第弐話 【1】 結界破りの霊狐
あの騒動のあと、僕はカナちゃんと一緒に旧校舎に向かいました。
そして旧校舎の前に立った僕は、唾を飲んだ。
明らかに今までと雰囲気が違う……。
カナちゃんは捕獲用の妖具を持っていて、多少の戦闘も出来るということなので、僕のフォローについてくれた。
だけど、メインは僕ですよね? う~ん、大丈夫かな? これが妖怪の仕業じゃなくて、ほんとに呪術なのだとしたら、僕達じゃ手に負えないです。その時は白狐さんを呼ぼうかな。
「椿ちゃん、なにやってるの? ほら見て、扉にしっかりと打ち付けてあった木の板が外されてるよ」
カナちゃんは平然としていて、いつも通りの様子で旧校舎の出入り口の扉を調べている。
君は怖くないのですか?
僕だって怖じ気づくわけにもいかないので、勇気を振り絞って旧校舎の入り口に近付いた。
そしてその扉の先から、先程の重い妖気が漂っているのを感じ取れた。
この妖気を妖怪スマホのアプリで調べたら、手配書に登録されている妖怪なのか、そしてそれがどんな妖怪なのかが分かるんだよね。
「待ってカナちゃん。先にこれで調べてみるよ」
旧校舎に入ろうとするカナちゃんを止め、僕は妖怪スマホを取り出してアプリを探すと、それをタップして操作する。
「あっ、妖怪スマホ! 貰ったんだね~そういえば、椿ちゃんって何級になったの? 聞いてなかったよ」
そういえば言ってませんでしたね。
「五級だよ」
「えっ!! 凄い! それじゃぁ、白狐さんと黒狐さんの助け要らないかもね。この学校を襲う奴って、だいたいCランクまでの妖怪が多いからね」
カナちゃんは目をキラキラさせて僕を見ています。
これは尊敬の眼差しですよね? いきなり五級を取る事って、そんなに凄いのかな? 白狐さんと黒狐さんも驚いていたし。
僕はそれにちょっと照れながら、アプリを起動すると、画面に表示された言葉に従って操作をし、妖気をスマホのカメラで撮るようにして構えた。
この専用のアプリを起動して、その妖気を写真で撮ると、妖気をスマホに取り込めるのです。
そして手配書の一覧が出るアプリに、取り込んだ妖気を移す事で、自動でその妖気の妖怪を検索し、手配書から探ってくれるというものです。ただし、手配書に登録されていない妖怪は出ません。
「ん~っと、これで良いのかな?」
使うのは初めてなので、とりあえず扉から漏れている妖気をスマホで撮って、取り込めたかを確認すると、手配書アプリを起動させて、その妖気を送ってみた。
「ん?」
「どうしたの? 椿ちゃん?」
手配書アプリを見て、僕は訝しげな声を上げてしまった。
だって、そこに表示された文字……それは――
『これは妖気ではありません。妖気を取り込んで下さい』
「あれ? どういう事?」
「僕も分かんない。これは妖気じゃないの? でも、これは妖怪の発している気だってば!」
頭がパニックになりそう。妖怪の仕業じゃない? そうだとしたら、この妖気は何?
すると、突然僕の後ろから、鳴き声と共に何かが飛びついてきた。
「うひゃぁ?!」
フワフワしている何かが僕の頭に引っ付いたようだけれど、こんな状況なので、情けないくらいに大きな悲鳴を上げてしまいました。
でも、フワフワしているのと鳴き声で、その何かは分かりましたよ。
「ムキュ、ムキュゥ!」
「レイちゃん。驚かさないでよ……毛玉の状態のままで寝てたじゃん」
そうです。昼休みからずっと寝ていたレイちゃんが、起きて僕達の所にやって来たのです。
僕の姿がなかったし、校内が騒然としていたから、どうやら必死になって探しに来たのだと思う。
いじらしくて可愛いけれど、驚かすのは止めて欲しいな。
「椿ちゃん、それ何?」
すると、カナちゃんが不思議そうな顔をしながらレイちゃんを見た。
カナちゃんは、この子がハッキリと見えるていのかな?
「あっ、もしかしてカナちゃん、このが子ハッキリ見えるの? 霊狐って言う愛玩妖怪らしいけど」
「あ~聞いたことあるわ。1つ目が気持ち悪いって不評だったって。ハッキリというか……妖怪よりは見易いかなって状態かな。まだ幼体でしょ? だから私でも見えるんだと思うよ」
この子のどこが気持ち悪いんだろうって思うけれど、それが原因で捨てられているって聞いたからね。
「あっ、そんな事よりも。椿ちゃん、とりあえず中に入ってみよ。そうしないと解決しないしね」
そして現実に引き戻されました。
やっぱり行くしかないのですね。覚悟を決めたんだから、男らしく行きますよ。
そう考えたんだけれど――あれ? 何でか「男の子」という単語に違和感が? いや、考えない。今は考えない。
僕は変な考えを振り払うようにしながら頭を横に振り、カナちゃんの後から着いて行った。
「きゃっ?!」
「へぶっ!」
すると、扉に近づいていたカナちゃんが、急に何かにぶつかったかのようにして立ち止まった。
急だったので、僕もカナちゃんの背中にぶつかっちゃいました。
「何これ?! 見えない壁? 結界?!」
「いてて……嘘でしょ? あっ、でも、それなら警察官もここを調べられないはずだよね。何でこんな怪しい場所を調べないのか、それが不思議だったんだけど、その見えない壁のせいだったんだ」
でもそうなると、本当に行き詰まっちゃったかな? 僕はまだ、結界を破る妖術は覚えていないしね。
早いけれど、白狐さんを呼んだ方がいいかな。でも、妖術なら黒狐さん? あれ……どっちがいいんだろう。
そうやって、この結界をどうしようかと悩んでいると、レイちゃんがフワフワと扉の前に向かって行った。もちろんそれに気づいた僕は、レイちゃんを止めようとする。
「レイちゃん、危ないからこっちに居てて」
すると、レイちゃんは何を思ったのか、体をグルグルと横に円を描くように回転させ始めた。
その回転が徐々に早くなっていくから、目が回らないのか心配になってくるよ。
レイちゃんは、いったい何をしているの?
「ちょっとレイちゃん、何やってるの?」
だけどレイちゃんは止まらない。
そして、ある程度速い回転速度になると、レイちゃんは気合を入れ、思いっきり尻尾を扉の結界に向かって叩きつける。
「ムキュゥゥゥ!!」
回転に乗せて叩きつけた尻尾は、窓ガラスが割れたかの様な音と共に、結界をたたき割っていました。
「嘘……」
レイちゃんにそんな能力があるだなんて聞いていなかった僕は、ただ口を開けて呆然としちゃいました。
「ムキュッムキュゥ!」
「ちょっと……舐めないで。レイちゃん分かったから。助かったよ、ありがとうね」
そう言って、ひたすら顔を舐めてくるレイちゃんの頭を、僕は優しく撫でてあげた。
「その子、凄いわね……それに、あなたが困っている要因を的確に見抜いて、その手助けをしているのね。あなたを助ける為に。よっぽど懐かれているんだね、椿ちゃんは」
「ん~そうみたい」
まだペロペロと舐め続けるレイちゃん。
誉めて欲しいからやっている線が濃厚だけど、それでもこっちは助かっているんだし、誉めて上げるのが1番だよね。
とにかく、これで中に入れるというわけですね。
それにしても、すぐに2人の助けを得ようと考えていた自分の事が、凄く恥ずかしくなってきたよ。出来るだけ自分の力でって考えておきながらこれだもん。
「うん、行こう! カナちゃん!」
「あっ、うん。って、急にどうしたの? そんな張り切っちゃって」
「僕はもう、怖がってばかりではいられないのです!」
そして僕は、旧校舎の中へとカナちゃんより先に入って行く。
レイちゃんも一緒に着いて来るけれど、外で待っていて欲しかったかな。
「うっ……さすがに何十年も閉ざされていたら、埃っぽいしカビ臭いね」
「そうだね。でも、床を見て」
僕の後から入ってきたカナちゃんは、入るなりそう言うと、廊下を指差した。そこには、真新しい靴後が残っている。間違いなく、行方不明になった女子のものだろうね。
そしてその足跡は、真っ正面にある大きな階段に続いている。ということは、上に行ったということ。
それにしても……この旧校舎の中にいると、昭和初め頃にタイムスリップしたみたいですね。木の廊下と木の壁、木造建築なところが特に……。
その校舎の中は、僕達の学校の校舎とあまり変わらない。左右に伸びる廊下の先に、いくつか教室があるね。
廊下の窓から差し込む夕日が、幻想的に古びた廊下を照らしている。でも、この夕日というのが、逆に妖怪達を誘いだしている様な雰囲気にもなっていて、ちょっと怖いかもしれない。
僕がそう思ってしまうのも、恐らくこの重い妖気のせいだと思う。
いや、妖気なのかも怪しくなってるけれど、僕にはこれがまだ妖気だと感じられる。でも、何でアプリは反応しなかったんだろう?
「椿ちゃん、どっちか分かる? 椿ちゃんが頼りなんだからね」
「あっ、えっと……やっぱり上からかな? 何だかそっちの方が濃いから」
そこで僕はもう一度、階段から伸びるさっきよりも濃い妖気を、スマホの妖気感知アプリで取り込み、手配書アプリに送ってみた。すると――
『妖気確認、手配書を確認しております』
「あっ、やっぱり妖気だったんだ。今確認してるって出た」
「ほんとに? それじゃぁ、さっきは何で反応しなかったの?」
「う~ん、分かんない」
すると、僕の妖怪フォンの画面が切り替わった。手配書の確認が終わったみたいです。
だけどそこに表示されていたのは、僕が期待したものとは違っていた。
『この妖気の持ち主は、手配書が存在しません』
「最悪……」
「嘘でしょ? それじゃぁ、どんな妖怪か分からないの?」
初めての退治任務にしてはレベルが高すぎますよ。
しかも時間制限付きで、早くしないと他の生徒達も危ないんだよ。怨念のぬいぐるみを相手している2人にも、限界はあると思う。
それと、ここでそんな事を考えている暇はないみたいです。
なぜなら、校舎から聞こえる騒ぎ声が僕の耳まで届き、同時に白狐さんと黒狐さんの『急げ!』と言う声まで聞こえてきた気がしたからです。
「カナちゃん、とにかく呪術の儀式を止めに行こう。その『1人かくれんぼ』を終わらせたら良いんだよね?」
「うん。でもそれは、呪術をした本人がやらないとダメなの」
「だったら、先ずは行方不明の子を見つけよう」
そして僕達は、急いで真っ正面の大階段を駆け上がって行く。
白狐さんと黒狐さんに頼まれたんだ。さっきみたいに、安易に白狐さん達を呼ぼうなんて事は、もう考えない。
これを機に、僕は変わらないといけないんだ。
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