第弐話 【1】 旧妖怪センターを守る巨大鬼

 その後は、レイちゃんのスピードもあってか、あっという間に旧妖怪センターに着いたけれど、まだその入り口には辿り着けていません。

 地獄と化したこの場所には、普通の鬼以外にも、とんでもないものがいました。


「くっ! レイちゃん、何とか避けて……! 僕が1体ずつ落とすから!」


「ムキュゥ!!」


 その背中に、素肌と同じ質感をした、禍々しい羽を付けた鬼が、妖界の空を飛び、僕達に向かって来ていました。


「黒焔狐火!!」


「ぐぅお!!」


 ただの黒焔狐火でも、今はそれで2体同時に焼き尽くせます。

 それでもその直ぐ後に、3体ほど旧妖怪センターから飛び出して来ているので、徐々に増えているのです。だから……。


「くっ、黒焔狐火、双炎火そうえんか!!」


 両手で黒焔を放つしかなかったです。これなら4体倒せるので、少しでもその数を減らせます。あっ、だけど1体避けられた。


「貰ったぁあ!!」


 すると僕の後ろから、赤鬼さんが金棒を振り下ろしてきます。もちろん、その攻撃に気付いていた僕は、自分の尻尾をハンマーにして、その赤鬼さんの頭を叩きます。


「ぎゃぶっ?!」


 表現し難い潰れ方をしちゃいました。この妖術はちょっと控えよう……このまま使っていたら、下手すると名前を変えないといけません。それこそ「黒槌肉壊こくついにくかい」に……って、何を考えているんですか、僕は!


「双炎火!!」


 僕は再び両手を使って黒焔を放ち、今度こそ2体ずつ、計4体仕留めました。

 だけど、まだ何十体といるし、次々と旧妖怪センターから出て来ています。駄目です、本当にきりが無いや。


「レイちゃん。このままここで戦っていても、あんまり意味が無いです。何とか交わしながら、あそこに突入出来ないですか?」


 僕はレイちゃんにそう言うけれど、それでも無茶はして欲しくないです。

 だから、レイちゃんが無理そうであれば、僕は下に飛び降りて、徒歩で進撃します!


「ムキュッ!!」


 そう思っていたら、レイちゃんは真剣な顔付きになり、前方へと突撃して行きます。

 そして、飛んでいる鬼達の間を縫うようにして、上に下に、右に左に、前に後ろにと、胴が長くて体が柔らかい、レイちゃんらしい突破方法で、旧妖怪センターへと近付いて行っています。


「くっ! この!!」


 ただ、鬼達も馬鹿じゃないですね。そのまま僕達を行かすまいと、集団で襲ってきています。

 それを僕は、取り出した御剱で斬りつけていくけれど、斬った瞬間にその部分の空間が割れました。ナニコレェ?


 どうやら御剱の能力も、僕の妖気が跳ね上がったせいで、レベルアップしていました。しかも、刀身まで若干光っていて、もうただの石の刀剣ではなくなっていましたよ。これが、御剱の真の姿ってこと?

 そのせいで、空を飛んでいる鬼達が、僕から距離を取り始めます。


 これは勝てないと、そう思ってくれたのでしょうか?


「ムキュッ、ムキュッ!」


 だけど、僕が呆然としている間にも、レイちゃんは旧妖怪センターへと向かいます。もう間を縫う必要はないけどね、レイちゃん。

 これなら最初から、御剱を出せば良かったんだけど、どうなるか分からなかったから使わなかったのです。でも、数十体で攻めて来られたら、使わざるを得なかったです。


 すると僕達の目の前、旧妖怪センターの入り口に、一際巨大な鬼が、地面の下から召喚されるようにして現れました。茨木童子はもう、僕がやって来ている事に気付いていますね。

 それでも自身が出て来ないという事は、力を温存したい。もしくは、使いたくても使えない?


 とにかく、この巨大な鬼さん、後ろの変貌した旧妖怪センターの高さの、役半分くらいはありますよね。デカい……。


 今の旧妖怪センターは、京都市役所の場所なんです。その妖界側のですけどね。だから建物は、その高さと一緒なんだけど、今は地獄と化してしまって、そこから高い高い塔がそびえ立っているのです。

 だから、その高さの半分という事なので、現れたこの巨大な鬼さんは、約数十メートルの高さですね。

 という訳で、その鬼さんが振り下ろして来た金棒を、レイちゃんに指示を出し、受け止めずに避ける事にしました。


 流石の僕でも、あれはぺちゃんこになるってば!


 だけどその金棒は、あろう事か、地面を叩いた瞬間爆発し、隕石が落ちた様な衝撃を僕に与えてきました。


「うわぁぁあ?!」


「ムキュゥゥ!」


 僕は必死にレイちゃんにしがみつき、レイちゃんは吹き飛ばされない様に耐えているけれど、岩とか小石も飛んで来ていて、このままだとレイちゃんが危ないです。


「レイちゃん!」


 可愛いレイちゃんに、怪我なんてさせる訳にはいかないです。だから今度こそ、どうなるかは分からないけれど、僕は御剱を強く握り締め、そこに妖気を流し、そしてそれを振り下ろしました。


 するとやっぱり、僕の目の前の空間が裂け、その衝撃で岩とか小石が砂みたいに砕け散っていきます。

 そしてそのまま、巨大な鬼の近くまで空間が裂かれていくけれど、その鬼が金棒を地面に突き立て、僕の御剱による攻撃を受け止めました。


 嘘でしょう? 空間を裂くほどの斬撃を、受け止めた?


