第109話
爆発、というか命中した部分が押しのけられるようにしてウワバミの胴体はふたつに引き千切られた。
「死ん……」
その時日依は空中にいた、脱出時まで出番は無いと思っていたアルビレオを低空飛行で接近させていたが、いきなりの血の雨を避けるべく急上昇、落下していく頭部と入れ替わりで高空へと躍り出る。その後安定させ地上の様子を見てみれば、瓦礫の横に数人の兵士及び小毬を認め、続いて彼らから少し離れた場所で白い着物のアホと、奴を始点にして放射状の抉れ方をした砂浜を視界に捉えた。それはいい、さっきのダイダラボッチもどきといいこんな原理不明で特撮みたいな、逆に言えば非常にわかりやすい事ができる人間は1人しかいない、1人いれば十分である。今問題なのは
「…でない、な、死んでない、プラナリアかよ」
やがて砂の大瀑布により視界を遮られ頭部分は日依から見えなくなって、残る胴体部分は血を吹き出しつつ倒れる、かと思いきや断裂部を上に向けたまま血も止まってしまい、傷口が変形したかと思うと新しい頭に生まれ変わった。じゃあ元の頭はと目を向ければ、胴体と同じく新しい尻尾を手に入れ砂の霧の中から這い出てきた。体長およそ130mと幾分か常識的なサイズに、いや騙されるな、まだ三笠と同レベルだ。
ともかく切れば切るほど小さくなっていく、まだ900m残っている元胴体の方に2度3度と衝撃波がぶち当たり、結果ウワバミは130〜300mの5体に分裂する。旋回滞空していたアルビレオは急降下するべく180度ロール、背中の日依を真下に向け、背面飛行から一気に垂直降下へと以降した。嘉明の近くに向かう為の降下であるが、ついでとばかりに大蛇達の間を通り抜けるルートを選ぶ。分裂したまま団子状態にある連中の1体目をまず無視、持ち上げられた胴体をなぞる形で頭を引き起こし、続く2体目に強烈な突風を叩き付けた。皮の千切れる音を聞きつつも効果を確認せず3体目へ、これは角度が悪いので背中を掠めてその後左旋回、4体目は大きな口を開けて待ち構えていた。やべ、なんて言ってる間に日依の指示を待たずアルビレオ自身が翼を大きく打ち付ける事でホップアップし、突っ込んできた頭部をかわす。これは手放しで褒めるべき所であるがとにかく今は最後の5体目だ、腰の後ろで固定されていた尻尾9本を分離、自立機動する菱形の刃へと変える。
「しゃらあっ!」
すれ違いざまそれをすべて突き刺した、すぐ引き抜かれ日依のそばまで戻ってくる刃には赤い血がべっとり付いており、着陸姿勢を取りながら後ろを見ると、最初に分裂した130m(一番小さい)が左目を潰されて咆哮を上げていた。といっても、シャーシャー言うだけのヘビの鳴き声をうるさいと感じる人間はそう多くないだろうが。
「おいアホオヤジ!」
「話しかけんな今忙し…うおおお!?」
着地の瞬間アルビレオが蹴っ飛ばした砂をモロにかぶった現役陛下、ウワバミの胴体を引きちぎった一撃の5射目を取りやめ口に入った砂粒と格闘を始めた。その間に背中を降り、茶色くなったそいつへ詰め寄る。背後にいるのは小毬と兵士だ、そのうち刈り上げ頭は指揮官であり、このアホと引き合わせようとしていた人物である。
「いきなり何しやがんだペチャパイめ!…ちょちょちょ待て待て待て!なんだよ冗談通じねえな!」
刃の1本を眼前に突き付けてやると慌てて後退、それを見届けた後に改めてウワバミを確認する。目を潰した個体は血を止めたもののえぐれた眼球の修復はなされず、代わりに飛び散った肉片によって”真に常識的なサイズの”ウワバミが生まれていた。風で斬った個体も同じ、損傷した部分が削れている。
やればやるほど増えていく、ただし総質量が増える事は無く、また血液に関しては分裂の関与外である模様。
「積もる話は後だ、まず答えろ、アレに宝石は使われているか?」
「いや違う、もしそうならとっくに終わってるだろ。そもそもここ最近使われた石はほぼすべて木間王(せがれ)が彫ったもんだ、目に入れただけで割る自信がある」
「ああ、正室に産ませた待望の男児ね、その話も掘り下げる必要があるが今はいい。つまりあのウワバミ、規模は別として、ああなった原因は”ごく普通の魔術”って事だな。そうであれば話は簡単だ、どこかに本体が埋まってるはずだからそれを引っぺがせはいい」
要するに、奴は成長を促された訳ではなく肉付けされているのである。ここまでの攻撃結果から考えて状況によって形を変えるまったく別の細胞が集合しているだけで、分解されれば残った細胞でまた形を作る。言ってしまえば日依の刃、スズの玉とまったく同じ動作原理だ。
「本体どこだよ?」
「それが問題だ、1体だけならわかりやすかったものをこんなに増やしやがって。とにかく、行方不明の天皇陛下はこれ以上姿を晒すな、ババアの息のかかった部隊が来たら面倒な事になるぞ、艦砲射撃ももうすぐ始まる」
「……いや駄目だ、あいつに言わなきゃならん事がある」
「スズ?この事態に気付いてるかどうかもわからんな、穴から出てくんのはいつになることか。……何?ババアの謀略に関する話か?」
「違う」
「ふむ、我々にとって有益な話か?」
「違う」
「じゃあ何……いや…」
そこまで話して日依は思い当たり、じりじり迫ってくるウワバミ群との距離を確認。
「スズがここに帰ってくる事になったそもそもの元凶に関する話か?」
「そうだ」
そして視線だけを嘉明に戻しつつ、口元を引き上げにやりと笑う。
「ならなおさらこんな所で死ねんだろ、ほら行け、まず生き延びろ」
「クソ……おい!おいそこのスポーツ刈り!匿ってくれ!」
「はっ!……え、匿うのでありますか!?」
「大佐だろ?どうせいい家住んでるだろ?メイドもいるよな?美人のねーちゃがぁっ!!」
蹴った
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