第十六話 武器商人

大男の名前はベルフィノット=キャドンというらしい。

ネズミ顔の男はラットと名乗った。

まんまだ。と、思ったら、もともと孤児で、組織に拾われたらしい。

名前もわかりやすくつけられたとか。


キャドンは中級魔術師で、ラットは下級魔術師。

この区分は、魔力の運用のコツを掴んだ技術の差で名乗るようだ。

キャドンは中級と呼ばれる魔術まで行使したり製作するときに魔力を効率よく運用、節約できるので、中級魔術師。

下級魔術師は中級未満を全部そう呼ぶので、ほとんどの人は下級魔術師だそうだ。

例えばエリフィン国の割合は、下級魔術師が9割、中級魔術師が1割弱、そしてわずかな数の上級魔術師がいる。

上級魔術師はすべて、王城つとめだ。

ちなみにこれは軍事機密らしいので、フィリアがこっそり教えてくれた。

僕は? と聞いたら、技術だけだったら下級も下級らしい。

なんか安心したと思ったら、上級でも2文字以上の媒体(ガーデ)の製作はできないらしいので、特級魔術師の太鼓判を押された。すごく落ち着かなくなった。


上級魔術師がごくわずかなので、中級でも引く手数多だそうだ。

キャドンは下町で働く技術者だったらしい。

幼馴染と兄妹が暮らしている下町を離れられず、中級魔術師であることを隠し、細々と暮らしていたところに、あるとき噂をかぎつけた武器商人に声をかけられた。

兄弟と幼馴染を食わせるために働いており、この場所から遠くにはいけないと断ると


「なら俺たちが養ってやろう」


と、半ば強引に連れていかれてしまった。

それからは組織のいうことを聞かないと、兄弟たちを殺すと脅され、しかたなく従ってきたという。


「アニキには助けられたでやんす」


ラットは組織のなかでは魔力の量が多かったらしく、生かされていたが、扱いがひどく、およそ人間らしい扱いを受けていなかった。

それがキャドンのお供になるようになってからは、キャドンと同じくらいに優遇されるようになった。


「おれはブースターを持ち歩くより、楽だから指名しただけだ」

「アニキは照れ屋でやんす~」


キャドンは無言でラットを殴り飛ばすと、話をつづけた。

ラットは鼻血をだして、白目をむいている。大丈夫だろうか。


「兄弟たちを人質にとられていたこともあったが、本当に逆らえなかったのは、あんたみたいな化け物が組織にいたからだ」


キャドンは無事だった手で僕を指した。

僕にはそんな力なんてないのに。


「一度、兄弟たちを助け出して、逃げようとした時がある。これでも中級魔術師だからな。その時にやってきた組織のボスに、手も足もでなかった。その時に感じたものと同じものを、あんたからも感じた。それで、思ったんだ。あんたならうちのボスを倒せるかもなってな」

「だから話す気になったのか」

「そうだぜ、ジュディアス王子。それまでは、どうせ帰ってもボスに殺される。だったらここで死んでも同じって思ってたんだ。けどよ、同じくらいの化け物に救われたなら、そっちにかけるだろ」

「僕は化け物なんかじゃ……」


力なく否定する僕をみてキャドンは不思議そうな顔をしている。


「気づいてねえようだがよ。あんたは一人の命を救ったんだぜ? 直接手当してくれたのはそっちの王子だがよ。止めたのはあんただ。俺はあんたにつく。もう決めたことだ」


キャドンはまっすぐ僕を見ていた。その顔はいかつい見た目だったけど、さっきの鬼気せまるようなものはなくて、心がくすぐったくなるような、なにかがあった。


「あんたはもう少し自信を持て。強さには責任ってもんが付いてくる。その責任をうまく果たすには、実力を発揮するためのある程度の自信が必要だ。自信はありすぎても慢心を呼ぶが、あんたはもう少し自信がないと、いざというときに動けないぜ」


僕より全然年上に見えるキャドンに言われて少しだけ心が動いた。

この世界の当たり前を破った僕だけど、自分が正しいと思ったことをやればいいのかな。

でもデウナスさんにも、もう一度聞いたけど、殺気なんてだせないよ僕。


「あれは心底恐怖を覚えました」

「まだ疑っているのか、デウナス」

「いえ、一度ジュディアス様がお決めになったことに、執事であるこのわたくしめがこれ以上とやかく言うつもりはありません。先ほどはフィリア様にも大変失礼いたしました」


デウナスさんは僕とフィリアに向かって丁寧にお辞儀をした。


「わかればよいのじゃ。デウナスはユーキを知って、日も浅い。多少の混乱もあったじゃろう。今回のことは水に流す。レタウ(水の国)だけにな!」


ドヤぁとフィリアが周囲を見渡す。

苦笑いってみんなするんだなぁ。

一人だけラットが爆笑していた。


「ひゃひゃひゃ、すっげぇくだらねぇっす」


またキャドンに殴られて黙った。


「すまんな。こいつは馬鹿で阿保なんだ」

「いや、そこで謝罪されても困るのじゃ」

「ところで、組織のボスはどんな奴なんだ」

「ああ、俺も詳しくはわからなかったが」


そこからキャドンが戦ったボスの説明を聞いた。

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