「ふむぅ……いきなり呼び出されたと思ったら、こんな可愛い小娘に襲われるとは。しかも相当の強さ、面白い」


 僕は全く面白く無いですよ。


 地面を振るわす程の重低音の声に、一歩一歩く度に地を揺らす体躯。こんなに巨大な鬼を……どうやって倒そう。


 しかもこれ、十極地獄の鬼じゃないのです。

 そうなると、その十地獄の鬼達は、もっと強い事になるのでしょうか? 

 それなら、この巨大な鬼に手こずっているようじゃ、亰嗟は潰せないですね。


「レイちゃん。出来るだけ、あいつの上を飛べるかな?」


「ムキュゥ」


 ちょっと難しそうかも知れないですね。

 だけど、あいつの下なんかを飛んでいたら、その足で踏みつぶされるかも知れない。だから出来るだけ、相手の顔の近くを飛んで欲しいかも……。


「ムキュッ!」


 するとレイちゃんは、僕の期待に応えるべく、気合いの入った鳴き声を出して、上へと飛んで行きます。


「か弱き小さな者は、退かせるべきでは無いか?」


 そう言いながら巨大な鬼は、これまた巨大な金棒を横に向けて構えています。

 それを振り抜く気ですか? 上に向かって飛んでいるんだから、凪ぎ払っても当たらないですよ。


巨影乱打きょえいらんだ!!」


 そう思っていたのが間違いでした……。


 巨大な鬼は、横に構えた大きな金棒を、両手を使って無茶苦茶に振って来たのです。しかも速い! そして振り抜く度に突風が!!


「ムキュッ、キュゥゥ!!」


「レイちゃん、無理しないで! 無理なら下に降りて、僕が何とかしてみるから!」


 それでもレイちゃんは諦めず、乱打される金棒の嵐を抜けていきます。

 突風の方は、僕が御剱で切り裂いているけれど、放った斬撃は、その巨大な金棒に防がれています。


 だから、あの金棒に防がれないよう、上から行くんです。そして御剱ではなく、これでいきます。


 そしてレイちゃんは遂に、その巨大な鬼の、顔の部分にまで上昇しました。

 ここまで来てくれたら、後は自力で何とかなります。


「ほっ!!」


「ぬっ? 俺の上に跳ぶとは。だからと言って、この金棒から逃げられるとーー」


 そうですね。だから、そんな事は思っていませんよ。だけど、レイちゃんの背中から飛び上がり、この鬼の頭上まで飛び上がったのは、頭上なら金棒が届きにくいというのがあるからです。持ち上げて振るう方が大変だし、隙も出来やすいですからね。

 そして僕の考え通りなら、ここから攻撃をすれば、ある程度のダメージは与えられるはずです。


「いくよ、巨大な鬼さん」


「むっ? 腕に妖気が? 面白い。来い!!」


 すると、火車輪を付けた僕の右腕を見たその鬼が、突然金棒を投げ捨てました。

 いや……それだけでも衝撃が凄いですからね。高層ビルが上から落ちてきた様なものだからね。


 もしかしてこの鬼は、同じ方法で僕と対峙する気? そう……拳と拳のぶつかり合い。

 御剱が金棒で防がれるなら、他の妖術も効きそうに無いと思ったのです。だから拳で、先ずは金棒を砕こうと思ったのです。予想外の行動を取られましたけどね。


 手間が省けたなら、それならーー


「ーーぁぁああ!! 狐狼拳!!」


 全力で打ち込むだけです!


「ぐふぅぅ! これぞ、鬼の金剛拳こんごうけん!」


 そして、僕の拳と巨大な鬼の拳がぶつかり、辺りに凄まじい程の衝撃波が広がります。

 それはもう、隕石が落ちて来た時の比じゃないくらいの衝撃です。


「あぁぁぁ!!」


「ぐぅぅぅぅ!!」


 ほぼ互角。僕の妖気が上がっていても、この鬼さんと互角? それだと駄目。それじゃあ駄目なんです!


 だから僕は、手が痛くても、腕が砕けそうな感覚になっても、力を緩めない。むしろ、もっともっと力を込めていきます。


 こんな所で、僕がやられる訳にはいきません!!


「ぬぅ……!? バカな?! 急に拳が重く……おっ、おぉ!!」


「いい加減、落ちて下さい!! やぁぁ!!」


「ぉぉおお!! そ、そんな! 俺が……! この俺が押されーーっ! ぐぎゃぁっ!!??」


 僕が力を込めた瞬間、巨大な鬼の腕から血が噴き出してきて、それを見ていけると思った僕は、更に力を込め、そして遂に、その巨大な鬼の腕を弾き、その顔面に僕の拳を叩き込みました。


 その瞬間、鬼は変な悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちていきます。

 背中から倒れないなんて、いったいどんな重心をしているんですか? でも、確かに僕も、丁度垂直に叩き込んだので、そうなってもおかしくないですね。


 そのまま巨大な鬼は、前のめりになって倒れていきました。

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