第拾壱話 【1】 どストレートな発言

 翌朝。何とか二日酔いも収まった僕は、任務を確認する為に、地下のセンターへと向かいます。


『よし、椿よ。今度一緒に、月見酒するぞ』


「僕を酔わそうとする気満々じゃないですか。嫌です!」


『いや、しかしな。高龗神様が、また一緒に吞むぞと、そう言っていたからな、飲めるようにはなった方が良いんじゃないのか?』


「嘘でしょう……?」


 神様から誘われたら断り辛いし、それでお酒を飲んでも、今の状態じゃまた失敗しますね。う~ん、どうしよう。


 だけど、そんな事を考えている間に、家の地下にあるセンターに着いちゃいました。そして、そこの扉を開けた瞬間……。


「何じゃと?! それは真か!」


 おじいちゃんの叫び声が聞こえてきました。

 咄嗟に耳を伏せたので、頭には響かなかったけれど、ちょっとビックリしましたよ。何事ですか?


「どうしたの? おじいちゃん」


「おぉ……椿か。良い所に来た! 実はな、ここ京都に住む半妖の奴等も、お前さんが通っていた学校の旧校舎に向かって行き、そのまま出て来なくなったんじゃ!」


「何ですって?!」


 学校の生徒達だけじゃなくて、半妖の人達まで……。

 あっ、まさか。雪ちゃん達まで操られて、行ってしまったんじゃ……。


「てぃ」


「冷たぁい!! って、何するんですか! 雪ちゃん!」


 いきなり首筋に冷たい物を当てられて、ビックリしましたよ。後ろを振り返ったら、雪ちゃんが僕の首筋に手を当てていたみたいです。というか、雪ちゃん居たんですね。


「良かった。雪ちゃんは無事だったんですね」


「うん。ここの家の結界で、この家に居る半妖達は、何とか無事」


 あっ、そうか。この家には、他者が寄りつかない様にする為の結界があって、妖術等による干渉も防いでいるのです。だから、ここに居る半妖の人達は無事だったのですね。


「とにかくじゃ。捜査零課の者達も、全員捕まったと見て良いじゃろう」


 捜査零課の半妖の人達は、あの旧校舎を調べていたんです。つまり、三間坂さん達も……。

 因みに杉野さんは、お姉ちゃんの手で手厚く看護されているので、旧校舎の調査には加わってないです。多分、捕まっていないとは思います。お姉ちゃんが押さえているはずなんで。


「こうなってはもう、調査もクソも無いわ。そこで椿。霊狐を使って旧校舎に侵入をし、捕らえられた者達を救出して欲しい。これは、お前さんにしか頼めん。本当は危険に晒したくは無いのじゃが……」


 そして難しい顔をしながら、おじいちゃんは僕にそう言ってきます。気持ちは分かります。心配してくれるのは嬉いいですよ。

 だけど僕はもう、特級持ちの特別な妖狐なんでしょ? ちょっとは信じて欲しいです。それに、1人じゃないんだし。


「おじいちゃん。何も僕1人で行くわけじゃないでしょ?」


「むっ? あぁ、そうじゃな。いつものメンバーで向かえ。それと今回は、龍花達4つ子も付ける。白狐黒狐もサポートに回るんじゃ」


『あぁ、分かった』


『流石に今回は、気を引き締めないといけないようだな』


 皆真剣な表情をしています。

 それもそうですね。だって、そこには華陽が居るかも知れないからです。華陽が居なくても、八坂さんは居ると思います。


 それと僕の中で、この人があやふやな存在になったからなのか、もう校長先生なのだという意識も無くなりました。やっぱり、何かしていましたね。


「良し、雪ちゃん。皆を集めて下さい。しっかりと作戦を立てて、準備万端で行きますよ!」


「うん。分かった」


「それじゃあ、先ずは僕の尻尾から手を離して下さい」


「魅了されているから、仕方なーー」


「そのくだりはもう良いですから。それどころじゃないでしょう!」


 すると雪ちゃんは、ションボリしながらも手を離してくれました。油断すると直ぐ触ってくるんです。例えどんな時でもですよ。


 そして、僕がセンターを後にしようとした時、酒呑童子さんと龍花さん達4人が、一緒になってここに入って来ました。

 何ですか? この組み合わせは。あり得ないんですけど。酒呑童子さんと龍花さん達は、まるで水と油みたいで、絶対に一緒に行動する事は無いのに。


「よぉ、椿。話は聞いたかよ? って、何だ? その顔は」


「……酒呑童子さん。遂に龍花さん達を脅したんですか?」


「んな事してねぇよ。偶々ーー」


「椿様。私達が脅しているんです」


「あぁ、納得しました」


「納得してんじゃねぇ!!」


 どうせここに来る時に、鉢合わせになっただけなんでしょうね。

 だって、ここに入って来た瞬間に、龍花さん達は酒呑童子さんから距離を取りましたから。


「椿様。準備が出来たら、私達にお声掛け下さい」


「分かりました。虎羽さん」


 本当に今回のは、いつもの任務とは違うようです。龍花さん達も、いつも以上に真剣です。

 相変わらず、その表情に変化が無いから分からないけれど、雰囲気からしてそんな感じです。


 それから僕は、地下から自分の部屋へと向かいます。


「雪ちゃん。皆を僕の部屋に集めてくれますか?」


「もうメッセージ送ったから、大丈夫」


 雪ちゃんは仕事が早いですね。だから気が付いたら、僕のファンクラブがとてもあり得ない事に……。


「そうだ、椿。この任務が終わったら、海外のロケにーー」


「僕は芸能人じゃないですよ!!」


 何かおかしな事になっていませんか?

