第拾弐話 【1】 変態親子

 それから僕達は、和月さんの案内で、赤木会長のお母さんが閉じ込められている場所に着きました。

 そこは、僕では良く分からない機械がズラリと並んでいて、何かを測定する機械も並んでいます。更に、中央には何台かベッドが置いてあって、拘束具まで……。


 それにしても、妖怪から妖気を抽出しても、妖怪食を食べないと、そこから妖気は回復しません。

 中には人の生命力を吸って、妖気を回復する妖怪さんも居ますけど、それは全部規則に従い、禁止されています。

 偶にそれに背く妖怪さんが居ますけど、その妖怪さんは、ライセンス持ちの妖怪さんに捕まって、センターの牢屋行きです。


 そういう訳なので、赤木会長の向かった牢屋には、今にも妖気が切れて、死んでしまいそうになっている女性の姿がありました。


 妖怪食をろくに貰えず、妖気だけを実験の為にと、無駄に吸われていたらこうなります。

 しかも周りを良く見たら、妖気をエネルギーに変換しようとした形跡はあっても、そこからエネルギーが作られ、保存されている様子は無いですね。


 つまり、妖気の抽出は出来ても、エネルギーには変換出来ていない。


 そして僕は、牢屋の中の女性に再度目をやります。

 その女性は、着物姿に長い黒髪をしているけれど、舌はちょっとだけ長めですね。かなり体力を消耗しているようで、だらしなく舌を出してしまっています。


「母上!! 母上、しっかりして下さい!」


 するとその女性は、何とかその顔を上げて、赤木会長を見ます。その前に、急いで妖怪食を上げた方が良さそうな……。


「そ、宗、二……何故、ここに……」


「くそ、あいつ……! 母上には手を出さないと言っておきながら、何だこれは!」


 いや、鍵を開けて助けようとするよりも、妖怪食を上げないと……。


「母上、しっかりして下さい。今すぐ妖気を補充するんです!」


「赤木会長。早く上に連れて行って、妖怪食を……」


 あれ? 赤木会長のお母さんの目が……何で、僕の体を舐める様に見ているんですか?


「あっ、あぁ……何て、何て密度の濃い妖気……あなたの垢なら……」


 えっ? あっ……そういえば垢舐めって、妖怪食よりも、お風呂の垢とかそういうのを舐めていて、妖気を補充するには、人や妖怪の体の垢も良いって、以前会長が……という事は。


「椿君……すまない。その……母上に、体の垢を舐めさせて上げてくれないか?!」


「えぇぇぇ!!」


『いか~ん!!』


『そうだ! 椿が変態になってしまう!! それだけは……!』


 いや、普段なら直ぐに断りますよ。でも、だけど……。


「はぁ……はぁ」


 衰弱した垢舐めさんを見ると、どうしても断り切れない。僕が……僕が我慢するだけで、この妖怪さんが助かるなら……。


「うっ……くぅ。分かり、ました……その代わり、皆に見えない所で、声も聞こえない所でお願いします」


『椿! いかん、何を言っているんだ!』


「でも白狐さん。このままじゃあ、垢舐めさんが死んじゃいますよ! 折角助けられるのに、僕が渋ったせいで死ぬなんて、そんなの嫌です!」


『それを涙目で言わなくても……白狐、諦めろ。こうなった椿は折れないだろう? それに女同士なんだ、これはノーカンだろ』


 黒狐さん。ノーカンって何がですか? それに僕は、とっくにあなた達に……。


『むっ……そうじゃな。それに椿には、とっくに我等が同じこ……』


「わ~!! それ以上は言わないでぇ!! 滅するよ!?」


 そうなんです。実は夏休みのあの時に、その……もう思い出すだけでも、僕の顔が熱くなります。


「そうか……助かる、椿君。母上を頼む」


 そして覚悟を決めた僕は、フラフラになっていて、足取りもおぼつかない垢舐めさんに肩を貸し、奥へと向かいます。


 大丈夫、これは妖怪助けなんです。不純な行為じゃ無いのです。それに言ったように、既に僕は白狐さん黒狐さんに……だからこれは、妖怪助けです。

 既に首筋を舐められているけれど、くすぐったいだけです。大丈夫、大丈夫だ……僕。


 ーー ーー ーー


 それから暫くして、垢舐めさんの為にその体を差し出した僕は、垢舐めさんにおんぶをされて、白狐さん達の元に戻って来ました。散々に垢を舐められてですけどね。体に力が入りません。


