第八話 王子

あれから、数週間。

僕は何事もなく学院に通っている。

いや、何事もあったけど、問題は起きてないので大丈夫なはずだ。

ああ、でも目立ちすぎたせいか、クラスメイトはノーブルくらいしか話しかけてこない。


相変わらず1日一枚が限界だけど、自動書記の紙(ガーデ)は描けるようになった。

少しずつ慣れてきて、寝不足になるようなことはなくなった。

効果は1日続くので、1日一枚でもなんとかなっている。

フィリアによると、破格の性能らしい。


もう少しで1日二枚描けそうになった頃、昼食にフィリアから話しかけられた。


「のう、ユーキや今週末なんじゃが……」

「なにフィリア」

「あんた相変わらずフィリア様に馴れ馴れしいわよね」


昼食はいつもノーブルとフィリアの三人で学院の食堂で食べている。

六人席のテーブルがいくつもある食堂は学院の生徒が全員座っても半分くらい余裕があるので、僕らが座っているテーブルも僕らしかいない。むしろまわりのテーブルにもいない。

王女を畏れる人やノーブルに恐れる人に僕を怖れる人がいるからだ。僕が怖れられるのは不本意だけど……

僕はフィリアの向かいに座って、フィリアの横にはノーブルが座っている。


「ユーキが親しいのは当たり前なのじゃ、私の弟だしの」

「え!本当なのですか!?」

「いや違うからね、弟みたいな扱いされてるだけで、同い年だし」

「弟分も弟も同じようなものじゃ」

「なんだ、びっくりしました」

「それよりもフィリア、何か話があったんじゃないの?」

「そうじゃ、今週末にの隣国と会食の席がある」

「レタウですね」

「レタウ?」


水の国レタウ。

文字『水』を所有する大国の一つ。

大国エリフィンとならぶ大きさの領地をもつレタウ、水の生活魔法により豊かな資源もある。

エリフィンとも交流が深く、資源大国レタウの資源をエリフィンの加工技術で加工し輸出する。

そうやってお互いの国は交友を深めてきた。

昨今の時代には珍しい裏表のない国家間である。


「それじゃ、そのレタウの王子を招いている」

「友好の証として、行っているものですよね。先月はフィリア様がレタウに招待されていましたし」

「そうなんだ」

「そうなのじゃ。そこにお主もでてもらうのじゃ」

「「え?」」


僕とノーブルはびっくりして食事の手が止まってしまった。


「ふ、フィリア様!こいつは、王家でもなんでもないのですよ!」

「そうだよ。フィリア、僕なんか場違いだって」

「そんなわけなかろう。お主の多重識者(デュアリーラー)としての実力は今や私をこえておる」


どうやらフィリアのなかで僕の出席は決定らしい。

昼休みいっぱいノーブルと一緒に、反論したけど覆らなかった。






――――――――――――――――――






会食当日、多少緊張しながら会食の場である広間に向かう。

多少の緊張で済んでいるのはフィリアが、近くにいるからだ。

いつもより豪華な服に、初対面の王子との会食で僕は始め、ガチガチに緊張していた。


「よしよし」

「ん~……」


フィリアに撫でられて落ち着いてから広間の大きな扉を開ける。

大きな広間の真ん中にはこれまた大きなテーブルが置いてある。

豪奢なテーブルクロスにが乗っており、遠くに見える上座には二人の人物が座っていた。


「ご機嫌麗しゅうフィリア王女」

「そちも変わらず、壮健でなにより」


おもわずフィリアのほうを見てしまった。

そこにはいつものフィリアではなく、一国の王女、フィリア第一王女が立っていた。細められたまつ毛の長い眼と合い息が止まる。


「そちらが噂の彼ですか?」

「そうじゃ。非礼には目をつむってくれると助かる」

「は、初めましてユーキ=キリハラです」

「初めまして。僕はレタウ国の第二王子ジュディアス=レタリウス。覚えてくれるとうれしいな」


王子だ。完全無欠の王子だった。

金髪のストレートヘアが肩まで伸びている。

青い目にはしずかにも威厳に満ちた意思が宿っている。

王子が挨拶を終えると後ろに控えていた痩身の男性が一歩前に出た。


「ワタクシめはレタウ国にて執事をしております、クロジデ・デウナスと申します」


恭しく一礼したデウナスはすぐに下がり、不動の姿勢をとった。

三人が席につくと、さっそく料理が運ばれてきた。

料理はエリフィン国のシェフによるフルコースの予定。


デザートの皿が下げられたところで一息ついて、ジュディスのほうから話題を振られた。


「キリハラくん、うわさに聞いたのだが、君の多重識者(デュアリーラー)の腕は、フィリア王女よりも聞いたのだけど本当かい?」

「本当じゃ」


僕がなにか言う前にフィリアが答えてしまった。

正直、文官(モノクル)としては自分の実力だとしても、描画識者(ディーラー)の実力はズルしている気がするのだ。

だから多重識者(デュアリーラー)の実力でフィリアを上まっているとは思ってない。


「ジュディアス王子それについてはですね……」

「フィリア王女、それは君の約束を知っていて認めているのかい?」

「……?」

「そうじゃ」


約束? なんだろう。

フィリアに聞こうと思っていると


「そうか。……キリハラくん、いや…ユーキ! 君に決闘を申し込む!」

「え!……えぇ!?」


大国の王子と決闘!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る