 ねぇ、ただのファンクラブだよね? テレビ局に売り出したりしていなーー


「今度プロデューサーが、椿メインで企画をやってくーーふぐっ?!」


 とっくに売り出されていました。

 だから僕は、咄嗟に雪ちゃんのほっぺを掴んで、事実確認をします。


「ねぇねぇ、雪ちゃん。いつの間に、僕をテレビ局に売り出したのですか? それは、妖怪用? それとも、人間用? もしかしてもなく、両方……とかですか?」


「ひょうほう」


「更に悪いですね」


 それで君は、僕のマネージャーか何かでしょうか。

 流石にもう、これ以上は駄目ですよ。雪ちゃんの暴走を止めないといけません。


「作戦会議前に、君の説教ですね」


 そして僕は、雪ちゃんのほっぺから手を離して、今度は襟首を掴んで引きずって行きます。


「……うぅ。椿は、売れたくないの?」


「僕はアイドルになりたいわけじゃないのです。だからーーひゃうっ?!」


「こんなに可愛いのに?」


 だからって、尻尾を強く握らないで下さい。

 可愛いからアイドルにならないといけないなんて、そんな決まりは無いでしょう! それに、本当に今はそれどころじゃないよね?


「ゆ、雪ちゃん……! 今はそんな事をやっている場合じゃないから……うくっ、だからね、これ以上の宣伝は……」


「それじゃあ。全てが終わったら、アイドルになるんだね?」


「何で君は、そんなに僕をアイドルにさせたがるんですか?!」


 僕がそう言うと、雪ちゃんは1枚の紙を取り出し、それを僕に見せてきました。そこには、カナちゃんの字でこう書いてありました。


『椿ちゃんを、世界初の妖怪アイドルにしてみせる!!』


「これは、香苗の夢だから。そして、約束したから。香苗に何かあったら、私が香苗の夢を叶えるって。香苗の夢が叶うのが、私の夢、だから」


「……カナちゃん」


 君はそんな野望も抱いていたのですか?

 卑怯ですよ、カナちゃん。君が生きていたら、文句の1つも言えたのに……それなのに、死んじゃっていたら文句も言えません。


 あっ、でも。確か僕の子供になろうとしていましたよね。それってさ、記憶もそのままに持ってくる気なのかな? もしそうなら、お説教も出来そう……。


 すると僕達の後ろから、ペットボトルのお茶を飲んでいる白狐さん黒狐さんがやって来ました。


『どうした? 椿よ。こんな所で泣きそうな顔をして、何かあったのか?』


『いや、また親友絡みか? 全く。お前の親友は、いつもお前を泣かせているな』


 黒狐さんが、僕の手に持っていた紙を見て、そう判断をしてきたけれど、別にいつもってわけでは無いですよ。それよりも、丁度良かったです。


「白狐さん黒狐さん。全ての問題が片付いたら、直ぐに子作りしよ」


 あっ、2人とも飲んでたお茶を吹き出しました。


『ゲホゲホ……!! そ、それは。ど、どういう事じゃ?!』


『しかも、両方とか?!』


「うん。確実に作りたいから、2人と。あ、ちゃんと僕の月経の周期もみておかないと。出来やすい日にね」


 そうしたら、高い確率で出来るよね。子供が出来たら、それは絶対にカナちゃんの生まれ変わりだし。

 ふふ。これを知ったからって、急に逃げないでよね、カナちゃん。


 それよりも、白狐さん黒狐さんが倒れて気絶しちゃったよ。いったいどうしたんですか? 鼻血まで出して、何だか幸せそうな顔でもあるんだけど。


「椿。ナイス、どストレート」


 その後、雪ちゃんが僕に向かって、親指を立てながらホクホク顔を向けてきたけれど、どうしたんでしょう? って、あっ!!

 カナちゃんに説教したくて、頭の中でどうやってカナちゃんと会おうかなって、そんな事ばかり考えていたから、今とんでもない事を2人に言っちゃった!!


「あっ、あっ、違……違う!! そうじゃなくて! あの……僕は、カナちゃんに会いたくて!」


「椿。多分、聞こえて無い」


 白狐さん黒狐さんは、完全に気絶しちゃっています。雪ちゃんが顔をツンツンしても、全く反応が無いですからね。


「あっ、あぁ……うわぁぁぁぁ!!」


 とにかく、恥ずかしくてその場に居られなくなった僕は、自分の部屋へと駆け出していました。


 もうしばらく、白狐さん黒狐さんと顔を合わせられません!

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