第拾捌話 【2】 再び解放、神妖の力
どうやら相手の妖具は、本を閉じる事で、出したものを消す事が出来る様です。
そうやって次々と出されていくと、その内僕達の方の妖気が切れてしまう。
というのも、妖具は妖気を使わないのです。妖具そのものに、妖気がたっぷりと注入されているらしくて、人間でも扱えます。だから半妖の人達にとっても、妖具は重要な物になっています。
「さて、やはり私の想像の方が素晴らしいという事が分かりました……ので、大量にいきますよ!」
目の前の和月さんがそう言うと、ページをめくっては妖怪を出し、またページをめくって妖怪を出していく。
本から出された妖怪は、ページをめくっても消えない。本を閉じるか倒されるまでは、出現されたままなのですね。つまり……。
「わぁ……いっぱい」
「ちょっと、関心してる場合じゃ!」
すいません、美亜ちゃん。あまりにも沢山出してくるもんだから、もう達観するしかなかったです。
だって、相手が想像した沢山の妖怪達がね、僕達の周りをグルッと取り囲んでいるんです。
しかも、ニ重にも三重にもなってね。あはは……これ、どうしよう。僕の影の妖術でも、これだけ沢山は無理です。
「さぁ、やってしまいなさ――」
「神刀、御剱!!」
これはもう、仕方ないよね。相手ごと切り裂くには、もうこの方法しかないです。こっちの妖術はことごとく防がれる。それならもう、僕の神妖の力と、この御剱でやるしかない。
そして、御剱をなぎ払う様にして振り抜くと、円の様に衝撃波が広がり、僕達を囲っていた相手の妖怪達を切り裂き、次々と消していく。
ついでに、相手もこのまま倒れていて欲しいけれど……。
「なんと、まさかこんな事が……」
盾の妖怪で防がれていました。
その妖怪は真っ二つだけど、相手はピンピンしています。ヤバい……この一振りだけでも、意識がおかしくなりそうなのに、これ以上は……。
「椿、あんた。その力はまずいって言ってたんじゃ」
「分かっています。だけど、相手はあのオカマさんと同じ様に、ナンバー2を名乗っている。そしてそれは、本当に嘘じゃないみたいで、実力は同等だよ。だからこの力を使わないと、その内こっちが
美亜ちゃんが心配してくれているけれど、多分大丈夫。あと1回くらいなら……。
「金色の妖狐ですか……なる程。美しいですね」
だから、敵に褒められても嬉しくは無いですよ。それよりも、早く決着を着けないといけません。
そして僕は、相手の言葉を無視して御剱を構えると、そのまま相手に向かって行く。
「参りましたね。私の考えた妖怪は全滅ですか……」
「あなたの出した妖怪は、作られた物でしょう? そんな心の無い人形なんかで、僕は倒せないよ!」
確かに数は多いし、あのままでは僕達がへばっていました。
だけど、相手の妖怪の攻撃は軽く、一対一なら美亜ちゃんでも簡単に勝てる程に、力が弱いのです。
「心……とは、何でしょう?」
「えっ……?」
突然の相手の言葉に、僕は立ち止まった。
ごめん、この人が急に怖くなりました。さっきまでと口調が違っていて、とても冷たい。
「私には分かりません。心? それは、どこにあるのですか? あなた達の様な妖怪にも、それはあるのですか?」
「何言ってるの? あるに決まってるでしょ? だからこうやって、あなたを倒して捕まえようと――」
「あぁ、それです。それも聞きたかったのです。何故、私達の邪魔をするのです?」
もう駄目です。この人、言っている事がおかしいよ。
でも、ここまでの事を振り返ってみると、確かにこの人は無表情のままで、ずっと僕達と戦っているのです。
「あなた達が、大麻よりもずっと強力で危険な妖草を、売りさばいているからですよ!」
「何故、それが駄目なのですか? 欲しいと言っている人達が居る。欲しいがっているなら、良質な物を作って上げて、売ってあげる。そして、より満足して貰えれば良いでしょう? それが商売というものでしょう?」
「売っている物が駄目だって言っているんです!」
会話が通じません。何なんですか、この人は。
すると美亜ちゃんが、僕の肩を掴んで制してきました。だけど、その手には少し力が入っていました。多分、美亜ちゃんも怒っていますよ。それでも、冷静に僕を止めてきた。
