第拾肆話 【1】 襲い来る鎧の集団
僕と美亜ちゃんは、音のする方へと顔を向ける。
どれだけの数が来ているかは分からないけれど、1体や2体じゃないですね。
「椿。お前は見えているのか?」
この洋館に入った瞬間、おじいちゃんと他の妖怪さん達は全員呪われていて、ここに住んでいる人、更に置いてある物まで見えなくなっている。
それはもちろん、湯口先輩もそうです。錫杖を握りしめ、キョロキョロと辺りを見渡していても、何も見えていないのか、僕にそう聞いてくる。
「うん。さっき僕達が来た方向とは反対側の通路、そこから沢山来ている音がするよ」
「ふん、他の呪術が効かないと分かったようね。物理的に追い出そうとして来たけれど、もう遅いわよ。お返しに、トラップ式の呪術をセットしておいたわ」
そう言いながら、美亜ちゃんは腰に手を当て得意気にしています。
美亜ちゃんも、それなりの呪術は使えるし、やり返す事だって出来るよね。美亜ちゃんが居てくれたら、もう怖い物は無いです。
だけど、その集団の足音は止む事は無く、直ぐ近くまでやって来ています。
「み、美亜ちゃん? 大丈夫……だよね?」
ちょっとだけ不安になった僕は、美亜ちゃんにそう聞いてみると、何故か美亜ちゃんは顎に手を当て、思案顔になっています。あっ……嫌な予感がする。
「いっけない。さっき仕掛けた呪術、生身にしか反応しないんだった」
「ちょっと~!! 今来てるの、鎧を着た人達だよね?!」
「あら、正解~だけど、中身なんて無いわよ」
「空の鎧?! それじゃあ余計に意味ないじゃん!」
サラッと重要な事を、2つも言われましたよ!
とにかくセットした呪術は、やって来ているものに対しては発動しないんですね。更にその鎧の中には、人は入っていないんですね。という事は、その鎧にも呪いがかけてあるのかな。
それなら、この状況は――
「椿、ファイト!」
「やっぱり……僕が何とかしないといけないんですね!」
「あら、私は皆にかかっている呪術の解除と、鎧に呪術をかけた奴を探すわよ。私ならこの呪いは解けるし、鎧の方の呪術も、もう相手は分かっているけどね」
それだったら、早く動いて欲しかったです。本人にしか解けないなんて言うから……いじわるですね、美亜ちゃんは。
同じ金華猫なら、その呪いは解けるって事なんですね。だけど、もう相手が来ちゃったよ。西洋の甲冑を来た、鎧の集団がね。
とにかく僕は、玄関ホールの上階、両側からやって来たそれに視線を移す。この数は、かなり多いですね……。
「美亜ちゃん、これ何体来るの?」
「50体くらいよ。あっ、そうそう。術者を倒さないと、そいつはずっと襲って来るから、私がそいつを見つけるまで――」
「いや、それなら問題無いです」
僕は深呼吸をし、白狐さんの力を解放すると、鎧の集団へと突撃する。
その集団は、僕の動きに反応する様にして、剣を持った腕を振り上げてきた。
だけど僕は、それが振り下ろされる前に動く。
白狐さんの力なら、ほんの一瞬で距離を詰められる。
そのまま姿勢を低くし、爪を伸ばして妖気を流し、その部分を硬化します。
その爪で、鎧の足を破壊しちゃうんです。
「てぃ!!」
「お見事。そうだったわ、足を壊せば動けなくなるわね」
美亜ちゃん、気付かなかったんですか?
