第捌話 【2】 捕らえられた赤木会長の家

 朝食が終わった後、僕は早速、その変態会長の家に向かいます。家は学校から歩いて行ける距離で、住宅街にありました。

 ただ他と違うのは、少しだけ家が大きかった事です。でも、雪ちゃんの実家よりは小さいですね。


「まぁ、この程度ね」


「それで、何で雪ちゃんまで着いて来たの?」


「椿が、あの変態に、体中舐められる訳にはいかない。そうなったら、凍らせて、永久保存してやる」


 前の校長先生、八坂校長の居場所を聞いてからにして下さいね。それと、僕がそう簡単に舐めさせる事はさせないです。


『ふん、あの者は少々危険だからな』


『そうだな。俺達がこうやって見張ってやるから、安心しろ、椿』


 白狐さん黒狐さんもキーホルダーになって、僕の手提げ鞄に引っ付いているし。


「ムキュウ!」


 何故かレイちゃんも、毛玉のアクセサリーになって、鞄に引っ付いています。

 レイちゃんは良いですけどね、久々に連れて歩けるから。でも、白狐さん黒狐さんは相変わらず心配し過ぎです。


 そして僕達は、一旦変態会長の家を見て回ります。


 今回は雪ちゃんの時のように、風邪のお見舞いに、なんて事は出来ません。

 だって半妖達は、皆退学させられたからね。だから親にとってみれば、風邪でも何でもないし、訪ねてくる事すら怪しいんです。


「う~ん……高い塀で侵入を防ぐのは良いけれど、その上に更に、尖った鉄の柵を付けるなんて、まるで侵入と脱走、その両方を防いでいる感じですね」


『ふむ……そうじゃな。まるで、あやつを出さないようにしているような、そんな感じもするな』


 キーホルダーの白狐さんがそう言ってきたところで、僕はある事を思い付きました。

 塀の向こう側に白狐さん黒狐さんが行ければ、僕のあの妖術で、この塀を超えられます。


「よし、良い事を思い付きました」


『ん? 何じゃ?』


『何か嫌な予感がするんだが?』


「嫌だな~そんな悪い事じゃないですよ」


 それに、僕も酒呑童子さんにやられたんだから、2人も偶には僕と同じ気分を味わって下さいよ。


「大丈夫ですよ~白狐さん黒狐さん。ちゃんとやりますから」


 そして怪しまれないように、僕はにっこりと笑顔を作るけれど、何故か怪しまれています。


『椿よ、目が笑っとらんぞ! 何をする気じゃ!』


『白狐、その前に逃げた方が……うぉっ!』


「その変化、解かないでね? そ~れ!!」


『ぬぉぉお?!』


 そして僕は、キーホルダーになっていた2人を、塀の向こう側に放り投げます。それと同時に影の妖術を発動して、白狐さんと黒狐さんの影に引っ付けます。

 これで、この僕の影がロープ代わりになって、それで塀を越える作戦です。


「よし、成功したかな? 雪ちゃん、行きますよ。捕まって」


 すると、そんな僕を見ながら、雪ちゃんが何か考え事をしています。


「椿……もしかして、それ誰かにされた?」


「えっ? あ~ちょっと、酒呑童子さんに……」


「よし、凍らせてくる」


「雪ちゃん、帰ってからにして下さい」 


 今はそれどころじゃ無いですよ。


 僕は雪ちゃんを宥め、白狐さん黒狐さんと繋がっている自分の影をロープみたいにして、高い塀をよじ登っていきます。その後ろから、雪ちゃんも続いています。


「よっと……!」


 そしてその塀を、鉄の柵に気を付けながら乗り越えると、その先で変化を解いて警戒していた、白狐さん黒狐さんを確認する。ちょっと、両手を広げないで下さい。


『さぁ椿よ。我の胸に飛び込んでこい』


『いや、俺だ』


 それ、選ばないと駄目なんですか?

 ごめんなさい。もう投げないですから、普通に降りたいです。2人ともにこにこしているけれど、これ絶対さっき投げた仕返しですよね?!


「椿、早く」


「うぅぅぅ……! あ~もう~たぁっ!」


 しょうがないから、僕は白狐さんの方に飛び降りました。だってやっぱり、黒狐さんは色々と危険そうなんで……。


『ふふ……やはり我か、椿よ』


「むぎゅぅ。抱きしめないで……それと、静かにして下さい」


 黒狐さんがあからさまにへこんでいます。両手を地面に付けて、頭を垂れ下げ、尻尾も耳も垂れ下げてしまっています。

 でもどういうわけか、こんな黒狐さんを見ると楽しいというか、弄りがいがあると言いますか……あれ? 僕、何で黒狐さんを弄るのが楽しいんでしょうか?


