第六話 学院
目が覚める。
薄暗い部屋のベットから出て、昨日教わったように魔法で明かりをつけた。
もそもそと寝間着から外出用に着替える。
この一週間の間にフィリアに揃えてもらったのだ。
一応王家の関係者としてきちんとした身なりをするようにとフィリアが用意してくれたものだけど、豪華すぎて落ち着かない。慣れるしかないだろう。
「これでも控えめで動きやすいって言ってたけど……」
そういって見下ろす仕立てのいい服は、どうみても一級品だ。
汚したら大変だなあなんて思いながら朝食をとるために食堂へ向かう。
フィリアと食事を共にしたあとに、学院に行く準備をした。
必要な物を揃えてもらい、鞄に詰めていく。
「媒体箱(ボックス)みたいなカバンはないの?」
「あれは特別じゃ。紙(ガーデ)以外は入らんしの」
どうやら媒体箱(ボックス)だけが特別らしい。
ファンタジーっぽくああいうマジックアイテムみたいのがたくさんあると思っていた。
この世界ではマジックアイテムというと、部屋にあったランプみたいな魔法を補助するアイテムなのだとか。
道具一つで魔法が発動したりはしないらしい。
必ず紙(ガーデ)に言霊が必要なようだ。
僕は学生カバンのような大きさの茶色いカバンに言われた荷物を詰めていく。
中身は絵を描くための道具が多い。
思えばこれが僕にとっての高校デビューになるのだろうか。
日数的にもちょうどだし、向こうと同じ時間が流れているならだけど。
もし、戻れた時に浦島太郎になっていないといいな。
まずは戻らないといけないけどね。
僕はカバンを閉じて元の世界に帰るという目標を再確認する。
そのための第一歩が学院だ。頑張ろう。
「そこまで、気負わんでもよいのではないか?」
フィリアはそう言ってやさしく笑いかけてくれた。
フィリアはやさしい。でもいつまでもそれに甘えるのはよくない気がするんだ。
僕は見た目はフィリアの弟みたいだけど、同い年の女の子にいつまでも頼ってばかりじゃ男が廃るってもんさ。
鼻息荒く力説したらフィリアに頭を撫でられた。
「ユーキは偉いのう」
むう。この表情は年下の子が立派なことを言って感動してるお姉さんのものだ。
いいもん。そのうち絶対フィリアにも認めさせてみせる。
決心した僕は勇み足でフィリアとともに学院に向かった。
―――――――――――――
ごめんなさい。フィリアさん助けてください。
僕は、入学早々挫折した。
媒体は紙(ガーデ)に絵と文字を刻んで作る。
学院は絵を描く技術に重きを置いている。
なぜなら大半は文字を刻むことが出来ないものだからだ。
こればっかりは才能なのでどうしょうもない。
だから授業はほとんどが絵を描くことだった。
他にも魔力の込めかたの授業とか、ある程度の一般教養などもあった。
読み書きや文字がない以外は前の世界に似ていた。それでも文字を使わない授業は新鮮だった。
そして、大変なことに僕には致命的なほど絵心がなかったのだ。
「か、カエルかの?」
「……犬です」
「……そ、そうか」
なんてことに……。一つ前の授業が文字を刻む授業じゃなかったら学院を叩き出されていたかもしれない。
それぐらい酷かった。
媒体は限られた人しか作れないため、完成した媒体は金銭で取引されている。
国同士でも交易が盛んなところでは輸出入がある。
販売の仕方は完成品と、半完成品だ。
もちろん完成品のほうが高いけど、こうやって僕みたいに学院に通った人なら大半は絵は描けるのだ。
だから文字だけ刻んだ半完成品も売れる。
エリフィンにある文字は火だけだけど、流通している紙(ガーデ)には他にも風や水もある。
なので、こうして色んな絵が描けるようになるのはとても重要なのだけど……。
「ユーキさんは、後程補習を受けるように」
「……はい」
ある程度描けるようになれば生活に支障はないのだけど、僕は生活に支障がでるほどだったのだ。
いくら媒体がお金で買えるからと言っても限度がある。
「すまんが、さきに帰るのじゃ。一緒に補習を受けるわけにはいかぬゆえ」
「いいよ。僕も子供じゃないんだし、一人で帰れるよ」
「本当に大丈夫かの?なんなら、終わるまで校門で待っとるぞ」
「いやいや、王女さまを校門で待たせたりしたら補習よりも大変なことになっちゃうよ」
「そうか、わかった。くれぐれも気をつけての」
そう言ってフィリアを見送った。
さあ、頑張って補習しなきゃ。
戻った教室にはもう一人生徒がいた。
補習は僕一人ではなかったようだ。
「君も補習?」
「あなた……フィリア王女にくっついてた虫ね!」
「え!?」
補習の難易度は授業よりも高そうだった。
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