第拾陸話 【2】 黒き禍々しい神の復活
八坂さんの扇子によって、僕は正座をしてしまっています。もしかしてここに居る人達全員、こうやって『神言葉の扇子』で操られているんですか?
そうだとしたら、とんでもない威力ですね。
その扇子1枚で、何十人という人達を操れるんですから。もしかしたら、妖怪まで操れるんじゃーーって、今まさに操られていますね。僕が。
「八坂さん。その扇子、妖怪まで」
「そうだね。というか、今君を操っているからね。しかし、今の君には意識までは無理そうだ。鞍馬天狗の翁も、この扇子を使って僕を信用させていたのさ」
それなら、1つ謎があります。
「それだったら何で、全員を傀儡にしてしまって、目的を達成しなかったのですか?!」
僕は、見下ろしてくる八坂さんに向かって、思い切り睨みつけながらそう言います。
だってそんな事が出来るのなら、その扇子で皆を傀儡にしてしまえば、あっという間に目的を達成出来たはずなのです。それをしなかったのは、いったい何でなんだろう。
それから、直ぐに反撃が出来るようにと、僕は少しだけ神妖の力を流してみます。すると、正座をしないといけないというその意識が薄れ、体が動く様になりました。
もしかして……神妖の妖気で抵抗すれば、その扇子に対抗出来るのかな?
「ふむ。何でだろうな……確かにそれは、私にも分からない。いや、私か……? 私がやったのか? んん? 何故そのような考えが出なかったのかな? 私が邪魔をした?」
「ハンマーで叩きましょうか?」
妖怪センターの地下に居た、あの
「それは勘弁だね。というよりも、君は私の扇子の力で動けーー」
「残念、動けますよ! 黒槌岩壊!」
「うぉっと!? ほぉ。対抗策を見つけたのかね?」
残念。ギリギリで避けられましたね。
床に思い切り穴が空いたけれど、八坂さんはそれでは動じずに、扇子を開いたり閉じたりしています。次はいったい、何をさせてくるのでしょうね。
「君には、効くものと効かないものがあるね。それは学校に通っている時に、何回か実験的に試させて貰ったよ。行動に直結するのは短時間のみだが、それ以外は長めに効いていたね」
あぁ、半年前に色々とやって来たのは、そういう事だったのですね。
やっぱり油断しなくて良かったです。って、何回かその餌食になっていましたね。
そしてその後に、ジリジリと八坂さんが近付い来るるけれど、僕は八坂さんと戦う気はないからね。
だってそんな事をしていたら、時間切れになってしまいます!
だから僕は、直ぐに御剱を取り出し、左腕に付けた火車輪にも妖気を流しておきます。
何だか、いつもより熱いんだけれど、もしかしてカナちゃんも、さっきの話を聞いていたの? 怒っているような……。
「ふむ。それは香苗君の遺品か。死者を思う気持ちは良いと思うよ。ただ、それに捕らわれていては、強くはなれないよ」
「捕らわれていませんよ。一緒に居るだけです! そして、僕に力を与えてくれているんです! だから僕は、弱くなんか無い!!」
そして今度は、僕が八坂さんの懐に飛び込み、意表を突くつもりで、そのお腹に火車輪で攻撃をします。
「狐狼拳!! って、えっ?!」
だけど、ガッシリと僕の腕を掴まれ、火車輪の攻撃は完全に防がれていました。そんな……。
「弱いよ、君はね。他者に身を任せている時点でね」
そうですか。それなら、一匹狼の孤高の人は、連戦連勝って訳なのですか?
それも違いますよね。そんなので勝っても、自分の為に勝った事にしかならないのです。そんなものは、後に何も残らない!
「強さなど、その人次第です。価値観にもよります。だから八坂さん。あなたの価値観で、僕の強さを計らないで下さい!! 神威斬!」
次に僕は、御剱を八坂さんに向かって振り下ろし、光の刃を至近距離で飛ばします。だけどそれも……。
「いいや、君は弱いよ。色んな価値観の人が見ても、僕と同じ答えが出るよ」
「そ、そんな……」
至近距離なのに、少しだけ首を動かし、身を捻っただけで避けたのですか? まさか、また扇子の力?
