第12話
「提督」
差し出した右手には楕円形の石が置かれた。素材は聞いた通りの黒曜石、中央部分に彫られた菱形12個は稲穂を象った伊和の紋。サイズは手のひらに収まるほどで、何の力も感じないあたり、既に役目を終えて沈黙したか。
「敷島の艦尾にこれと同じものが置かれていたそうです。ただ、
「これを見にここまで来たのだけれど、まさか仕掛けられる事になるとは……孔雀石っていうのは?」
「まだら模様を持つ緑色の宝石です、知らないのですか?」
「宝石は興味なくてねぇ」
石を転がしつつ、飛行船が繋留されている大樹へ視線を移す。ここより少し下層にある枝の先端は噂の通り生気を失ったような色でしおれており、枝先とはいえ上に家が建てられるほど太いそれを切断しようと作業する人の姿がかすかに見えた。先程通過した大樹含め本当に枯れている。それはそれで問題なのだが、一番の問題は元凶となった石に伊和の紋が刻まれていて、伊和天皇の仕業なんじゃないかと噂が立っていた事である。それで調べに来たところ結果は最悪、事実であった上に立証人となってしまった。
「ここに来るまでに巡洋艦1、駆逐艦2を喪失……あの海坊主は?」
「例の石が効果を失っているなら襲ってくることは無いでしょうが、近くを回遊してはいるかと」
「身動きが取れなくなったか……仕方ないわね。第6艦隊本隊はただちに瑞羽大樹へ入港。私が離船し次第、第12航空船は瑞羽大樹周辺海域を周遊、搭載機を使用し哨戒活動に当たって頂戴」
「了解いたしました」
余計な事をするな、という警告なのだろう、あの孔雀石は。だとしたら今すぐここを離れるべきなのであろうが、直接言いにも来ないでこんなものを置いとくだけの脅しなんぞに屈するつもりはない。
「向こうの特使が到着しました、受け入れ準備が整ったとのことです」
「なら私は行くわ。船長、くれぐれも」
水兵がそう報告し、左手をひらひら振りつつ出入りハッチへ。護衛を伴って階段を降りると、待ち構えていたのは修道服姿の老婆と、白い服を着た、白い髪の少女だった。その背後には髭面の男が控えていて、そのさらに後方、緑のパーカーとデニムのホットパンツ、緑の帽子をかぶった、白いのより少し大きい少女がいる。階段を降りきり、修道女の前へ。
「お久しぶりですわシスター、ああ今は牧師だったかしら」
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