第80話

 「その程度じゃワシに傷一つ負わせることは出来ぬ。」

「そうね。私が言った通り、霊力同士の闘いをしましょうか。」

私は更に霊力を開放する。

まだ大丈夫。まだ少し余力がある。

自分の鼓動を確認し体の状態を知る。

暴走して鬼にならないように…。


「水樹殿…。」

黒爺が心配してくれている。だけど大丈夫。

私は絶対に負けられないけど、鬼にはなりたくないの。

少しかがんで、妖刀 朱雀を左へ思いっきり振り構える。

剣先は真後ろを向いているはず。


こんな大袈裟な構えだと、才蔵さんにはどう見えているのかな…。

もちろん私の攻撃は見切っているでしょうね。

だからこそ盲点がある!


「かかってきなさい!」

「小娘が図に乗るな!!!」

槍をコンパクトに構え鋭い突進を仕掛けてきた。

攻撃も防御もこなせる体勢ってことね。


だけど…、これはどうかな!!!!

才蔵さんの速度に合わせて鋭く振りぬく!

「馬鹿め!!!」


彼は思わず叫んでしまった。

そう、この位置からだと木が邪魔になる。

朱雀にもっと霊力を注ぎ込めば、この大木ごと斬ることは出来る。

だけどそれでは、大木ごと斬るという攻撃が、彼にも知られてしまい簡単に防がれてしまう。


その後接近戦で私を追い詰めることぐらいはしてくるかも…。

だけど朱雀は大木だけを斬らずに才蔵さんを襲う!

「!?」

彼は槍を立てて慌てて攻撃を防ぐ。

ドンッッッ!!!

今までにない衝撃が木々を震わせた。


遠くに居た小鳥達が驚き飛び立っていく。

私の渾身の一撃を防いだ才蔵さんは、2・3m吹っ飛ばされながらも、何とか持ちこたえていた。

流石生粋の武将…。

これが防がれるなら、後は奇抜な攻撃しか繰り出せない私がジリ貧になっちゃう…。


だけど…。

「なるほど…。お主の力量、存分に見せてもらった。一つ質問しようぞ。」

「どうぞ。」

「お主の力の源は何じゃ?高賀山開放?人間には関係ないじゃろう。」

「私は両親をさるとらへびに拘束されて、その為に闘っていた…。けど今は、色んな妖怪達と出会って、色んな事情を知ちゃった。彼等の為に闘いたい。あなたのようにね。」

「………。」


才蔵さんは何も言わなかった。

だけど私は知っている。

さっきの攻撃はわざと受けたんだって。


じゃないと私達を取り囲んでいる仲間たちに被害が出るほどの攻撃だもの。

彼は自分の為だけに戦っていない。

仲間の命の事も大切に思いながら戦っている。


二人は同時に戦闘体勢を解いた。

私も朱雀を鞘に収める。

「おい、水樹…。どっちが勝ったんだよ…。」

「そうね。ここは一度帰りましょう。後は彼等の判断に委ねます。まぁ、どちらかというと彼らの黒幕ね。」

「………。」

そう言って一礼して帰ることにした。


協力してくれる確約は取れなかったけど、きっと来てくれる。

そう信じられる目を、彼はしたいたから。


それにあのまま闘っても仕方のないこと。

だって彼は、私の攻撃を受けた衝撃で右腕が痺れていたのが視えた。

だから、そんな事も告げずに、そして闘うことなく去る事が彼のプライドも傷付けずにしておけると思ったの。


それに彼は嘘を付いている。

才蔵さんが代表者だと名乗ったけども、本当の代表者は別にいる。そう黒幕が…。

それが誰かまでは視えなかったけど、きっと相当な切れ者だと思う。

その人の判断がどう転ぶか…。


深読みするならば、私の能力に真実の目があることを知っていて嘘を言ってきている可能性すらあるよね。

そうなれば、当然私は迷うことになる。


そこまで考えて才蔵さんを前に出したならば、私に手立てはないかな。

そしてそこまで読んで指示した黒幕ならば、ひねくれ者というよりは戦略家だよね…。

兎に角彼等の回答を信じる事にした。


その日の夜。

私達は早めの夕食とお風呂を済ませ、高賀山自然の家に向かった。

元気になった岩蛇さんを中心に、中央、東、南、西地区の妖怪達が大集結している。


星宮天狗ほしのみやてんぐさんと江戸時代の剣豪さん、朱狐あかぎつねさんと蒼狐あおぎつねさん、岩男さんと雪女さんと座敷童さんと河童さん、そして彼等を慕い集まった様々な妖怪達。

こうやって見ると豪華なメンバーだよね。


「北地区の奴らはどうした?」

岩蛇さんからの言葉に、各地区の妖怪達が私に注目した。

「残念ながら、味方になるかどうかは五分五分と言ったところです。」

「うーむ…。」

期待していただけに、味方になる確約が無いのは厳しい。

私だってそう思うもの。


「だけど悲観ばかりしていられません。私は、今いる仲間達だけでも攻めたいと思っています。」

「彼等から確約を取ったとしても、本当に信頼出来るかどうかは誰にもわかるまい。」

岩蛇さんの言葉に他の妖怪達も納得している者も多い。

確かにひねくれ者という評判が広まっている北地区ならではの反応だね。


「敵の戦力は分かっているだけでもどれだけなのだろうか?」

星宮天狗さんからの質問だ。

「そうね、まずは烏天狗が二人だけど、南地区を襲撃しにきた時は大量の烏を連れてきていたよ。その時に連れ去られた三千洲さんぜんぶちの悪霊が三千人、最初に皆で集まった時にさるとらへび側に付いた妖怪も数十人はいるかもね。後は未知数…。どこからか連れてこられている可能性もあります。」


「怨霊が厄介だな。数が多い。」

私の説明に岩男さんが答えた。

「でも、攻撃力自体は低いから、冷静に一人ずつ倒していきましょう。」

その時、グラウンドを囲うフェンスの外に気配を感じた。


「未知数が気になるけど、力は均衡していますね。」

座敷童の意見だ。

確かにここまでは何とかなる予想は出来る。


「北地区の彼らが味方なら勝算はグンと上がるね。」

後ろの気配に聞こえるように言った。

きっと北地区からの密偵だよね。


こちらに勝算があるということは、アピールしておくことにする。

彼等は戦国時代を駆け抜けた武人。

恩義にも熱いだろうしね。

それともう一つアピール。


「私達は高賀山開放を宣言し、さるとらへびを討ちます。皆さん、正義は私達にあります!それを忘れないでください!!」

オオオォォォオオォォォォオオオオォォォォオォォォォ!!!!

歓声が沸き起こり、地響きすらする。


そして密偵の気配は消えた。


こうして、今までで一番長い夜が始まった。

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