第陸話 【2】 怪我1つ
次々と僕達を襲ってくる橋鬼達。正確に言うと、わら子ちゃんを狙っているんだけれど、こいつら不死性を持っているので、正直苦戦しています。
『くそ、頭を飛ばしても動くのか。これはキツい……』
白狐さんも、若干息が上がっているけれど……その前に、僕が徐々に皆から引き離されているのに、そろそろ気付いて欲しいかも。
【ちょっと椿! 流石に1人になったらヤバいわよ。それに、鎖の妖術で結構妖気使ったでしょ!?】
「分かっています。分かっているけれど、この数だとそれしか……」
【だからって、2回も3回も同じ数だけ鎖を出したら、妖気切れが早まるだけでしょうが。少しは考えなさいよ】
うぐぐ……そう言われても、それ以外の妖術では、あんまり決定打になっていないんです。
今も、ハンマーの妖術で叩いて地面に埋めていっているけれど、これでも時間がかかるし、その間に足を掴まれて殺されそうになるし、振り払ったら次の奴がのしかかって来るしで、本当にゾンビの様ですね。
でも影の操だと、この数を固定させようとするだけで、妖気をだいぶ使います。黒焔は、燃えても倒れない奴等だから駄目。黒羽の矢は、実体のあるこいつらには効かないから、黒焔と併用しないといけません。
それに、術式を吸収するのも、そんなに何回もは出来ないんです。あれも結構、妖気を必要とするからね。
というわけで、僕はモグラ叩きの様にして、必死にこいつらを叩いて地面に埋めて、這い出ようとする瞬間に、再びハンマーで叩いて埋める。これを繰り返しています。
「つ、疲れる……しんどい、はぁ、はぁ……」
そして気が付くと、白狐さん達からだいぶ引き離されてしまいました。
「いけない……椿様! 朱雀、空から椿様を助けろ!」
「分かっている! だが、こいつら知恵でもあるのか? 大量の石で私を落とそうとしてくる! くっ! 避けながら炎の杭で打ち付けるのに精一杯だ!」
龍花さんと朱雀さんの叫ぶ声が聞こえ、それと同時に白狐さんも叫ぶ。
『何!? 椿、我の後ろに居ろと言っただろう! どこだ!!』
「くっ……ここです! 白狐さん!」
とにかく僕は、声で自分の場所を伝えるしか無い。でも、白狐さん達がお堂から離れると、今度はわら子ちゃんが危ない。
この数では、玄葉さんの盾でも防ぎきれないようだし、何としても行動不能にしておく必要があるようです。
そうなると、やっぱり自分で何とかしないといけません。それなら、1回だけでも振れるし、御剱で前方を一掃して、白狐さん達の元に走った方が……。
【椿、この後何があるか分からないから、御剱は取っときなさい】
「えっ……」
妲己さんにそう言われて、一瞬行動が止まったのが良くなかったです。
その隙に、僕は橋鬼に掴まれてしまい、上に持ち上げられてしまった。
「うわぁ!! 妲己さんのバカ!! っていうか、離してぇ!」
このままじゃ殺されちゃう! 何とかしないと。
『いかん、椿!』
「椿様!! 虎羽、朱雀、何とか出来ないのか?!」
「座敷様を守るだけでも精一杯だ、くそ! 白狐様! せめて白狐様が向かって、椿様を!」
「いや、虎羽。私が石をぶつけられてでも、椿様を助けに……」
「朱雀! 今そっちに向かって投げつけようとしている岩では、流石に不味いと思う!」
皆で必死になって、僕を助けようとしてくれているけれど、僕は僕で、橋鬼達に担ぎ上げられたまま、運動会の玉転がしの様にして、どこかに運ばれてしまっています。
「ちょっ……! くっ! 僕を何処に持って行くのですか?!」
今まで僕に対しての攻撃は、全て有効打になっていないからなのかな、別の方法で殺そうとしている。やっぱりこいつら、知恵があるよ。
「あっ、待って。ちょっと待って、そっちは!」
そっちには崖があります! 僕を谷底に落とす気ですか!
結構谷底までは深いし、普通の人なら即死ですね。いくら防御力を上げている僕でも、怪我しちゃいます。打ち所が悪いと、本当に不味いかもしれない。
あっ、嫌な事も思い出しました。
(怪我1つするたび、1回弄る)
雪ちゃんに言われたその言葉の方が、今の僕にとっては恐怖です。
怪我なんて、一切するわけにはいきません。
だけどこいつら……力が強い! しょうがない、鎖の妖術で何とか――
【もう遅いわよ】
「ほえ?」
物凄い連携プレーで運ばれていたから、もう崖まで到着していて、そのまま僕をポイッと軽々と放り投げてきました。
僕がもうちょっと太っていれば――なんて事が、微かに頭をよぎりました。
「椿様!!」
『椿!!』
「うわぁぁぁあ!!」
龍花さんの叫び声と、白狐さんの叫び声も聞こえたけれど、そのまま僕は谷底へと落下していく。
その側面の坂道から這い上がって来る橋鬼を横目に、僕もそっちの方が良かったのに……なんて思ってしまいました。わざわざ崖を選ぶなんて、やっぱり知恵がありますね、こいつら。
でも、落下の恐怖に叫びながらも、冷静にそんな事を考えていたのは、対策が頭に浮かんだからです。
「くっ……妖異顕現、黒鉄の鎖舞い!」
そして僕は、尻尾の毛を鎖に変化させると、それを崖の岩に突き刺してぶら下が――ろうとしたら、岩が脆かったのか、崖から外れてしまって、そのまま落下継続です。
「わ~ん!! 軟弱岩の馬鹿野郎!」
【あんた誰にキレてるの? 大丈夫よ、防御力を上げているなら、多分死にはしないわよ。軽い怪我はするかも知れないけどね】
その怪我をしたくないんです。
だから何としても、無傷で着地したい! 何か……何か良い方法はないのですか?
影の妖術でも、この岩の脆さでは支えられないし、えっとえっと……神妖の力は、さっき術式吸収で使い過ぎたから、ちょっと控えたい。
すると、そんな事を考えていた僕の視線の先に、何と黒狐さんと湯口先輩の姿があったのです。何で谷底に居るのか謎ですが、助かりました。
「黒狐さん、助けてぇ!!」
「ん? なっ! 椿!? いったい何やっているんだ?!」
『くそ、落とされたのか!! 待ってろ!』
すると黒狐さんは、咄嗟に狐の姿に変化し、崖を駆け上がって僕の真下に来ると、そのままこっちに跳んで来て、その背で僕をキャッチしてくれました。
その瞬間、ふんわりした毛皮の感触がして、とにかく物凄い安心感に襲われ、顔が綻んじゃいました。
そして黒狐さんは、そのまま下に難なく着地し、僕の無事を確認してきます。
『全く……危ない所だった。防御力を上げているとはいえ、怪我をする所だったぞ』
「そうですね。助かりま――」
「おい、椿。危ない!」
「――え? ギャフン?!」
『ぐぉ!』
先輩が叫んだ瞬間、頭に衝撃が――何? いったい何が落ちて来たのですか……。
『くっ、あ、足に……おい椿、何かしたか? 岩まで一緒に落ちて来るとは思わなかったぞ』
「あっ……」
何とかして崖にぶら下がろうとして、崖から外してしまった岩が、そのまま転がる様にして落ちて来て、最後に何処かに当たって跳ねて、僕の頭の上に落ちて来たのですか。
とりあえず他は落ちて来ないみたいだけど、僕の頭にタンコブが出来ちゃったよ。普通の人間なら、大怪我じゃすまないです。
あっ、でも待って……。
『おぉ、良かった。たいした怪我も無いようだな。しかし大丈夫か? コブが出来たか。あとで見てやろう』
黒狐さんが僕の頭を撫でながら、コブの具合を見てくれているけれど、その度に痛みが……。
「全く……能力で防御力を上げていたのか、ひやひやさせやがって。とにかく、上では戦闘が始まっているんだろう? こいつらが無限に沸いている原因を、早く探らないと」
「いつつ……うん、僕は大丈夫です。でも……あの、タンコブって怪我に入りますか?」
『はぁ?』「はぁ?」
いや、2人して首を捻らないで下さい。僕にとっては大問題なんですから! 家に帰った後だけどね……。
でも、良く見ないと分からないし、大丈夫だよね? 黙っていればバレないよね。
あの2人は、言った以上は絶対にやるし、最近絡みが濃いから、必ず一線越えちゃいます。
それだけは……それだけは駄目なんです。僕は絶対に、百合の世界には行きませんから。元が男だらかって、それは関係無いよ。僕は今は女の子なんですから。
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