第陸話 【2】 第二地獄突破
あの後、美亜ちゃんの方は何とか止めました。
これ、起きたらまた暴走しちゃいそうですね。それに、怪我も酷そうですよ。
「白狐さん。美亜ちゃんの怪我は……」
『多少の治癒はした。命に別状は無い。しかし、すまん。今の我の妖術では、完治までは……』
「ううん。白狐さんが謝る必要はないです」
だって、白狐さんがそうなってしまったのは、白狐さんのせいじゃないですからね。僕のせいなんです。
するとその時、僕の尻尾を誰かが触った感覚がしました。いったい誰ですか?
「よし。それなら先に進むぞ、この馬鹿弟子」
酒呑童子さんでした! ちょっと、引っ張らないで下さい!
「きゅぅぅ……! ちょっと! 酒呑童子さん! 尻尾は引っ張らないで~」
「完全に記憶が戻っているんだろう? お前はもう、人だった時の感覚が無くなっているんじゃないのか?」
「あっ、そうですね。だから、尻尾は触らないで!」
それでも酒呑童子さんは離しませんね。
必死に酒呑童子さんに対して抵抗をしているのに……だけど、急に尻尾を掴まれている感覚が無くなり、引っ張られもしなくなりました。
「あれ? 酒呑童子さん?」
それを不思議に思った僕は、尻尾を引っ張っているはずの酒呑童子さんを見るけれど、そのいるはずの場所に、酒呑童子さんがいませんでした。
『椿! そこから離れろ!!』
すると今度は、黒狐さんがそう叫んできます。
いったい、何があったんですか?
とにかく、僕も黒狐さん達の方に行こうと、その場から離れた瞬間、僕がさっきまで立っていた地面が、いきなり何かで殴られたかのようにして、思い切り抉れて陥没ました。
「えっ?!」
それに僕がビックリした瞬間、今度は何かで殴られた様な衝撃が、僕の全身に響き渡り、そして左に吹き飛ばされてしまいました。
「あぅっ!! がっ……!」
そして、そのまま地面に叩きつけられ、転がって焼け焦げた木に激突しました。
いったい……何が?
まさか……相手の見えない金棒で殴られた? 無雲はまだ、倒れていないのですか?!
「ちっ……くしょう!! 完っ全に油断した!」
すると、僕とは反対側の方向から、酒呑童子さんが立ち上がりながら叫んでいます。
酒呑童子さんも吹き飛ばされていたんですね。だけど、それで無傷なのは流石です。
「無意味……無意味。もはやお前達の攻撃は、全て無意味。視界も無意味」
今度はどこからともなく、無雲の声が聞こえてくるけれど、その姿が何処にもないです。
あ、まさか……。
「うわっ!! っと、危ない……!」
辺りを見渡していたら、僕の頭上から風を切る音がしてきました。
だから、慌ててその場から離れたら、また地面が抉れましたよ。
「ほぉ、耳が良いですね」
「やっぱり、自分の姿も消して……あぅっ!?」
今度はお腹を金棒で殴られた? 一瞬吐きそうになっちゃいました。でも、僕はその場で踏ん張りましたよ。
「朱雀! 炎で椿様の援護を! 相手は物理攻撃が効かない。そうなると、酔っ払いのバカ鬼は役に立ちません」
「誰がバカ鬼だ。お前等……俺に辛辣だなぁ、おい」
確かに酒呑童子さんだと、この鬼にダメージを与えられそうにないです。
喧嘩しているのは放っておいて、わら子ちゃんの能力と、龍花さん達の援護で対応するしかないです。
「ゲホゲホ、今はそこですね!」
僕はお腹をさすりながら、再びけん玉を出し、神術で発生させた風を纏わせます。
今の所はこれでしか、相手にダメージを与えられていないですからね。あとはそのまま、見えない相手に向けて攻撃をするだけです。
「えい!!」
ただ、相手がずっとその場にいるはずがなかったです。
これでも攻撃に移るまで、10秒もかかっていないのですよ。それなのに、もうその場を離れるなんて。しかも見えないから、何処に行ったのかも分かりません。
「くっ……皆! 出来るだけ防御体勢を取って下さい!」
無雲が白狐さん達に攻撃するかも知れないと思った僕は、思わずそう叫ぶけれど、皆僕が言わなくても、既に防御体勢をとっていました。
『それよりも椿。お主はお主自身の心配をしろ!』
「大丈夫ですよ、白狐さん。分かってまーーあぐっ!!」
『分かっとらんではないか!』
今度は頭を殴られましたね……。
でもね、皆流石にもう気付いて欲しいかな。
白狐さんから貰った防御力を上げる能力。これも僕の妖気によって、数倍に跳ね上がっていますからね。
「いたた……」
そして、こうやって痛がっているのも、痛がっているふりなんです。
だって僕は、妖狐なんだもん。騙すのが得意なんだもん。あっ、そうそう。ちゃんと傷とかも付けておかないとね。
その後に僕は、黒狐さんの能力の術式吸収で、自分の妖術を吸収していき、それを強力にします。
これも強化されていていて、溜める必要が無くなりました。
残った問題は……。
「この鬼さん、どうやって捕まえよう……? ぐっ?!」
またお腹を殴ってきましたよ。女の子のお腹は、そんなに殴ったら駄目です!
とにかく、相手の姿が見えないとなると、影の妖術では捕まえられないのです。相手の影も無いですからね。どうやって消しているのでしょう……。
「椿様!」
すると今度は、空中から朱雀さんが声を上げ、
それよりも、朱雀さんの炎が僕の周りを囲うようにしているんですけど……もしかして、僕を守ってくれているんですか?
「相手に実体があり、炎の熱が防げないのなら、これでせめて椿様を……!!」
「ぎゃんっ?!」
朱雀さん。殴られましたよ? 炎の中に入られていますよ!
「そ、そんな!」
「無意味。鬼の体は頑丈で燃えにくい、少し熱いだけだ。地獄の番人の我等を嘗めるな」
「あっ……」
「朱雀さ~ん……」
まぁ、相手の攻撃は痛く無いですけど、それでもあんまり次々と攻撃されていると、白狐さんの能力が解けちゃうかも知れません。そろそろ何とかしないといけませんね。
う~ん、どうやって捕まえたらーーと、僕が考えていると……。
「なっ……! 何だこれは!? 蔦が……?!」
僕の右斜め前方に蔦が伸びていって、何かに絡まっていきます。って、そこに無雲がいるんですか?!
そして今度は、倒れて意識を失っていたはずの美亜ちゃんが、声を出してきました。
「ふふふ……つ~かま~えた! 押していると思って油断したわね! 足元がお留守だったわよ!」」
「美亜ちゃん!? ちょっと、大丈夫なんですか?!」
「あんたの方がボロボロじゃないの!」
あっ、そういう風に見せていましたね。妖狐専用の幻術でね。
だけど、その説明は後です。今は無雲を倒さないと!
「くっ……!! バカな! 何故私に絡み付いて……!」
「残念だけど、私の呪術は植物にかけるタイプでね。生き物を見つけたら、それに絡み付いて動けなくするのよ。死ぬまでね」
「だが、私の体は……!」
「ふふ。その蔦は、どんな小さなものでも絡もうとしてくるのよ。それこそ、分子を動かして避けようとしても、直ぐにまた別の細い蔦が絡みつこうとしてくるからね。だから、動こうにも動けないでしょ? だってあんた、自分の体の分子を動かしているのって、無意識なんでしょう? 自動で分子が避けるようになっているわよね?」
それから、美亜ちゃんが自信満々にそう言ってきました。
そうか……! 意識して動かしているのなら、戦況や状況に合わせて、自分の身体の分子を動かしたり動かさなかったりすれば良いことですよね。それをしないって事は、そこまで出来ないからだったんですね。
「美亜ちゃん。ありがとう」
「全く……結局、あんた1人じゃ無理じゃないの」
「そんな事ないですよ。居場所さえ分かれば、いくらでも倒す方法はありましたから」
そして僕は、尻尾をハンマーに変え、そこに浄化の炎を纏わせます。
神妖の妖気を使う時は、常に白金の毛色だけれど、何故か暴走はしていません。それでも、僕は加減をしながら攻撃をします。
「
当然だけど、これは術式吸収で溜めていましたからね。だからハンマーも、半径何メートルあるのでしょうか? というくらいに大きいです。ちょっと重いかな……。
「なっ……ちょっ!? これはぁぁああ!!」
「これは流石に避けられないですよね? 体の分子をそんなに離す事は出来ないでしょう? それなら、その範囲全てに当たる攻撃をすれば良いだけなんですよ!」
「ぁぁぁあ!! そんなっ!! 地獄の管理者である、この私がぁぁ!! がふっ!?」
そして無雲は、僕のハンマーから逃げることは出来ず、そのまま激しい衝撃とともに潰れました。
何だか「プチ」って音がしたけれど……気にしません。その後、その場に大きな穴が空いちゃいましたけれど、それも気にしないです。
もうここまでやれば、流石の無雲も起きてこないでしょう。
すると、それを見ていた美亜ちゃんが、声を震わせながら何か言っています。
「あ、あんたね……」
「あっ、美亜ちゃん。あんまり動かないで下さい」
「場所さえ分かっていれば、何とでもなったってわけね。絡ませる必要は無かったのね……」
何故か美亜ちゃんが、とても驚いたような表情をしながら、体を震わせているけれど、いったいどうしたのでしょうか? もしかして、また副作用で、暴走しそうなんですか?
とにかく、何かにショックを受けている美亜ちゃんに、僕はちゃんと感謝の言葉を言います。
「ううん。あそこまでしてくれて、正直助かりました。でも、無茶は駄目ですよ、美亜ちゃん」
だけど、その僕の言葉を聞くか聞かないかの内に、そのまま美亜ちゃんが倒れてしまいました。
「わぁ!! 美亜ちゃん!? 大丈夫ですか?!」
やっぱり無茶をしていたんじゃないですか!
とにかく、そんな美亜ちゃんの頑張りのお陰で、何とか敵は倒せたけれど、このまま美亜ちゃんを連れて行くのは無理そうですね。
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