第拾漆話 【1】 僕達は美少女? 美女?

 第七地獄の憂鉢羅も突破した僕達だけど、あんまり力で勝った様な気がしないです。


 主に雪ちゃんの、例の殺人かき氷で突破しましたからね。


「ちょっと。まだ感想、聞いてない……」


「雪ちゃん、ツンツンしないで」


 そしてあろう事か、雪ちゃんはその場にしゃがんで、憂鉢羅の体を突いていました。起きちゃうから止めて下さい。


「しょうが無い……今度聞こう」


 今度も無いと思う……。

 そして、ようやく諦めた雪ちゃんが、その場で立ち上がろうとした瞬間、彼女がバランスを崩し、そのまま後ろに倒れてきました。


「危ない!」


 それを見た僕は、咄嗟に雪ちゃんの元に向かい、雪ちゃんを抱きかかえます。


「あれ? 力、入らない……」


 確かに。雪ちゃんの体が、何処か熱っぽいです。まさか、無理していたんじゃないのですか?


「雪ちゃん、大丈夫ですか?!」


 すると、心配する僕の後ろから、カナちゃんが呆れた顔をしながら言ってきます。


『雪、妖気の使いすぎね。あの時と一緒』


「うっ……」


「あの時? カナちゃん、どういう事?」


 昔、雪ちゃんに何かあったんですか?

 もしかして雪ちゃんは、能力を使い過ぎたら溶けちゃうとか、そんな恐ろしい副作用を持っていたりするのですか?! それならーー


『椿ちゃんと出会う前、自分の作った料理を馬鹿にされて、クラスの皆を凍らせようとしたよね』


「雪ちゃ~ん……」


 目をそらさないで下さい。単純に半妖なのに、妖気を使い過ぎたからじゃないですか。

 その料理も、どうせ辛くし過ぎてそうなったんでしょうけどね……完全に逆ギレですからね、雪ちゃん。


『だけど当時は、ここまでの妖気と妖具は無かったし、そんな事をしようとしても出来なくてね、妖気だけが激減してダウンしちゃったよね?』


「若気の、至り……」


「僕と会う前だとしても、そんなに昔じゃないですよね……」


 呆れながら言うカナちゃんに合わせて、僕も呆れ顔です。

 妖気を使い過ぎて、妖気切れを間近になっているから、体が熱っぽくなっているんです。半妖の人達は、こんな風になるのですね。


「とにかく、雪ちゃんもここでリタイアですね」


「うぐ……でも」


 するとそこで、龍花さんが僕の横にやって来て、僕が肘枕している雪ちゃんに話しかけます。


「雪さん、椿様の言う通りにして下さい。あまり椿様に、無用な心配をかけないようにお願いします。そうしないと、私が無理矢理その意識を落として、強制リタイアさせますよ」