こういうものの対処は、足を狙うのが定石なんですよ。龍花さんがそう言っていましたからね。稽古の成果ありです。
「ただ、まだ数十体はいるからね」
「分かっています!」
美亜ちゃんに言われなくても、後ろから襲って来ている鎧は見えていますよ。振り向き様に、その鎧の足も破壊しました。そのまま勢いに乗り、次々と鎧集団の足を狙い、それを壊していきます。
だけど、足が壊れてもまだ僕を襲おうとしているから、侮れませんね。剣でも投げられたら大変です。
「ふっ! おっとっ……! よっ、ほっ! そこっ!」
「椿の奴……端から見たら、何も無い所を狙っているが、動きからして、その鎧に襲われているんだよな?」
確かに皆から見たら、僕はパントマイムでもしている様なものですよね……。
だけど湯口先輩、余計な事は言わないで下さい。今目の前に剣が振り下ろされて来て、危なかったですからね。
「美亜ちゃん! 早く皆の呪術を解いてよ!」
「うっさいわねぇ……えっと、あれ? これ、トラップ式じゃないの? ちょっと皆! この洋館に入る前に、何か見なかった?!」
「むっ? 何かじゃと……? いや……何も」
何かって……ちょっと待って、僕に心当たりがある。
この洋館に入る前に、3階の窓から誰かに見られていた様な気がするんですよ。
その前に、2体の同時攻撃を回避! そのまま姿勢を低くして、足を破壊しておきます。
「美亜ちゃん! それなら僕、心当たりがある! 3階の窓から、誰かに見られていた!」
「あぁ、もう……! それの仕業ね。そうなると、これは私じゃ解けないわよ。3階の窓からって事は、あの子ね。この一家始まって以来の天才だけれど、問題児でもある。私のもう1人の妹、
えっと……美亜ちゃんそれって、色々と詰んでいるのでは無いでしょうか。
流石に僕も、そろそろ疲れてきたんだよ。やっぱり、50体は多かったです。20体も倒せなかったよ……。
「と、とりあえず美亜ちゃん。この鎧を動かしている呪術の方を、先に……!」
「えっ、あっ、そ、そうね! ちょっと待ってなさい!」
集中力まで切れてきた様な気がします。
あっ、ヤバい……僕の斜め後ろから、敵の攻撃が……しかも、皆には見えていないから「危ない!」の声も無い。
いやいや……何を期待しているんですか、僕は。よ、避けないと……。
それでも、これは避けられ無いと思った僕は、咄嗟に白狐さんの能力で自らの防御力を上げ、更に防御体勢を取った。
だけど次の瞬間、僕を攻撃しようとしたその鎧を、誰かが素手で吹き飛ばした。
そして、物凄い音を響かせながら、その鎧が一瞬でバラバラになり、壁に叩きつけられた。
「へっ?」
「おいおい~なにこれ位で苦戦してんだ~妖狐の嬢ちゃんよ~」
僕の後ろから、その鎧を派手に吹き飛ばしたのは、お酒の匂いを漂わせる、酒呑童子さんでした。
それよりも、ちくわ片手に何しているの? 確か酒呑童子さんは、おじいちゃんにこの洋館の情報収集をお願いされていたよね? 何やっているの……。
「ヒック……たくよぉ。この家、ちくわしかね~じゃね~か! あとまたたび! 棚という棚を調べたのに、それしか出て来ねぇとか、ふざけんなよ!」
何に怒っているんですか?!
この妖怪……情報収集じゃなくて、酒のつまみを探していましたよ! 最低です。
だけど、鎧の集団はそんなのお構いなしに、僕達に再度襲いかかって来る。
「あ~ん? てめぇら、ろくな酒のつまみも用意せず、しまいには客人に手ぇ出すってか? 教育がなってね~な! 出直してきな!」
すると、酒呑童子は鎧の集団目掛けて、強力なパンチを繰り出した。
ただそれだけなのに、酒呑童子さんのパンチは空気を圧縮したのか、強力な衝撃波がその鎧の集団に襲いかかり、しかも吹き飛ばすだけじゃなく、粉々に、中に人が入っていたら絶対にミンチになっていると、そう思う程に鎧を粉砕していた。しかも、残りの鎧を全部……。
僕が苦戦した以上の数を、たったのパンチ一発で、全て粉々に……。
相変わらずのチートっぷりに、僕はただ呆然と突っ立ているしか無かったです。
しかも、今気が付いたけれど、酒呑童子さんも見えなくなる呪いが効いていない様です。
僕も効いていないし、これはいったいどういう事なんだろう? 共通点が良く分からないですよ。
「はっはっはっ! どうだ、ざまぁ見やが……れ、ぐかぁぁあ!」
寝た。そのまま大の字になって、寝た。
「おじいちゃん……酒呑童子さんも、地下の牢に入れておきましょうか?」
「いや、ここに置いておけ。わざわざまた地下に行くのも手間じゃろう」
それもそうでしたね。
だけど、酒呑童子さんのおかげで、鎧の集団は全て撃退しました。
何だかこんな力を見せつけられると、僕はまだまだだって思っちゃうけれど、この酔っぱらい妖怪が特別なだけですよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます