいけない。
もう一度言う。
事実が、真実とは、限らない。
そして、俺は、妹萌え!!!(あー、ごめん、格好付けたのに、台無しだよ、これー!)
普段ミステリーを殆ど読まない私ですが、本作はとてもすらすら読むことができ、さらに最後まで楽しく読めました。これはなにより、本作がミステリーというジャンルを超えて、小説として、娯楽としての楽しさを内包しているからでしょう。
魅力的なキャラクターが織りなすキャラ同士の掛け合い、状況説明の的確さと、巻き起こる事件の不可解さ。そして一筋縄ではいかないようで、すとんと落ちる解決編……。
どれも読者のことを配慮して書かれてあり、たとえば私のようなミステリー初心者でも、ひっかかりなく読めるように書かれていることがよくわかります。
万が一ミステリーというジャンルで本作を回避している方がいらっしゃれば、それは全くの間違いであると言えるでしょう。
単純に面白い小説を読みたい!
そう思っている方は、ぜひ本作を読んでみて下さい。
『面白い小説』がここにあります!!!
主人公である、足の不自由な少年『涙』と双子の妹で重篤なブラコンの『泪』。
事件に巻き込まれる体質の泪が出会った事件の顛末を、部屋の中で動けない涙が耳にする事で物語は進みます。
涙が何かをする訳でもなく事件の捜査は進み、物語の中で事件は解決します。
しかし、現場に居ないからこそ涙は思考を巡らせます。
自身の考えが偏る傾向にあるのを自覚しつつ、彼が行う『思考実験』。
その解決は正しかったのか?
黒幕の存在やミスリードは?
涙の類推が正しい証拠はひとつもありません。これはあくまで思考実験という名の空想なのです。
しかし、読後感に漂う不安感は。
ただ、ミステリアスであること。
それがミステリーの原点であるとするならば、この作品ほどのミステリーには中々お目にかかれないのではないでしょうか。
双子の兄妹が心理学的観点から殺人事件の謎を解くミステリーです!
妹の泪ちゃんがブラザーコンプレックスというキャラクター。お兄ちゃんの涙くんは、ひょうひょうとした語り口に好感が持てます。(過酷な設定のため、こういう性格になったのかなと深読みしたりしました)
設定(ふたりの過去、家庭事情など)のわりに、ふたりの闇のないキャラクターが好きです。楽しく読みたい派なので、全部が全部リアリティーを追及しなくてもいいのかなと。重くなっちゃうから。
あと、涙くんの口癖も好き♬
さて、第二幕ですが、密室、白雪姫コンプレックス、、、などミステリファンには興味深い内容の構成になっています。
心理学を駆使して、謎を解く。。面白いです!!
欲を言えば、ラストを決めて下さると読者的に気持ちがいいかなってちょっと思いました。
それにしても語彙がとても豊富で、文章に引き込む筆力も強い。常にトップランキングを維持しているのもわかります。理由は必ずあるものです。
読者を引き付ける引力はすでにお持ちなので、このままカクヨムミステリ部を引っ張って頂きたいと思います!
心理学を使って事件を解決する。
コンセプトがまず面白い。
推理物としては物的トリックの割合を上手く調整して無理なく成り立っていると思う。妹の性格も書き割り的なキャラクターとして見れば面白い。
だが、どうにも頭でっかちという印象が拭えない。安楽椅子ものだからか、と思ったがそうでないかもしれない。
ざっくり上げて以下の二点である。
ひとつめ。作中で使われているのはユングとフロイトだ。この二者は心理学者として非常に有名であるし誰もが知っている。確かにキャッチーで分かりやすくはあるが、現代の心理学と照らし合わせてみると古いのではないか? と感じざるをえない。手元にある心理学の入門書を私も開いてみたが、ユングフロイトにとどまらず大量の学者の名前、また統計結果が活用されている。本屋にある心理学の一般書ですらもっと多様な学者のものを取り揃えている。
加えて、混乱を招くのは、兄涙のスタンスだ。ユング、フロイトを初っ端からクズ呼ばわりした割には事件関係者の心理をユング、フロイトの理論で定義してしまっている。つまり彼のスタンスが見えて来ないのだ。だからユング、フロイトを信頼して良いのかどうか、読み手として混乱してしまう。
また彼に留まらず精神科医の母親ですら古典とも言うべきユング、フロイトに頼り切った人間分析をしているのももったいない。普遍的無意識の部分など、これだけをそのままの理論で使っている医者はいるのだろうか? 多角的な切り口を求めてしまうのは読み手としての贅沢なわがままだろうか。涙を肯定する役割ではなく、むしろ、主人公達の克服すべき存在としてグレートマザーのアーキタイプを求めたくなる。
結果として人の心を読み解き深めるための心理学を用いているにも関わらず、描かれるのは紋切型な人物になってしまっているように見える。
またシャドウなど用語の活用に疑問を覚えた。
ふたつめ。どんでん返しの章について、わざわざ今まで使ってきたユングとフロイトを放り出して(二幕ではそうではないが)、邪推だ思考実験だと前置きして別の結論を持ち出し、解決した事件を迷宮入りにする目的が不明である。読み手に正確な事件の全貌を見せず、こういう可能性もある、と放り出すのは推理物としてフェアと言えるのだろうか。これはキャラクターのスタイル、ではなく、書き手の力量の範囲として仮説の挟まる余地なく事件を解いて見せてこその推理物ではないだろうか。
以上、気になった点をあげたが、総じて難しい理論張ったものをよくミステリーとしてまとめ上げていると思う。理論で事件を鮮やかに解く探偵を読みたい方にお勧めである。
6/5 新章と改稿に対して評価を増やしました。今後の活躍をさらに楽しみにしています。
------
安楽椅子探偵である兄を溺愛している妹が、兄にアドバイスを貰って殺人事件を追跡するミステリである。
キャラクターは個性的で、かき分けがはっきりできている。昨今のライトノベルによく見られるタイプをおさえており、その分野に慣れている読者には抵抗なく読めるであろう。
トリックには複数の仕掛けが込められ二転三転する展開となっており、伏線の回収も丁寧で、ミステリとしても一定の水準は満たしているように思えた。また本作ではユングなどの心理学を援用した推理を取り入れており、読者の知識欲を刺激する方法として一定の成果が期待できると評価したい。
ただし、作者の心理学にまつわる医療関係者や警察組織について、誤りと不自然さが散見されたので、ネットでの検索はもちろん、本職への取材や本職の書いた文献にあたり、知識を深めて欲しい。タグにエセ心理学とあるが、そうした逃げを打たず、心理学なら心理学としっかり向き合い、確固たる武器としてよりよい作品を目指せる内容である。
特に冒頭で推している心理学を最後まで使い切らず、途中から他のミステリと同様の論理で真相に至っている点は残念である。正確な知識を背景として、読者になるほどと思わせる説得力を持たせて欲しい。
この作品群でもう一つ気になったのが、主人公、泪の描写である。端的に言うと、兄への愛であれだけ暴走しているのに危なげなく結果に到達してしまうので、鼻持ちならないキャラクターに見えた。真相はさておき、恨みがあっても病人にたいして不遜な態度をとるのはいただけないし、友人の不幸に対する反応も表面的過ぎる。保健室登校を本人の問題と考えるのも、フィクションとして良い表現とは言いがたい。こうしたモラルを疑うような記述は、泪への不必要な反感をかう大きなマイナス点である。兄以外の人間に価値を見出さない性格は特徴的ではあるものの、それだけでは魅力にならない。
泪の特徴を物語に活かすために私から勧めたいのは、兄への愛を大失敗に繋げることである。兄を自慢して嫌われ、兄をかばって犯罪に巻き込まれ、兄以外をないがしろにすることで死にかける。そしてそれを泪に独力で克服させるのである。例えば携帯電話をなくしたところで犯人と鉢合わせたり、兄自身を誘拐してしまう方法もある。それによって読者は泪に同情し、兄への愛を認め、応援し、泪の歪んだ愛情を許せるようになる。
娯楽作品では主人公をひどい目に合わせるのは鉄則である。大天才とかモテモテとか俺tueeeといわれる主人公でも、それは設定上の話であり、本編内では苦労して失敗して負けて死にかける役どころでなければまず物語は面白くならない。主役を極端に優遇するならホームズもののように語り手を別に置くか、一部の特殊なジャンルと考えるべきで、それらはおそらくこうした作品に馴染む方向ではない。
気になる点をいくつか述べたが、ミステリとしての基本及びライトノベルの基本をおさえていることと、知識を吸収する意欲があることから、克服は容易かと思われる。間をおかず知識を取り入れ、傑作につなげて欲しい。
なお、私の身近な人に臨床心理士と警察がいるため、いくつか作品に対する指摘をもらえました。書いて良い場所を教えてもらえればお伝えします。
うおお……。
最後の一文にゾクッとしたぁ……。
心理学に基づいた、緻密なミステリー。
織田先生の作品は、本当に緻密に出来ている。
本格好きにも愛される作品だと思う。
個性的な登場人物の中で繰り広げられる、陰惨な事件。
語りは自他共に認める、超ブラコンの妹・泪。
甘えた口調で語られるため、事件のインパクトはかなりの衝撃がある。
そして、最も曲者だと思うのは安楽椅子探偵の兄・涙。
兄妹の掛け合いは微笑ましく、一見すると『あるある』が口癖の純粋な少年に見える。
けれど、一歩引いた目で見ると妹の扱いに長けていて、事件の終末に語られる彼の推論には毎回背筋が凍るような思いをする。
甘さと辛さがミックスされたバランスの取れた作品。
そして、最後の最後まで読み手を掴んで離さない展開。
これは、二度読みからが絶対に面白い!
読ませていただきました。
妹を庇い大怪我をしてその人生を大きくねじ曲げてしまった兄。そしてその兄を心から慕う妹の話です。
ミステリーですのでもちろん推理するのですが、役割的には、思考する兄。行動する妹。といった感じでしょうか。
完璧なまでに純度100%の妹による一人称視点。もはや読者に話しかけているレベル。とても入り込みやすかったです。
またこの作品のレベルをさらに底上げしているのは、「カイン・コンプレックス」や「シャドウ」といった心理学用語。私自身いくつか知っていますが、もちろん知らないものもありました。それを一つ一つ台詞の中で説明し、読者を置いてきぼりにしない配慮はとても素晴らしいと思いました。
一人称は少し苦手なのですが、それを補って余りある魅力がある作品です。
唯一難点を挙げるなら、1話が長い事でしょうか。実際の本であれば気にはならないのですが、どうしてもPC、携帯端末で読むと途中で息をするポイントが欲しくなってしまいます。
他の方のレビューにも書いた事ですが、物語の「起承転結」に合わせて話を区切るのも一つの手かなと思います。
あくまで私ならそうするという話です。
改めて、とても面白かったです。
長文、失礼しました。