第拾弐話 【1】 受け入れた力

 閉じ込められた公園で、今僕達は必死に戦っている。


 カナちゃんも、ある程度力がコントロール出来るようになって、僕と一緒に戦ってくれているけれど、無茶をさせる訳にはいかないです。暴走されたら困りますからね。

 またあの鳴き声を出さないと駄目だし、皆も居るから恥ずかしい。だから、暴走しないでねカナちゃん。


「椿様!!」


「分かっています! 妖異顕現、黒鉄の鎖舞!」


 とにかく、相手が僕達の攻撃に対して、あまりダメージを受けないのなら、こうやって捕まえて動けなくしておくしかないです。


 そして僕は、尻尾の毛を鎖に変えて、襲って来る敵達に向けて伸ばすと、そのまま一瞬で相手の身体に巻き付けて、動きを封じます。


「なっ?! くそ!」


「ちぃ! 札でダメージを軽減してるとはいえ、これでは……」


「落ち着け! 俺達には、あの人が居るだろう」


「おぉ、そうだ! 直ぐに助け……がっ?!」


 そのまま一気に5人捕まえたのは良いけれど、その瞬間、その内の1人がスナイパーライフルで額を撃ち抜かれました。


 本当にいきなりの展開で、僕が対処が出来ずに呆然としていると、1人また1人と、捕まえた人達が次々に撃たれていく。


「ちょっと、どういう事よ! 敵のスナイパーは、味方なんてどうでも良いと思っている訳? 口封じって事!?」


 その様子に、美亜ちゃんが興奮して怒っているみたいだけれど、違うよ……美亜ちゃん。


 僕は全く別の恐さを感じています。


 これは、殺したんじゃない。敵のスナイパーは、もっと酷い事を考えていたんだ。


「美亜ちゃん……これ、違う。殺したんじゃない、どういう物を使ったかは分からないけれど、撃たれた人達から、妖気が溢れ出ている。このままじゃ、あの人達が妖怪になる!!」


「何ですって?!」


「椿ちゃん、どういう事!?」


 僕にも分からない。でも、撃たれた人達の身体が変化していき、異様な形になっているんだよ。


 それに、このまま妖怪になるかと思ったけれど、それよりももっと酷いよ。

 多分、妖怪にしようとしたけれど、それも不完全で、人間でも無いし妖怪でも無い、それに半妖でも無い、何もかもが不完全な化け物になっていっています。


「アアァァァア!!」


「た、助け……助けてくれぇ!」


「は、話が違う……止めてくれぇ!!」


「グゲァ……ァァア! ば、化け物になん……か、カァァア!!」


 僕は咄嗟にこの人達の鎖を外し、逃げられるようにしたんだけれど、スナイパーの人の腕の方が凄かったです。この人達が逃げだす前に、次々と狙い撃ったのです。

 逃げられなかったこの人達は、ただ苦痛の叫び声を上げながら、化け物になっていく。


「椿様、離れて下さい。苦しんで暴れ出す前に、この方達を楽にしてあげます」


「えっ……」


 龍花さんが青竜刀を構え、僕の前に出て来ると、僕にそう言ってくる。

 因みに、僕達を取り囲んでいた他の人達は、この事態に驚き立ち竦んでいます。恐らく、こんな事をされるとは思っていなかったんでしょうね。


 すると、どこからとも無く、風に揺れる木々の音に紛れ、男性の声が聞こえてくる。


「くっくっ……中々良い形になっているな。この弾、魔銃弾は、相手に悪魔の力を与える。そう、海外に存在する悪魔の妖具だ」


「なっ! また海外の妖怪の妖具ですか……」


 声は聞こえて来たけれど、姿が見えない。その声も風に紛れていて、何処から話しかけているか分からない。


「しかし、前に仕留めたと思った奴が、生きていたとはな。これはスナイパーとして……いや、暗殺者としてあってはならない。捕獲命令が出ていても関係無い。俺は俺の信条の元、てめぇを殺す。さぁ行け、俺の傀儡ども」


 だけど、周りの人達は怯えてしまい、全く動こうとしない。

 それもそうだよね。だって、妖具や札を持っているとはいえ、スナイパー相手には何の意味もなさないし、無抵抗のままあんな化け物にされてしまったら、逃げたくもなります。


 この事態を前に、楓ちゃんも雪ちゃんも少し緊張しているのか、顔が強張っています。とにかく、戦えない2人を守らないといけません。


「グォォオ!!」


 そして僕の前には、化け物と化した人が襲って来る。

 悪魔にもなりきれていないその人達は、頭に角は生えていなくても、身体はブクブクと膨れ上がり、肌は赤く、ある者は真っ黒になっている。

 更にその顔は、その肉に埋もれようとしていても、そのまま残っていて表情もある。つまり、人としての意識はあるって事。


「椿様!!」


 たったそれだけの事で、攻撃が出来ない。

 そんな僕を見て、龍花さんが敵の攻撃を防いでくれた。そして、そのまま斬り捨てようとしてくる。


 でも、駄目。それは駄目。


「龍花さん、待って下さい。その人は生きています!」


「椿様、しかし……! くっ、この!」


 龍花さんには悪いけれど、これは譲れない。僕は、人を殺したくはないんです。

 その後龍花さんは、そいつを蹴り飛ばして体勢を立て直すと、僕に向かって来る残り4体に刃を向けた。


「椿様。悪いですけど、もうこの者達は……」


「まだ……まだ方法はあるよ」


 僕は、龍花さんを制する様にして言う。でも、これは一か八かの賭けだし……多分また、皆に怒られると思う。


 だけど、もう……これしか方法が無いです。


「妲己さん」


【…………はぁ、止めても無駄……よね?】


「うん、ごめんなさい。でも、僕の浄化の風じゃないと、駄目だと思う」


【確かに。そよ風程度のあんたの神術じゃ、浄化は無理そうね。で、暴走した後はどうやって戻る気?】


「そこは、カナちゃん達に……」


【はぁ……後でたっぷりとお礼しときなさいよ】


「あはは……分かっています」


 渋々だけど、妲己さんも何とか了承したし、あとはカナちゃん達に頼まないといけません。

 そして僕は、スナイパーから狙われないようにして、必死に動き回るカナちゃん達を見ると、大きな声で話しかけます。


「ごめん! カナちゃんに雪ちゃん、それと美亜ちゃん! 暴走した後は宜しくね!」


「へっ?! 椿ちゃん、今なんて言ったの!?」


「椿……まさか」


「あのバカ、どうなっても知らないわよ!」


「…………」


 そんな中でも、楓ちゃんはずっと険しい顔をしていますね。早く何とかしないといけません。


「いきます。神刀、御剱!!」


 そして僕は、巾着袋から神刀を取り出し、神妖の力を解放すると、試しに1回だけ、化け物になった人に向かって振り抜いてみる。


「ギィ……! アァァァ……あっ……」


 すると僕の予想通り、浄化の力が作用し、その人の膨れ上がった身体だけが綺麗に消滅し、肉の塊の中から、人間の姿に戻ったその人だけが、地面に倒れました。


「お、おぉ……も、元に、元に戻ってる!」


「凄いぞ嬢ちゃん! その調子で元に戻してやってくれ!」


「あ、あんな奴だとは知らなかった! 頼む!」


「もう俺達は亰嗟にはつかねぇ! 知っている事は何でも教えてやるよ!」


「だから、あいつを倒してくれ!」


 現金な人達ですね。

 周りの人達は、もしかしたら自分達も化け物にされるのかと、そう思って恐怖していたけれど、助かると分かるや否や、手のひらを返す様にして、僕達にすがりついてきたよ……。


 そんな人達でも、やっぱり見殺しには出来ない。僕は甘い……甘いですよ。


 だからもう一回、御剱を振り抜き、更に1体浄化させる。

 こんな僕では、この状況を打開出来ないから。暴走した時の僕にならないといけない。


「ちっ、あの時の力か! 何でもかんでも浄化しやがって、厄介な!!」


 厄介……そう、厄介なら丁度良いです。それは、相手にとっては不利だという事に他なりません。


 さぁ……覚悟しなさい、負なる者。


 この私になった以上、容赦はしませんよ。


「ちっ……あんまり良い気分じゃないのよね。あの状態で、今までこれだけの数を相手にした事は無いし、長時間戦わせた事も無い。どうなるのか、一切分からないのよ」


「そうだね。でも美亜ちゃん、椿ちゃんを信じよう」


 皆心配しているようですけど、それは無用です。だって、これが本当の私……だからね。


【……嘘でしょう、椿あんた……】


 あら? おかしいですね。今まであなたは、私に浄化されないように奥に引っ込んでいたはずですよね? 何故、引っ込まなくても平気なのでしょう。


【神妖の妖気が、溢れ出ていない。安定している。あ、あんた……神妖の力を受け入れちゃったの?! バカ椿! そうなったら、もう二度と戻れないわよ!】


 おかしな事を……戻る? 何をですか? これが本当の私だというのに。さぁて、先ずはこのお馬鹿さん達を救い出しましょうか。


 その後は、遠くからコソコソと狙っている、愚かな負なる者を滅しましょう。

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