15日目:ギルドカード

 神聖歴六一〇二年・月兎の月第二八日・天気:曇


 今日の寝起きは最悪です。

 夢に出たんですよ……盗賊達が。

 蘇る肉や骨を断つ感触、叫びと苦痛に歪む顔、怒りに任せて振り下ろされる剣……。

 うっ、思い出したら吐き気が……とりあえず顔を洗いましょう。


 部屋から廊下へ出ると、ミリさんとガンツさんに出会いました。

 二人とも目が死んでます……私もでしょうけど。

 お互い察して、苦笑し合いますが、何も言いません。

 そこに現れるマルガさん。彼女も辛そうですが、手で頭を押さえてますし、二日酔いですね。自業自得なのです。


 その後、全員揃って朝食です……けど会話はありません。

 皆、無言で料理を口へ運びます……昨夜はあんなに美味しかったのに今は味がしません。

 そんな中でマルガさんだけが一人満足そうです。というか、迎え酒とか……。

 食事を終え部屋へ戻ろうとすると、マルガさんに呼び止められます。

 支度が出来たら、全員でギルドへ行くという話でした。

 あぁ、そうですね、報酬を受け取らないと……。


 軽く酔って陽気なマルガさんとは対照的に、重い足取りでギルドに到着した私達三人。

 もう早く報酬を貰って宿屋で休みたいです。

 そう思いながら、契約書とギルドカードを提出すると――


 ――突然周りから拍手が巻き起こりました。


 いや、何故!?

 目を白黒させながら見渡すと、多くの人が温かい笑みを向けています。

 

 呆然とする私達に、受付のお兄さんが報酬とカードを手渡してきます。

 返却されたカードは今までと違い、黒く輝く金属製で、一部に白水晶が埋め込まれていました。

 そして、カードに記されたランクはEランク……。


 ランクが上がった!?


 ミリさん達も驚きで固まっています。そんな私達を見て大笑いするマルガさん。

 って、何またお酒を飲んでいるんですか!?


 詳しく話を聞くと、今回の任務は元から昇格試験だったんだそうです。

 最大の目的は対人戦を経験させること。でも普通、最初は誰でも躊躇して上手くいかないそうです。

 だからこそ、護衛任務で極限まで体力、精神力を削り、対人戦への忌避感を忘れさせ、戦闘をさせるという事でした。スパルタ過ぎる!!

 

 けれど、安全を考慮して騎士団等と協力し、勾留中の盗賊達に手加減させて荷馬車を襲わせるそうです。

 彼らは協力すれば刑が軽くなるので、進んで引き受けるらしいです。

 あと、商業ギルドの方も実は冒険者という手の込みよう……大人の世界って……。


 そこで私はある事に気が付きました。

 皆、昇格して更に合計で銀貨も一枚貰えたと喜んでいますけど待って下さい。

 私達、ギルド登録時に銀貨を一枚払っているのです……つまりその銀貨は……。

 それに本来なら、盗賊の捕縛報酬も貰えたはずです!!

 指摘しようとすると、ギルドのお兄さんと目が合いました、彼はシ―ッと口に人差し指を当てます。


 ……あ、はい。私は何も知らないのです。良い子なのです!!


今日の収支

銅貨:+70枚(任務成功報酬・後金)

――――――――

残金:銀貨4枚、銅貨49枚


(´-`) ンー ランクは上がって嬉しいけど、何か色々騙された気分です……モヤモヤします。

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