地3
『あ゛ぁークソえらい目にあった!ほら手に入ったぞ、西洋軍謹製の長距離通信機』
「ゴールデンハインドは無事ですか?」
『沈んではいないな、なんか飛行機とか木箱とか捨てまくってる。私とお前が会話できるなら傍受機も無事だろう、やれるか?』
「やれます、打ち合わせ通りの操作をしてください」
樹の成長が再び始まってすぐにアリシアのいる遺物保管庫からは完全に外の景色が見えなくなった、上へ上へと上がり続けるエレベーターに乗っている感覚がする中、見えるものといえば全身傷だらけで丸まるライコウと壁にもたれかかる悠人が、ぷっつり切れた発電所からの送電線を補うべくひたすら無言で放電したり手回し発電機を回したりしているシュールな光景のみである。悠人が照明担当、ライコウが機材担当だ、特にライコウがすごい、交流100Vを完全再現している。
『今終わった、これで西洋まで届くはず……いやちょっと待て』
「日依?どうしました?」
通信機材を片端からオンしていく中、アイアンデュークを拿捕した筈の日依が急に連絡を切ってしまう。ほぼ同時にピクリとも動かなかったライコウが目を開けて立ち上がり、巻きついた枝で塞がってしまった破口へ歩いていく。
『少し下がっておけ』
「危険な状況ですか?」
『それはまだわからぬ』
ズン、と、完全に閉鎖された保管庫に振動が伝わる。一連の異常成長で内部がスカスカとなってしまった枝は簡単に折れていき、まもなく光が差し込んで、悠人が発電機を手放し槍を掴む。せっかく塞いだ傷口を台無しにされてはたまらないとそれはやめさせ、アリシアはガラクタの山から掘り出しておいた予備バッテリーを始動、これでライコウが放電をやめても30分は保つ。次いでアサルトライフルを持ち出し、本当に給弾できるのか心配になるくらい曲がった弾倉を装着、コッキングレバーを引く。
『クソしつこい!当たらんでいい弾幕張り続けろ!アリシア!アリシア!?』
「日依?一体何がどうなって?」
『私にもわからん!そっちはどうだ!?もう襲われてるか!?』
襲われるって何に、と言う前に、タイミングよく1体だけ現れた。
「ああ…たった今接触しました、これは殺害して良いのですね?」
『構わん殺りまくれ!一応言っておくが間違えるなよ!うちの子は緑色だ!』
濃い青色のアルビレオ、というのが第一印象であった。よく見てみると案外違う、装甲は一切無くツルツルの鱗、鼻先や前腕などあらゆる部位が鋭く尖っており、その他空気抵抗になりそうなものは出来るだけ排除されている。体長5m程度でアルビレオより一回り小さく、飛膜付きの前腕が明らかに細い。それ以外にあちらと異なるのはとにかくよく吠える点だ、トラやライオンの鳴き声を甲高くしたような声で吠えまくっている。
『ぬん!』
しかし実際のところ行ったのは吠えるだけだった、倉庫の床に着地した瞬間、自身より遥かに巨大なライコウの前脚にぷちっとされてしまう。大きめの衝撃に傾いていた建物が更に傾いたが、もはや遺物保管庫は上も下も巻きついた枝で埋め尽くされている、落ちはしない。
『これは何者か?』
「血が出ませんね、体内構造も細胞組織によるものとは思えない…地球型生物以外の何かです」
『うむ……詳しく聞くのはやめておこう……』
ぺしゃんこになった群青色のワイバーンを簡単に観察、すぐに上方からキーキーキャーキャー聞こえてきたので目を離しライフルを構える。ワイバーンの開けた穴から飛び込んできたのは1〜2m程度の小型の竜だ、7.62mm弾を1連射すればすぐ絶命して床に散らばってしまったが。前腕は完全な翼へ変化しており、鼻先の尖り具合はもはや矛先レベル、姿勢制御のためか尻尾は長くやや平たい形状をになっている。そんな空力特性を踏まえたようなフォルムをしているならそもそもこんな重たそうなトカゲが飛ばないで欲しいのだが、とにかくそれはいい、日依の様子からして外はコイツらで埋め尽くされているのだろう。
「CICから大内裏、無事なら応答願います」
『こちら大内裏、無事だし聞こえているぞ、ええと……え?母上?母上と呼べばいいのか?』
「あなたの隣に頭のおかしい中年男性がいますね?代わりに殴っておいてください」
その後も断続的に襲撃してくる竜どもの対処はライコウに任せておいて、しかし彼ももうかなりのダメージを蓄積しているため急いで作業を再開、通信機越しに『ごっはぁっ!!?』とかいう嘉明の声を聞きつつすべての機材を起動する。
「準備を終えました、いつでも始められます」
『わかった。父上ー!何をそんなところに寝転がっているのかー!』
『お前が!!!!』
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