「ふふ……」
すると、八坂さんは笑顔を向けながら、扇子を広げて僕に見せてきました。そこには、何も書かれていなかったです。つまりさっきのは、純粋にこの人の力という事になります。嘘でしょう……。
「だから君は、弱いんだ。強力な神の力を持っていても、何にも使いこなせていないんだからーーね!」
そう言いながら八坂さんは、僕を思い切り掴み上げ、そのまま床に叩きつけました。
「ぎゃぅっ?! うぐっ……」
抵抗しようとはしたけれど、何故か全く力が入らなくて、そのまま背中から床に叩きつけられました。その後に息苦しくなってしまい、その場でうずくまっています。
「やれやれ。私との力の差に臆したのかね? 君はまだ、自分の記憶が蘇っておらず、男の子としての記憶が未だに根付いている。更には、自身の神妖の力も扱いきれず、その力に怯えている。中途半端なのだよ、君はね」
そう言いながら八坂さんは、神棚の方に近付いて行く。
「あぁ、もうすぐだ。もう間もなく、祀っている
「な、何て言いました? 脱神? 神妖の儀式で弾かれた、神の抜け殻が……まさか、あの黒い球体?」
すると、僕のその言葉に、八坂さんは足を止めます。そして振り返り、冷たい目を向けて僕にこう言い放ちます。
「そこまで知っていて尚、まだ妖怪を信じるか。何ともお気楽な性格だねぇ、椿君」
「うっ……」
何ですか、この目は。
これは誰も信じずに、人を、妖怪を、生きとし生ける者を、この世界に存在する者全てを、自分よりも弱いと認識して蔑み、哀れむ目。
怖い。こんな冷たい目は、初めて見ました。
華陽でも茨木童子でも、こんな冷たい目は出来ない。そんな風に考えてしまう程です。
でもーーそれでも、僕は……ここで腰が抜けている場合じゃないんです!
「くっ、う……!! ぁぁぁあ!」
「なる程。精神力だけは付いたのか。いじめられていた時とは大違いだねぇ」
「はぁ、はぁ……いじめの原因があなたでも、僕はあの時とは違います。そして、華陽よりも茨木童子よりも、何よりも危険なのは、あなただと認識します! 僕をターゲットにした事、後悔して下さい!」
そうやって僕は、恐怖を振り払う為に、八坂さんを威圧する為に、思い切り叫びます。そして、御剱を八坂さんに向け、威嚇するようにして突き出します。
「ふふふふ。勘違いしないで貰おう。もう君は、ターゲットじゃないんだよ。椿君。もちろん、いじめていた時はターゲットだったのだが、もう今の君に用は無い。正直ここで殺しても、私には何の痛手でも無いのだよ」
「えっ? あっ……あぁぁぁ」
今度は殺気溢れる目。
しかもその目を見た瞬間に、自分の首が吹き飛ばされた様な、そんな錯覚までしてしまいました。
だけどそれでも、怖がっている場合じゃ無いんだってば! 動いて、僕!
「はぁ、はぁ、もう……もう僕を、惑わすなぁ!!」
「むっ……? この殺気を前にしても、まだ立ち向かっーー」
そして僕は、御剱を両腕で握り締め、神妖の力を注ぎ、そのまま思い切り踏み込むと、高く飛び上がります。八坂さんをも飛び越えてね。
「なっ?! まさか、狙いは脱神か!?」
「やあぁぁぁ!!」
相手は神の抜け殻といっても、それだけの力を宿していたんです。強固な体だと考えて、僕は全力でその黒い球体に斬りつけます。でも……。
「ぅっ?! うあぁぁぁ!!」
それに斬りつけた瞬間、いきなり全身に電流が流れたみたいになりました。僕は堪らず叫び、御剱を手から落としてしまい、そのままその場に倒れ込んでしまいました。
「残念だったね。機転を利かしたつもりだろうが、そう簡単に、神としての力を取り戻しつつある脱神に、触れる事なんて出来ないのだよ。そして、ありがとう。わざわざ神妖の力を注いでくれてね。覚醒の最後の条件は『天』の神妖の妖気を持つ、君の妖気だったのさ」
八坂さんはそう言うと、開いたままの扇子を裏返した。すると、そこには『悪人』と書いてありました。
まさか……それで自分の意識を変えて、悪人の様になっていたの?! つまり、最初からここまでが、八坂さんの計画?!
「君がここに来る事も、私の計画に入っているんだよ。そうでなければ、もっと強力な罠を仕掛けているだろう?」
「あ、あぁ……」
「全ては、私の手の内さ。さぁ皆、最後に強く祈るんだ。神の復活を……この世界を、良きものに作り変える為の、黒き禍々しい神をね!」
その瞬間、目の前の黒い球体が脈動し、そしてそれにひびが入り、そこから禍々しい気と邪気が、一気に溢れ出てきました。
また僕は、自分のせいでとんでもない事を……。
そうですね。確かに、僕は弱いです。どんな危機に対しても、僕は僕自身の力で止められていませんから。
だけど、諦めはしないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます