No.614.浴衣

冷房のない四畳半 ぽかんと口を開けっ放し

阿呆面で すすけた天井を見つめてる


扇風機が力なく 乾いた風を ほそぼそと


やけに表が騒がしいとか おもって覗いて見た

ワッショイ ワッショイ 御輿がねりあるく

歩道には 群れる まさに人の群れ


浴衣を着て 僕の手をひく君は とてもきれいだった

浴衣を着て 僕の手をひく君は もうここにはいない

浴衣を着て 僕の手をひく君は 他の誰かの物


漬かり過ぎて 渋くなった 麦茶飲んでも汗まみれて

白いシャツが 肌にべっとりはりつく

灼熱の太陽が ぬくもりを全て奪い去って


香りも何も無い 外で楽しく聞こえる かけ声ばかり

ワッショイ ワッショイ 胸の裏側がいたむ

アイス片手に 二人 見てたのは今は昔


浴衣を着て 僕の手をひく君は とてもきれいだった

浴衣を着て 僕の手をひく君は もうここにはいない

浴衣を着て 僕の手をひく君は 他の誰かの物

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る