「母上!! 良かった。妖気が回復したんですね!」


「えぇ、お陰様で。心配かけてごめんなさい。ですが……宗二、何故あなたがここに?」


「それは、母上を助ける為です!」


「私が何の為に、ここで大人しくしていたと思っているんですか?」


「それは私も同じです」


 元気になって良かったですね、垢舐めさん。逆に僕はぐったりです。


『無事か、椿よ!』


『垢舐め。どれだけ舐め取ったというんだ?!』


 もちろん、僕のその様子を見て黙っている2人ではないので、慌てて僕の下にやって来ました。


「あら。でもこの、凄く綺麗な体をしていて、垢1つ無かったわよ。それこそ、想い人に嫌われたくない一心で、常に清潔にしていたようね」


 それは、白狐さんと黒狐さんが突然抱き付いて来たりするので、念の為に朝と夜の2回、しっかりとお風呂に入っていますからね。

 そうしないと、直ぐに臭くなりそうなんです。だって、任務で激しい運動をするので。だから別に、嫌われたくないからじゃ……。


「それでも、大事なアソーー」


「だから、それ以上は言わないでぇ!!」


 だからってさ……まさかあんな所を舐めてくるなんて思わなかったですよ。

 今夜からは、そこも念入りに洗っておきます! まだ男の子の心が残っていて、ちょっと遠慮しちゃっていましたよ。


 そして僕は、その垢舐めさんから降りて、白狐さんと黒狐さんに引っ付きます。


『ぬぉ! 椿?!』


『そんなに怖かったのか?』


 いきなりの事で、白狐さん黒狐さんは驚いているけれど、怖いとか恐ろしいとか、そういうのでは無いです。ただ、忘れたいだけなんです。


「あらあら。そんなに2人が良いのね~舐められている時も、その2人の名前をーーあら?」


「それ以上は言わないでって、言いませんでした?」


 舌が長いのか、油が乗っているのか、良く喋りますよこの垢舐めさんは。まるでお喋りが大好きなおばさんですよ。

 だから僕は、再び金狐の姿になり、2人に引っ付いたまま首をそっちに向け、威嚇しておきます。


「そんなに怒らなくても良いでしょう? それよりも、そっちの姿で舐めさせて欲しかったかしらね~更に密度の濃い妖気じゃない……」


「舌舐めずりしないで下さい。負なる者として、滅しますよ」


 それでも垢舐めさんは、まだ怖じ気づかないです。母としてなのでしょうか、それともそういう性格なんでしょうか。


「仕方ないわね。あとは妖怪食で補充しましょうか」


「あっ……母上、それは……」


 聞こえましたよ。あまりの事に、ついお耳を動かしてしまいました。でもやっぱり、あなた達は親子ですね。僕をおちょくりまくる、良い親子ですね。

 だけどね、僕も半年前とは違いますからね。お仕置きもパワーアップしています。


「ふふふふ……あなた達は、本当に良い親子ですね。羨ましいですよ……本当に、負なる者同士、良い親子です。ですから、仲良く滅しなさい!!」


「つ、椿君。落ち着いてくれぇ! 母上、こうなるから黙っていたのにぃ!!」


「あらあら~失敗したわねぇ……」


 そう言いながらも、僕の浄化の炎をヒラヒラと避けないで下さい。その邪な思い、浄化してあげますから!


『椿よ、落ち着け。気持ちは分かるが、落ち着け!』


『あとで俺達がキツく言っておくから、とにかく抑えろ!』


 そうは言っても、僕の気が収まらないんですよ。

 やっぱり赤木会長は、この垢舐めさんの変態遺伝子を受け継いでいるから、変態会長で間違い無いです!


「待ちなさい! 変態親子! 負なる者として、滅して上げます!」


『落ち着けと言うとるだろうが、椿よ!』


『止まれ、椿~!!』


 そんな中で和月さんが、真剣な顔で何かを呟いています。


「これは、迂闊に逆らわない方が良いかもな……」


 あれ? 何だか知らないけれど、和月さんに釘を打てましたね。

 まぁ、良いです。僕はこの親子に、しっかりとお仕置きをしないといけないので。


 そうだ。良く脂の乗ったその舌を、しっかりと焼いて火傷させて上げます。暫くは、飲み物を飲む時にキツいですよ。

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