 とにかく僕は、急いで白狐さんから降りると、黒狐さんの元に向かいます。


「黒狐さん、黒狐さん。ここで頑張ってくれたら、僕がご褒美をあげますよ」


『なぬっ?!』


 あっ、立ち上がったし元気になった。黒狐さんは単純ですね。だから弄りやすいんですよ。

 駄目ですね、僕。小さい頃の僕の性格が、この半年で更に出て来ています。


「静かにして、侵入でしょ」


「ごめんなさい。雪ちゃん」


 確かにその通りでした。雪ちゃんに注意されちゃいましたよ。


 気を引き締め直して辺りを確認してみると、僕達が降りたのは、ちょっと広めの中庭になっている場所で、洋風のベランダが目の前にありました。


 家の広さからして、変態会長の家は、ちょっとだけお金を持っている人の家で、豪邸という程ではないですね。それなら、会長を探すのは簡単かな。


『安心しろ。外から見た限り、近くに人の姿は無い』


 それなら、このままこっそり侵入ーーって、大丈夫なんでしょうか? もうとっくに不法侵入だし。

 僕達は妖怪だから、人間の法律は当てはまらないけれど、雪ちゃんが心配です。


「えっと……今更だけど、このまま侵入して良いの? 雪ちゃんが……」


「私も、半妖。人の法律は、あまり適用しない。それに、本当に今更。既に、不法侵入でしょ」


「ですよね……」


 それなら気にせず侵入を……と思ったけれど、ベランダの窓の所に、見たくない物が……。

 それは舌の様な形をしていて、ハエ取り紙みたいにしてぶら下げられていました。あれ、燃やしていいかな?


 でも妖気を感じるし、変態会長の妖具? そうだとしたら、近づいたら舐められるとか、壊したら感知されるとか? うぅ……ち、近付けない。


『椿……ここは俺が行く』


「えっ? 黒狐さん?!」


 待って下さい。黒狐さんが、僕のあの言葉のせいで、凄くやる気になっていますよ。

 それは良いけれど、黒狐さんが舐められるシーンなんて、誰も求めてーーいないのに、僕は止められない。だってね、ちょっとだけ見たいなって思っちゃっていますから。

 それに白狐さんも、雪ちゃんまで止めないや。誰かが行かなきゃならないですからね。


『ふっ。こんな物で舐められたところで、俺は……ぐぉっ?!』


 普通に叩かれていました。

 鞭みたいと思ったけれど、まるで棒でしたね。黒狐さんが叩かれたり、突かれたりしています。


『ぬっ!? くそ、この!』


 でも形が舌ですから、対抗しても滑稽な光景にしかならないですよ。


「ふぅ……いったい誰かと思えば、君達か……何で玄関から来ないのですか?」


「えっ? あっ……」


 すると、その家の2階。丁度この庭を見下ろせる位置にある窓から、変態会長が見ていました。半年ぶりなのに、何も変わっていないです。


「だって、変態会長が監禁されているって言われて」


「誰の情報ですか? 監禁ではないです」


「えっ、それじゃあ……」


「軟禁です」


 変態会長がそう言った瞬間、僕達の居る庭に、黒いスーツを着た人達が大量に入って来て、僕達に向かって銃を突きつけてきました。


「やれやれ……何であなた達は、こんな変態すら見過ごせないんですか? ここは、あなた達が来るべき場所ではないのです」


 どういう事? それに、変態会長の反応がいつもと違います。いつもならもっと変態丸出しなのに、今は凄く大人しいです。


 すると今度は、僕達の背後、その庭の玄関側の入り口から、誰か入って来ました。


「これこれ、宗二。せっかく来てくれたのに、追い返す真似は止めなさい」


「くっ、はい……父上」


 変態会長のお父さん?

 口元にちょび髭を生やし、煌びやかで高級そうな服を着ていて、この家に住んでいるとは思えないですよ。その格好はまるで、豪邸に住んでいそうな人です。


 それに、この護衛の人達。佇まいからして、要人警護のSPか何かかも……。

 いったいどうなっているんですか。これってまさか、僕達は完全に読み違えたんじゃ……。

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