第拾肆話 【1】 僕の相棒のレイちゃん

 この十極地獄という鬼達は、全員キツい性格だと思っていたけれど、とんでもなく変態な方もいましたね。そもそもが戦いを好む鬼なのに、何でお尻好きなんでしょう?


「ふっ……次はお前か。良い尻の少女よ」


「お尻お尻うるさいですね。なんでそんなにお尻が良いんですか?」


「ん? 分からんのか? 尻の形によって、強さが分かるからさ。骨盤は、体の全バランスを取るのに重要なものなのだ。その骨盤がしっかりしていないと、良い尻にはならん。良い尻は良い骨盤の証! そして、バランスの取れる体付きという事! つまり、踏み込みもしっかりしているから、強い攻撃を放てるという事だ!」


 何だか嘘臭いですね。凄く力説しているけれど、本当かどうか怪しいものです。だけどさっき、肉付きの方で喜んでいましたよね。


「えっと……肉付きで喜んでいたのは?」


「それは、ただの私の好みだ」


 やっぱりただの変態鬼でした。

 という事は、さっき力説した事も怪しいですね。誤魔化す為に、適当な事を言ったんじゃないのですか?


 いや、今はどうでも良いですね。


「何でも良いです。とにかく僕達は、この先に進みます」


「それは私を倒してからにしろ!」


 すると、須乾提がそう叫んだ瞬間、その姿が急に消えました。

 今目の前にいたのに……凄いスピードです。移動の時の土煙も無いから、どっちに行ったかすら分からないですよ。


「椿様、後ろです!」


 その時、虎羽さんがそう叫んできました。分かっています。こういう場合、後ろから来るのが定石です。だけど……。


「くっ……!!」


「ほぉ。良く分かったな」


 危なかった……やっぱり、真正面から殴ってきましたね。何とかその攻撃を防ぎましたよ。

 虎羽さんが叫んだ後、一瞬後ろを見たら、確かに須乾提の姿がありました。でも、また瞬時に消えたのです。


 この状態で、相手の後ろを取るのは定石手段で、読まれやすい手なのです。

 相手がそこそこのやり手なら、この場合は後ろと思わせて前を取る。これも、定石手段と言えばそうだけど、相手の力量を更に測るには、十分かも知れません。


「なる程。戦い慣れているのか?」


「そうでも無いです。こんな手に引っかかるのは、馬鹿正直な人だけです」


 だけど、僕がそう言った瞬間、虎羽さんが項垂れました。

 あれ? もしかして虎羽さん。この方法でやられたのですか?! あの、悪く言った訳じゃ無いけれど……ちょっと意外でした。


「ふふ……どうせ私達は、真面目に任務をこなし、馬鹿正直に報告をするだけですからね……真面目が良いんです。正直が良いんです。何も悪くは……」


「あぁぁ……虎羽さん、ごめんなさい。戻って来て下さい!」


 僕のせいで虎羽さんが……でも、あれ?


「ふん。仲間との連携が取れていないようだな!」


「おっと!? そうでもないですよ!」


 虎羽さんの方が、僕より長く生きています。僕の言葉くらいで、ショックは受けませんよね?

 さっきは本気で心配したけれど、目が落ち込んでいる目じゃなかったし、敵に集中しろと睨みつけられました。どうやらあれは、作戦だったようです。


 そして僕は、再度攻撃してきた相手の手を掴み、尻尾をハンマーに変化させます。

 黒狐さんの力で妖術を使う時は、やっぱり黒くなっちゃいますね。白狐さんの力を使う時もそう。僕の力は、まだまだ不安定です。


「黒槌土壊!」


 そして相手の鬼に向かって、そのハンマーを叩き込むけれど、簡単に防がれてしまいます。まぁ、防がれる事前提で打ち込みましたから。

 だって、その鬼の後ろには、既に虎羽さんが構えていましたから。僕の後ろに居たのに、瞬時に敵の背後に回るなんて、白虎の力は凄いですね。


「白虎爪、槍牙そうが!!」


「だから、甘いと言っている!」


「へっ? って、ふひゃっ?!」


 虎羽さん、それ危ないです!


 真っ直ぐに腕を伸ばして、その手の甲に付けた鉤爪を、鬼に向かって突き刺すようにしながら飛び込んで来ましたからね。

 ただ、鬼の前には僕がいるから、相手の鬼に避けられて、僕の首元ギリギリを掠めていきましたよ。


 相手の鬼がしゃがんで避けることも、想定しておくべきでした。危なかったです。


「ふん!」


「ぐっ!!」


 しかもその後、その鬼が思い切り、僕の顎を蹴り上げてきました。でもそこは、絶対に守るべき場所の1つでもあります。脳を揺らし、相手の体勢を崩させるには、そこが1番ですからね。

 だから酒呑童子さんとの修行でも、そこを守れと徹底的に教え込まれました!


「あっぶない……!」


 ただ、相手の攻撃の速さもあって、腕で防ぐ事は出来なかったです。だから咄嗟に、顔をちょっとだけ後ろに引いて、脳が揺れるのだけは防ぎました。

 顎の先にはかすったから、ちょっとだけ攻撃を貰ったけれど、口の中を切ったくらいです。


「ほぉ。中々ーーんっ?」


 それからとりあえず、相手の片手は掴んでおきます。だからこのまま、白狐さんの力で……!!


「たぁ!!」


「甘い」


 ーーって、それ避けます?!


 僕の渾身の右アッパーを、受け止めるんじゃなくて避けましたよ。

 実はこっそりと、影の妖術で相手を固定していたのです。それなのに、易々と避けられた……。


「ふっ!」


 あっ、ちょっと……乙女のお腹を殴る気ですか?!

 だけど、1人眼中に入れていないですね。流石にその須乾提の態度に、虎羽さんがちょっとだけお怒りのようです。


「私を無視するとは、良い度胸ですね」


「全く。貴様との勝負はもう着いている。敗者が割り込むな!」


 すると須乾提は、僕への攻撃の手を止め、後ろに立っていた虎羽さんに攻撃をしました。

 腕を振り払い、そのまま虎羽さんの横腹に一撃です。後ろを見てもいないです。そんな……。


「がっ……!? あっ……」


 だけど、虎羽さんも決して弱くはない。須乾提の攻撃に耐え、その腕を掴みました。

 助かります、虎羽さん。これで相手の腕は、2本とも僕達が掴んでいます!


「ふっ……私はまだ負けていませんよ」


「やれやれ。しつこい……この難産型が」


 んっ? 今なんて言いましたか?


「それは、どう言う……」


 どうやら、虎羽さんに向かって言ったようで、首を少しだけ後ろに向けていました。


「だから、貴様は難産型だと言ったんだ。見れば分かる。その腰の形、位置、肉の付き方。どれも駄目だ。お前は出産の時に、苦労をするタイプだ」


 あぁ……やっぱりお尻の話でした。と言うか、これって……。


「それに比べ、この狐の小娘は安産型だ。素晴らしいぞ! 肉付きも、形も位置も、何もかもが全て満てーーがぁっ?!」


「「この、セクハラ変態鬼!!!!」」


 人間の会社に1人は居そうなレベルの、セクハラ上司って感じです……。

 今は居るかは分からないけれど、そう言う発言を平気でする上司が、たまにいるらしいです。

 何だかこの鬼から、それに近いものを感じたので、虎羽さんと一緒になって、前後から挟むようにして殴りつけました。


「ふっ……何も恥じる事はない。立派なーーおぅっ?!」


「まだ言いますか!」


 まさか、それを続けてくるとは思わなかったですよ。

 だから、渾身の力を込めてお腹を殴りつけました。それでも相手は、平然としています。全く効いていないです!


「……しかし、そろそろ面倒くさくなってきたぞ。終わらせるか。ふっ!!」


「えっ? かぁっ……!?」


「虎羽さん!!」


 油断していたわけじゃないけれど、須乾提の体から変なオーラが出た瞬間、相手の片腕を掴んでいた虎羽さんの体が浮き上がり、そして地面に叩きつけられました。


 なに? いったい、何が起こったのですか?!


「ふぅ……さて」


「えっ? かふっ……!」


 お腹に、強い衝撃? 痛い……白狐さんの能力で、自分の防御力を上げているのに、吐いてしまうそうです。そして思わず、須乾提の腕を離してしまいました。


「本気でいこうか」


「へっ? ぎゃぅっ?!」


 その後続けて、思い切り顔面を殴られてしまいました。しかもそのまま、僕は激しく吹き飛んでしまい、大量の亡者達の中にーーと思っていたら、その先にまた須乾提がいます。いつの間に?!


「くっ……神風の禊!」


「なんだ? このそよ風は」


 これは神術だから、金色の毛色になる。あんまり多用すると暴走しちゃいそうだから、連発はしたくないのです。

 それと、この妖術を使ったのは、相手を攻撃するのではなくて、吹き飛んでいる僕の体を停止するために使ったのです。


「なる程な。しかし、あんまり意味が無いぞ」


 そう言った瞬間に、須乾提が着地した僕の目の前まで一瞬で移動して来て、そして追撃してきました。

 確かに、あんまり意味がないみたいだけれど、それでもーー時間稼ぎには十分でしたよ!


「つっ……!! あっぶない!」


「なに? 俺の拳を避けただと?」


 凄くギリギリでしたけどね……だけど、何とか溜め終わったようです。


「ありがとう、レイちゃん」


「ムキュッ!」


 そう。レイちゃんは、霊気を妖気に変化させ、それを僕達妖怪に与える事が出来ます。

 そして、ここには大量の亡者達が、そして大量の霊気があります。それをレイちゃんは、必死で集めてくれていたのです。


 その妖気をふんだんに使い、僕は白狐さんの力を最大限にまで引き上げました。


「すぅ~ふぅぅ……!!」


 そして僕は、ゆっくりと深呼吸をし、須乾提を睨みつける。


「さっきとは違うな……その首元のやつは、ただのアクセサリーじゃないという事か」


「その通りですよ。あんまりレイちゃんを舐めないで下さい!」


 その後、須乾提にそう叫ぶと、僕は構えを取ります。これで最後です。決着を着けます!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る