老人


 僕は家を出た後何も考えず、ただひたすら全速力で走り続けた。

 交差点のところで誰かが大声で叫んでいたが、全部無視した。

 信号も全部無視した。息が切れるまで走った。


 ハア、ハア、ちょっと疲れてきた、でもまだ大丈夫そうだ。


 すいぶんと長い時間走り続けた。


 どこか、どこか隠れるところに、無意識にそう思った。


 走っているとふと目の前に校舎みたいな建物が見えた。


「ここだ!」


 俺は直感でそう思い。柵を飛び越え校庭を走りぬけ校舎の前まで辿り着いた。


 だけどあんなに長時間走ったのに不思議とそれほど疲れていない、どうしてだろう?超のつく運動音痴の俺がこんなに走り続ける事ができるなんて絶対あり得ない!今日は俺も含めて皆な何かが変だ。


 よく見ると辿り着いた校舎は廃校らしくドアは全て閉まっている。


 辺りをしばらく探し回り裏口に回ると、誰かがこじ開けたドアが半分開きかかっていた。


「よしここだ」


 ドアの隙間から中を覗き込む、誰もいないようだ。


「よし、ここでしばらく隠れていよう」


 そう思いドアを自分が入れるスペース分開き、静かに忍び込み歩き出す、そして2,3歩歩き出した時急に背後が気になり後ろを振り向くとそこには既に先客がいた。


「だれだお前?」


 目の前にいるのはかなり年を取った老人、皺だらけだ。



「うわあああああ!!」


 全速力でダッシュしてその人物から離れるその人物もかなり驚いたようで、しわのある顔の目をぎょろっとさせ、驚いていた。


「おい君!凄いな......まるで瞬間移動みたいだ、ほんの十数秒でそこまで走れるのか......久しぶりにそんな凄いのみたよ」

 大声で何故か叫んでいる。


「えっ?あっ!」


 気がつくと自分でも知らぬ間に、その老人と鉢合わせした場所からゆうに300メートルは離れているかと思える廊下の端まで一瞬の間に移動していた。


 運動音痴の俺がこんなのあり得ない、どうして?





 しばらくして、ホームレスと思われるその老人は、驚きと興味の表情を浮かべて近づいてきた。右足が悪いらしく、引きずっている。


「君は何か特別なトレーニングか何か受けた事があるのか?」


「いや、運動は苦手ですけど」


「君を疑うわけじゃないが、君はあの校門を飛び越えて校舎に入ってきたんだぞ、プロのアスリートでもなかなかできる事じゃない」


「え?校門?」


 たしか何か柵のようなものを飛び越えたような気がしたけど。


「あそこ飛び越えてきたんだ!君自身で見てみることだ、いや~びっくりした」


 その柵だと思ったものを見て僕は絶句した。


 柵じゃなかった、恐らく3m以上はある校門だった。

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