「椿、落ち着きなさい。こんな人相手に、真剣になる必要は無いわよ」
そうですね。どんな人達が相手でも、僕達の目的は、この人達の確保です。冷静にならないといけません。
「分からない、分からないですね。駄目? 何が? 毒? それならば、タバコも法で禁止するべきでしょう? そもそもこの妖草は、最新の検査もすり抜ける代物。関係無いですけどね」
そう言いながら、その人はまた本のページをめくる。
早く片付け無いといけないのに、また次々と出されていたら、時間がかかってたまりません。だから――
出される前に、切る。
「龍花さんとの共同開発! 神刀御剱、
そう叫びながら、真っ正面に居る相手に向かい、御剱を縦に振り抜く。
すると、御剱の光の刃が大きく広がり、そこから新たな光刃が飛び出すと、そのまま飛ぶようにしながら、相手に向かって行く。
地面を抉りながら、その場にあるものならどんな物でも切り裂き、押し通ろうとする程の威力。
だけどそれは、1つの衝撃と共に止められてしまいました。
「あっ……」
「また私以外の者が考えた妖怪で、しゃくに障りますが……仕方ないですよね。私の作品に心が無いなら、心の籠もった作品を出せば良い」
その人の前に立ち塞がっていたのは、大きな金棒を持った2体の大きな鬼で、それぞれ金の角と銀の角を生やしていた。
そして僕の攻撃は、その2体の持つ金棒によって、止められてしまっていた。
この2体は強い、雰囲気で分かる。でもその前に、この鬼って……。
「嘘でしょ……これってまさか、西遊記に出てくる、あの金閣銀閣をモチーフにしているんじゃ……」
そう、それです。武器が原作とは違う武器にされていたから、直ぐには分からなかった。いや、それよりも……。
駄目……もう、本当に……。
「み、美亜ちゃん……ごめん。僕から、は、離れて」
「えっ? ちょっと……どうしたの、椿? まさか……」
「そのまさかです。神妖の力を使いすぎて、抑えられないです。2回振るだけで限界でした」
僕の中の妲己さんも、必死に抑えようとしてくれているけれど、駄目みたいです。
【この、馬鹿椿!】
本当にその通りですね。
だから妲己さん、奥に引っ込んでいて。そうでないと……僕が、負なる者を滅しようとする、僕が――
全てを滅しますよ。
「うん? 何か、雰囲気が変わられましたか? 髪まで一気に伸びていますね」
「ふぅ……えぇ、そうですよ。もうこれで、あなたも終わりです。さぁ、覚悟なさい」
「ちょっ……椿、あんた。それが神妖の?」
あら、そう言えばこの状態を見るのは初めてでしたっけ? 美亜。
これが怖いようなら、たっぷりと愛情を見せてあげますよ。あの半妖の2人にやったようにね。
「おやおや、そんな余裕でいて大丈夫なのですか? ほら、金閣銀閣が向かっていますよ」
心配しなくても大丈夫です、負なる者。
いや……あなたは心が無いようですね。負なる者では無い、無なる者。それならば尚更、滅しておかなければなりません。
無なる者は、負なる者以上に厄介な存在ですからね。
その前に、私に襲いかかって来るこの2体の小鬼を、相手にしないといけませんか。
「ふむ。我が刃よ、その身一筋となりて、敵を潰やせ」
「なっ……!」
簡単なものでしたね。ただ御剱を横に振るい、発する光の刃を矢の様に細くし、力を圧縮しただけでこの通り。たった一線で、2体とも真っ二つです。
棍棒を振り下ろして、私を叩き潰そうとしていたみたいですが、遅いですよ。振り下ろす前に斬りましたから。
「やれやれ、それならば次を――っと、嘘でしょう。私の本が……」
「あぁ、やっと気付きましたか? ついでに本の方も、一緒に切り裂いておきましたからね」
それがあなたの力の根源なら、もう戦う事は出来ませんね。
「これで終わりです」
さて、まだこの場で負なる者が、勝手をしようとしていますね。
目を覚ましたのか、ズルズルと体を引きずって、何処かへ行こうとする、この事件の元凶。その犯人。
あいつを追いかけないといけませんね。
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