第壱話 【2】 四神の守護者達
わら子ちゃんの部屋に入ると、先ずは楓ちゃんの自己紹介をさせ、今度は4人が自己紹介を始めました。
「私達は、座敷わらし様の守護をさせて貰っている者です」
「えっと……それは良いですけれど、誰が誰か分からないので……先に名前と、見分ける方法をお願いしたいです」
正直、こういうのは申し訳ないんだけれど、皆同じ顔に同じ髪型に、同じ背丈に同じ体格なんですよ。全く区別が付かないんです。
「あぁ、失礼致しました。私達は一卵性の4つ子ですから、見分けが付かないのは当然ですね」
その言葉を聞いて、一瞬耳を疑いました。だって、一卵性で4つ子なんて相当レアなケースだよ。実例がないことはないけれど、僕は初めて見ました。
「そして、私は
「私は
「私は
「私は
あっ、だから……全員一緒に見えるんですってば。喋り方まで一緒だから、もはや区別なんてどうすれば……。
「やはり混乱していますね。ですから、簡単に見分ける方法を作ったのです。この髪を結んでいるリボン、その色で見分けて下さい」
そう言った後に後ろを向き、自分のポニーテールを見せると、その結び目に可愛い青いリボンが付いていました。
更に他の人のを見てみると、確かに全員色が違っていました。他は白と緑と赤ですか。なるほど、それで見分けるのですね。
だけど、さっきの自己紹介の時、どのリボンの人がどの名前を言ったのか、忘れちゃいました……。
何かのクイズ番組か、医学番組で良くやるような、脳トレっぽいんだよね。
「えっと……ですから私、龍花が青のリボンで、虎羽が白のリボン、朱雀が赤のリボン、玄葉が緑のリボンとなっています」
そこでようやく、この人達の区別がつきました。ずっと喋っていたのは、龍花さんですね。ややこしいですよ……本当に。
それでも4人は、怒ることもせずに涼しい顔をしていて、龍花さんが淡々と説明している所を見ると、もはやいつも通りの事のようで、この作業が慣れてしまっている様です。
「さて……それではそこの人。何故あなたは、座敷わらし様にこんなに好かれているんですか?」
「そこの人って、僕には椿って名前が……」
名前で呼ばれない事には慣れているけれど、それでも最近はそんな事が無かったから、ちょっと文句を言うみたいにして言っちゃいました。
「あぁ、あのオカマの椿ですか」
「妖狐の椿!」
今のは悪意があったよ。えっと……緑のリボンだから、玄葉さんだっけ。
「鞍馬天狗の翁から聞いていますよ。男になっていたとか? あぁ、失礼。と言う事は、オナベですか」
「う~」
僕が睨みつけても涼しい顔のままだなんて。でも、こんなに悪意を向けられたのはいつぶりだろう。
さっきのは青のリボンだから、龍花さんですか? いちいち確認するのが大変ですよ。
「さっきから聞いていたら、失礼な事を言うっすね。姉さんはオカマじゃないっすよ!」
すると今度は、楓ちゃんが4人に向かって文句を言い出した。
「そうだよ、ちゃんと言って下さい。僕はオカマじゃ無い」
「ニューハーフっすよ!!」
「そう、ニューハーフ……って違う!!」
何を言い出すんでしょうか、この子は。余計に悪化しているからね。正面に座っている4人も、目を細めて蔑んでいるから。
「姉さんは、身体は完璧な女の子。でも、心はまだ微妙に男の子。だから、まだ完璧なニューハ……えぐっ?!」
「ちょっと黙っててくれるかな? 楓ちゃん」
思わず首に手が伸びてしまって、そのまま締めてしまっているけれど、悪いのは楓ちゃんだよね。
僕は楓ちゃんに笑顔を向けているけれど、何故か楓ちゃんはガタガタ震え始め、必死に首を縦に振り続けています。
「ふむ、脱線してしまいましたね。まぁ、正直ニューハーフだろうとオカマだろうと、関係無いですけどね」
「誰のせいですか、誰の……」
精一杯睨んでいるのに、4人はやっぱり涼しい顔をしています。
この人達はいったい、どれだけの修羅場を潜り抜けてきたのでしょうか。
凛としたその雰囲気は、何を言われても絶対に動じない、そんな強さを持っていそうだよ。
「話を戻します。椿さん。あなたは何故、座敷わらし様に気に入られているのですか?」
そして再び、龍花さんが僕に問いかける。だけど、僕には昔の記憶が無い。何でって言われても、説明出来ないんですよね。
だから僕は、わら子ちゃんに困った表情を向けて、じっと見つめるしか無かったです。
「あ、あの……椿ちゃんは記憶が無くて。で、でもね、椿ちゃんが小さい頃、あなた達が任務で居ない時は、椿ちゃんがいつも遊んでくれていたんだよ? それは、いつも言っていたよね?」
そういえば、そんな感じの事をわら子ちゃんから聞いたけれど、でもそれだけで、4人が納得するはずが無いと思うんだよね。
「はぁ……座敷様、あなたは特別なのです。たったそれだけで気を許していては、何時ぞやの時の様に、簡単に連れ去られてしまいますよ」
やっぱりそうでした。赤いリボンをした朱雀さんが、わら子ちゃんにそう言ってくる。普通に考えたら、これは当たり前の反応かも知れません。だって、座敷わらしだもんね。
座敷わらしは、その家に居るだけで、その家系全体に幸福をもたらすんだ。他の人達がわら子ちゃんの事を知ったら、血眼になってわら子ちゃんを探し出し、攫おうとするだろうね。
「それから100年間。私達はあなたを守る為、時にはあなたを狙う輩を潰しに出向いたりして、必死にお守りしたりして来ました」
100年? えっ、待って下さい。この人達って、100年も生きているんですか。嘘でしょう? それなら、この人達は妖怪って事?