「はい……」


 龍花さん、怖いです。

 だけど良く見たら、龍花さんの表情はどことなく悔しそうです。


 それもそのはず。これだけの人数が居るというのに、地獄の突破や攻略を、中々全員で出来ないのです。


 それだけ、ここ十極地獄がキツ過ぎるのです。

 龍花さんは、そんな不甲斐ない自分に、腹を立てているのでしょうか? だからって、それで雪ちゃんにキツく当たるのは駄目ですよ。


「龍花さん……僕の友達をいじめるなら、泣くよ?」


「はっ!? す、すみません、椿様! そんなつもりでは……!」


 どうやらこの人達にとって、守るべき人を悲しませる事は、御法度のようですね。

 僕がそんな事を言ったら、龍花さんが慌てて謝ってきました。


「椿ちゃんも。龍花さん達の扱いが分かってきたみたいね」


 そりゃ、わら子ちゃんと龍花さん達のやり取りを見ていたら、自ずとね。


「分かった。私はここで、鞍馬天狗の翁達を待ってるわ。椿に、膝枕して貰えたし、それで良しとする」


「あっ……」


 そう言えば、自然と雪ちゃんを膝枕していましたね……そしてそれを、羨ましそうにしながら見ないで下さい、カナちゃん。


「とにかく雪ちゃんは、ここで大人しくしていて下さいね」


「は~い」


 僕はそう言いながら、雪ちゃんを壁にもたれかけさせます。まるで風邪を引いたみたいに、雪ちゃんの体が熱い。

 これって本当は、フラフラするんじゃないんですか? 全く……無茶をしないで欲しいです。


 その後に玄葉さんが、玄武の盾を雪ちゃんに展開するのを確認し、僕達は先へと進みます。


 ーー ーー ーー


「迷路は、もう出ないですね。良かった」


『その様じゃな』


 次の地獄への階段を下り終えた僕達は、辺りを確認します。


 次で8個目。僕1人では、ここまで妖気を温存して進めなかったと思います。

 駄目だな……僕は。皆を危険な目に合わせたくないから、ここに1人で来たのに。皆着いて来ちゃって、しかも頼っちゃっている……。


 でも、それだけお人好しなんです。鞍馬天狗の家の妖怪さん達は。


『椿よ、どうした? 何をにやついている?』


「ふひゃいっ?! いや、べ、別に! にやついていないです!」


 白狐さんがおかしな事を言うから、また変な声が出ちゃいました。うぅ、恥ずかしい。


「椿様。口角が上がっていたので、間違いないですよ」


「トドメを刺さないで下さい、玄葉さん」


 とにかく、こんなに和やかに進んでいる場合じゃないんです。次の地獄がそろそろ見えてきますよ。


 僕達の目の前に、その地獄の入り口も見えたのですが、なんとその入り口に、大きな扉がありました。更にその扉に、何かが書いてあります。


≪この先の地獄は、美形の方のみの地獄です。不細工な方は、他の地獄に行って下さい≫


 という事は……。


「ここは行かずに、次の地獄に進んで良いのでしょうか?」


『椿よ。お主、自分の事を不細工と思っているのか?!』


「いや、そうじゃないですけど……でも、美形ではないよね?」


『無自覚か……』


 あれ? 白狐さんが驚いていて、黒狐さんは呆れちゃっています。なんで?


「椿様。椿様はどちらかというと、美形な方になりますよ」


「えぇ?! そ、そんな……」


 う~ん。でも美形の人って、もっと大人っぽくて、綺麗な人の事を言いますよね? 僕はちょっと違うような……。


『とにかくだ、椿よ。美人や美少女なら、この地獄からは逃れられんという事だ!』


 すると、白狐さんがそう言った後に、ある場所を指差しました。

 そこは、細い抜け道の様になっていて、その美形じゃない人達は、そこから先の地獄へ進めるようになっていました。


 なんだか差別的で釈然としないけれど、なんの隔たりも無いので、別にこのまま進めるんじゃないのですか?


「白狐さん。こんなの、通って下さいと言っているようなもーー」


 そう言いながら、僕がそこを通ろうとした時、いきなり目の前に壁がせり上がってきて、そこに張り付いている、凄い形相をした鬼の顔が叫んできました。


「貴様は、通れん!!!!」


「うひっ!? 白狐さ~ん!!」


『だから言ったじゃろう?』


 うぅ……僕って、そうだったのですね。

 白狐さんに訴える様な目で見ても、諦めろといったような表情をされました。


「ふむ……」


 あっ、でも。龍花さんまで試しに向かっています。いや、あなた達も多分駄目ですよ……。


「……通れん!!」


「やはり、駄目ですか……もし通れたら、ここが開いている間に、皆さんに滑り込んで貰おうと思ったのですが」


 そんな事を考えていたのですか?

 そして、龍花さんは通れると思ったのですね。そんな凜とした美女なのに……。


「仕方がありませんね……この差別的な地獄に行くしかない様です」


 そして皆が、次の地獄の扉に向かったのですが、その時にまた、あの鬼の壁が怒鳴りました。


「貴様も、通れん!!!!」


「椿ちゃ~ん! 私の何処が美人なの? こんなにも素朴で、田舎っぽい子の何処が?!」


「おかっぱのよく似合う、和風美少女が何を言ってるんですか?」


 まさかわら子ちゃんまで試すとは思いませんでした……。

 仕方ないので、僕はわら子ちゃんの手を取って、一緒に次の地獄の扉に向かいます。


「和風美少女って言ったら、椿ちゃんでしょ」


「それはなにも、1人だけの称号じゃないですからね? それに僕は、どちらかというと和風狐娘ですよ」


「狐美少女でしょ?」


 どっちでも良いです。そんな言い合いをしている場合じゃないんですから。

 それに、こんなやり取りなんかしていたら、一部の人達から怒られますよ。贅沢な悩みだってね。

 だから、美少女とか美人って言われたら、素直に受け止めましょう、わら子ちゃん。


 そして、何だか照れ顔になっているわら子ちゃんの手を引きながら、僕達は次の地獄の扉を開けます。

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