第30話
「
「はいはいはいはい」
タンクトップとキャミソールとスカートを脱ぎ散らかして
「記録の準備は?」
「できてます!」
「牢屋の準備は?」
「終わってます!」
「うん。…………バレてない?」
「いちいち確認しなくても全部うまくやってますよ!どっかの誰かじゃあるまいし!」
「ふはははは!どさくさ紛れに上司をディスるな!」
秘書と一緒に事務室を出て廊下へ、小さい電球がいくつか付いた木造建築で斎院の一施設だ。畳敷きになっている廊下の左右に事務室や資料室がいくつか、一番奥は応接室に繋がっている。用があるのは一番奥だ、奴はそこに通されたらしい。
「っし!」
目を瞑り、自分の頬をはたいて気合いを入れる。開いた時にはニヤけ面が吹っ飛んでいて、少し据わった目と固く結んだ唇、至って真剣な面持ちで廊下を歩いていく。
院内は不自然に静かだった。予想外の事態が起きた場合だと普通は大騒ぎになるはずだが、予想外の事態を起こした張本人があまりにも大物過ぎたため、騒ぐ訳にもいかず、かといって仕事も手に付かず、各人仕事場にこもって事の次第を見守っている、という状況。唯一廊下に出ている大副官がこちらの姿を認めるなり近寄ってきた、この中で一番高齢な男性ながら額には汗、真顔を取り繕っているものの混乱状態は隠しきれていない。
「封鎖は終えました、もう斎院からは出られません」
「ん」
「如何なさるつもりです?あの方は……」
「貴官が気にする事ではない」
止まらず横をすり抜ける、廊下を渡りきり応接室の前に立つ。内部では微かに話し声がしていたが、戸を開いた瞬間に声は止んだ。10メートル四方で照明の消されている部屋は窓からの光のみで照らされ、日依の左横にスタンドライトの付いた机がある以外には座布団1枚があるのみ。人間は部屋の四隅に1人ずつボディーガード、部屋中央で跪いていた神官は立ち上がり、ソレに一礼してから反対側の扉を塞ぐように待機した。
装飾品の付いた赤茶色の髪と同色の狐耳、袖から先が分離し肩の見える緑の着物と黄色い帯、背後には4本の尻尾が浮かんでいる。秘書が戸を閉める音を聞いてから日依は足を揃え深く一礼し、その間に秘書は机の前に移動し会話記録の準備をする。
「姫様、ずいぶん大きくなられて」
「そちらは変わりないようだ」
座布団を指し示し、
1人の神官と4人のボディーガードが固唾を飲んで見守る中数秒の沈黙、周囲の緊張をよそに両者は目を合わせ。
一瞬だけ日依は笑った。
「大内裏の件でしょうか」
「それ以外に何がある、このまま放っておけば待つのは破滅だ、すぐにでも手を打たなければ」
「……確かに、政官の腐敗は日に日に増すばかり。お目にかかられたでしょうが、この鳳天大樹も統治を失いつつあります、つい先日にも無意味な粛清が行われました」
「ああ、見るに耐えない。父がやったというのなら止める責は……」
「姫様?ご存知無いのですか?」
秘書はさらさらとペンを走らせる、それを視界の端で確認し。
「陛下は一月前より行方知れずとなっています」
「んな……」
「今政務を取っているのは
神官に目配せする、頷き、ボディーガードが動き出した。
「っ…待て!伯よ!」
「もう遅いのです」
扉が開き、4人のボディーガードに引きずられるようにソレは部屋から出ていった。
視界から消え失せ、5秒待ち、右を確認、誰もいない、左を確認、誰もいない。
「はぁー……」
大きく息を吐きつつ立ち上がる。着たばっかの袿を脱ぎ、同じく立ち上がった秘書にポイ。
「皇天大樹に電文を打て、あいつが牢屋の壁をぶち抜く前に迎えを寄越せってな」
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