でも、この人達自身からは妖気を感じないよ。何か、別の力は感じるけれどね。
だけど、驚いている僕を無視して、玄葉さんは続ける。
「良いですか、そろそろ身勝手な行動は止めて頂きたい。自分がどういう妖怪かを理解し、行動して下さい」
「でも……」
「友達も、こちらが信用出来る人物以外は許しません!」
「うっ……」
駄目ですね、取り付く島もないって感じです。厳し過ぎるよ、この4人は。
「あの、ちょっとそれは厳しいかと……」
「「「「あなたは黙っていて下さい!!」」」」
「ひっ……」
4人で1度に怒鳴らなくても良いでしょう……怖いよ。
言葉がピッタリ一致していたから、本当に怖かったですよ。脅威のシンクロ率、恐ろしい……。
「良いですか!? いくら座敷様が駄々をこねようと、こればっかりは許しま……つっ!!」
あぁ……やっぱり。わら子ちゃん、不機嫌になっていますね。
龍花さんがそう言った瞬間、上から木箱が落ちて来て、その木箱の角の部分が、見事に綺麗に頭に命中しましたよ。痛そう……。
「座敷様! いくら不機嫌になれても駄目ですよ。ここは譲れ……いっ?!」
う~ん、止めた方が良いのかな? でも、説得しても聞きそうにないしなぁ。
「あの、大丈夫ですか? えっと、虎羽さん?」
とりあえず、何故か虎羽さんの所に飛んで来て、見事に命中した釘は片付けておいて、額から血を流す彼女を確認します。一応無事ですね。
「うっ、うぅ……でも、でも、椿ちゃんと……」
「いい加減にして下さい、座敷さ……って、きゃぁぁあ!」
この人達じゃ埒が明かないや。次々不幸に見舞われても、多分折れないだろうね。
そして大丈夫ですか? 玄葉さん。思い切り蜂に刺されてますね。
何とか撃退していて、今毒抜きをしているけれど、これじゃ命がいくつあっても足りないと思うよ。仕方ないな、僕が折れるしかないです。
「分かりました。言葉でいくら言っても無駄……ですよね?」
そう言って立ち上がると、わら子ちゃんの部屋を後にしようとする。わら子ちゃんが悲しそうです。
「椿ちゃ……」
「大丈夫だよ、わら子ちゃん。要するに、この人達に認めて貰えれば良いんでしょ?」
そう言うと、わら子ちゃんは少しだけ笑顔になったけれど、直ぐに暗い顔になってしまった。
「ご、ごめんなさい、椿ちゃん……じ、実は、椿ちゃんと私との過去の事にも、緘口令が出されていて、は、話して上げられないの」
「えっ、そうなの?」
まさか……わら子ちゃんと僕の間にも、何かあったなんて……それは、考えてもいなかったよ。
いったい僕は、昔何をやったというのでしょうか。もう怖くて怖くて、出来たら思い出したくない。
それでも、僕は進むと決めているんだから、進まないといけない。立ち止まってはいけない、覚悟を決めなければ。
「あっ……椿ちゃん、大丈夫だよ。私との事は、そんなに大した事じゃないよ。椿ちゃんの、神妖の力の事だから」
わら子ちゃん、それは結構大した事だと思うよ。
そして、それは言っちゃって良いのでしょうか? 4つ子の人達が、驚いてこっちを見ているんだけど。
あれ、もしかして……もう認められたのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます