第拾参話 【1】 圧倒的な戦力差

 第六地獄の管理者、須乾提から逃げまくっている僕ですが、一応戦おうとしたら、それなりには戦えると思います。酒呑童子さんと修行したからね。

 相手の攻撃は見えているので、それにカウンターするように攻撃をしたら良いのだけれど、相手のこのスピードとパワーの前では、余程早くて重い攻撃じゃないと、恐らく仕留められないですね。そして今の僕に、そんな妖術は無いです。


 となると……やっぱり、皆の力を借りないといけませんか。

 結局1人で乗り込んでも、ここで捕まっていたかも知れません。少し前の自分に反省です。


「今皆は、いったいどこに?」


 群がる亡者達を散らしながら、僕は辺りを確認して走って行きます。

 散らしているのは僕じゃないけどね。勝手に亡者達が離れて行くんです。原因はーー


「はぁっっ!!」


「うひゃぁっ!!」


 この、ひたすらに破壊活動しかしてこない、チート級の鬼のせいです。

 でもそのお陰で、亡者達の中に紛れてしまった皆を、探し出せるかも知れません。


「どうしたどうしたぁ!? 逃げるだけか! この弱者が!!」


 こんのは無視です、無視。安い挑発には乗りませんよ。


「んっ? 何だあいつらは?」


「えっ……?!」


「はっ。ようやく足を止めたな」


 あっ、しまった。僕の馬鹿! 相手の策略じゃないですか! こんな簡単な手に引っかかるなんて!

 でも、それだけ必死になって探していたから、つい鬼の言葉に反応しちゃったんだと思います。


「くっ……!」


 だからって、このまま殴られるのは嫌ですよ。

 僕は急いで火車輪を展開し、殴り掛かってくる須乾提の拳に向かって、思い切り自分の拳をぶつけました。


「狐狼拳、煉獄環!!」


「おっ……!? おぉぉぉ! 良いぞ!! こんな技を隠し持っていたとはな!」


「うぐぐ……!! 妖具生成!!」


「ぬっ?!」


 片手で相手の攻撃を受け止めるのは、楽じゃないですね。

 だけど、そうまでして片手を残したのは、これをするためなんです!


「てぃっ!!」


「……ん?」


 あれ? 僕は鬼の股間を、妖具生成で出したけん玉を使って叩いてみたのです。紐で繋がっている玉で、もう遠慮無く思い切りね。繋がっている玉も、かなり硬いものにしてみたのです。それなのに、鬼は平然としていて、更に拳に力を入れてきます。


「わ~わ~わ~!!」


 思い切り押せれている! ちょっと、何でなんですか! 急所に直撃のはずなのに、何で平気なんですか!


「なる程。人間でいう所の、急所狙いというやつか。だが残念だったな。俺達は、付いていないのさ!」


「えっ?」


 付いていないって……急所である股間に、何も付いていないの? それってもしかして……。


「ニューハーーわぁぁあ!!」


 更に鬼の拳に力が入っていって、一気に押し込まれています。


 どうやら僕は、言っちゃいけない事を言っちゃったようです!


「鬼に繁殖行為が必要だと思うか!」


「うぐぐ……た、確かに!」


 更に力を込めてくる須乾提を前に、そろそろ僕の方に限界が来そうです。腕がビキビキいって、かなりの激痛が走ってるので。


 だけどその時。


「椿様!!」


「ぬっ? ごぁっ?!」


 なんと須乾提の背中から、誰かが切りつけたみたいで、その鬼はのけ反りながら、その場で膝を突きました。


 いったい誰だろうと思ったけれど、この声は間違いありません。

 猛スピードで鬼の背中を切りつけたのは、艶のある黒髪を白いリボンで纏め、ポニーテールにしている、白虎の力を受け継いだ虎羽さんです。


 ようやく、敵の凄まじい攻撃から解放された僕は、相手の拳に押されていた、自分の右腕の状態を確認します。


 あぁ、良かった……骨が折れていたり、ヒビが入っていたりは無いようです。僕はそうやって、自分の腕を確認した後に、虎羽さんの方を見ます。

 いや、これは見たら駄目でした。僕は咄嗟に視線を逸らします。目が怖い……きっと物凄く怒っていますよ。


「椿様。視線を逸らさないで下さい!」


「ふぎゃっふ!!」


 首……!! 首がグキって!!

 虎羽さん、無茶しないで下さい。いきなり頭を掴んで、顔の向きを変えるのは駄目です。


「椿様……もう少し落ち着いて下さい。ここは敵地なんですよ……何とか合流出来たから良かったですが、もしそうじゃなければ、どうしていたのですか?」


「あ……うっ……その」


 虎羽さんの言う事は確かなんです。彼女の言う通り、皆と合流出来なかった場合、僕はズタボロになってでも、戦い続けていたでしょう。


「良いですか? 常に余裕を持ち、パニックにならないで下さい!」


「は、はい……」


 何故かお説教が始まっちゃいました。

 でも、これはしょうが無いです。だけどその前に、膝を突いた鬼の方の様子を……。


「くっ……俺が、攻撃された? 俺が……?」


 やっぱり、あれくらいでは倒せないでしょうね。それと、何か呟いているみたいだけど、早めに他の皆と合流した方が良いんじゃないのかな……?


「私だけ早く動けたので、椿様を探し回っていたのですが、ここの亡者達が避けていたのは、こいつでしたか」


「そうです。それと、酒呑童子さん並みの強さです」


「ほぉ……」


 あっ、ちょっと待って下さい。虎羽さんの目が突然、怪しく光りましたよ。


「という事は……? こいつを倒せれば、あの駄目妖怪の酒呑童子を倒せる? そしてそうなると、言う事を聞かすのも容易い?」


「あの……虎羽さん……?」


「それなら、戦う価値はありますね。さぁ、来なさい。地獄の管理者!」


 完っ全に、虎羽さんの闘志が溢れてしまっています。


「椿様。他の方達は亡者に挑まれていて、こちらへの合流は難しそうです。亡者を散らそうにも、亡者達が皆さんを移動させるようにしながら、攻撃をしていましたから」


 あぁ……要するに、亡者達が避けている時、他の皆もそのまま移動させていたんですね。攻撃でそう誘導しながら……。

 そうなると確かに、散らしている意味が無かったです。合流出来ると思ったのに。という事は、この管理者の鬼を倒さないと、皆と合流は出来ないという事ですか。


「うぅ、ごめんなさい……僕のせいで」


「本当ですよ、椿様」


 そんなにハッキリ言わなくても……いや、でも。ここはハッキリ言ってくれた方が良いですね。お陰で、覚悟が決まりましたから。

 それに、虎羽さんが来てくれたのです。それだけでも、勝率は上がっています。


「分かりました。それならもう、僕は逃げ回りません。戦って、こいつを倒ーー」


「ーーすのは私です」


 あの、虎羽さん? せっかく僕が気合いを入れていたのに、横から口を挟まないで下さい。


「いや、あの……虎羽さん?」


「良いですか、椿様。あれは、私が倒すのです。1人で倒せないと、あの酒呑童子を1人で組み伏せる事が出来ませんからね」


 あっ、また虎羽さんの目が怪しく光っている。虎羽さんってば、いったいどれだけ酒呑童子さんが嫌いなのでしょうか……。

 他の3人も同様に、酒呑童子さんを嫌っているけれど、虎羽さんはちょっと異常ですね。いったい何をされたのでしょう?


 でもだからって、虎羽さん1人で戦わせたら危ないです。もし虎羽さんが死んじゃったら、僕はわら子ちゃんに合わす顔が無いですよ!


「ちょっと、虎羽さん。ここは……」


「はぁっ!!!!」


「ぷぁっ?!」


 虎羽さんが凄い踏み込みで、相手の鬼との間合いを詰めちゃったよ。というか、その時の土埃で、僕の目に砂が入っちゃいました。


「おぉっ?!」


「白虎爪、輪牙りんが!」


 すると、虎羽さんがそう叫んだ後、物凄い衝撃音が聞こえてきました。だけど僕は、砂が目に入って見えないです……。


「つぅ……いたた。もう、虎羽さーー」


 何とか目に入った砂が取れて、何回か瞬きをした後、僕は虎羽さんに文句を言おうとして、顔を上げました。


 だけど、その目に飛び込んできたのは、信じられない光景でした。


「なんだ? たった一撃で終了か? 弱者が」


 虎羽さんがボロボロになっていて、片腕を掴まれたまま、相手の鬼にぶら下げられていました。ただ、相手の鬼の方が背が低いから、ちょっと高い岩に乗っているよ。


 それよりも、僕が目の砂を取っていた間に、虎羽さんが1回攻撃した後に、いったい何があったのですか?!


「くっ……うぐ。そんな、私でも見えないなんて……」


「虎羽さん!!」


 とにかく何とかしないと、この鬼の強さはやっぱり尋常じゃないです!

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