第65話
小鳥のさえずりで目が覚めた。
いい天気~。
思いっきり伸びをして一階へと降りる。
「パパ、ママ、おはよう。」
居間は悲惨な状況のままだけど、両親とも体に変化は無いみたい。
まだ霊力も残っているのが分かるしね。
どちらかと言うと、エナジードレインを防ごうと抵抗しているみたいで、さるとらへびは上手く吸収出来ていないのかもしれない。
いつもはのんびりしているパパや、笑顔が絶えないママからは想像も出来ない。
巫女の血の成せる技なのかな。
それにしてもまったく気付かなかったなぁ。
お風呂へ向かいシャワーを浴びる。
身を清め、今後に備えることにする。
居間の隣の応接間では、韋駄天と黒爺が寝ていた。
お客用の布団を敷いたみたい。
まぁ、いいけどね。
時計は朝の7時過ぎを指している。
台所へ向かい朝食の準備を始めた。
いつもはパン派の我が家だけど、黒爺の口に合わないかもって思って和食にした。
鮭定食みたいな感じで3人分作り、二人を起こす。
相変わらず韋駄天は寝相が悪かった。
「起きなさーい!」
黒爺はスッと起きる。
韋駄天は大きな口を開けて寝ている。
「韋駄天!!」
耳元で大声を出すと、彼は飛び跳ねて起きた。
「支度してね。ご飯出来てるから。」
そう言って応接室を出て
二人は身支度しているだろう。
テーブルに着き待っていると、直ぐに二人はやってきた。
「さ、食べましょ。」
黒爺は今回は素直に座った。
「いただきまーす。」
各々好きに食べ始める。
「これは旨い。水樹殿は良いお嫁さんになれるのぉ。」
黒爺が褒めてくれた。
お味噌汁が気に入ってくれたみたい。
「そうじゃった。昨日は岩蛇殿に会って来た。高賀山に
「上手くいくかなぁ。」
「分からぬ。それほどまでに、さるとらへびの力は強大である。奴に付く者もおるじゃおう。それに巻き込まれまいと、中立を宣言する者もおるじゃろう。」
「そこは人間も妖怪も一緒なのね。」
「負けた方に付いた奴らは、殺されるって雰囲気だったぞ。」
韋駄天の大雑把な感想だけど、状況を考えると的を得ていると思う。
「彼らにしてみれば、生きるか死ぬかの問題である。妖怪であるが故に長寿なことが、自分の
「そうかぁ…。やっぱり人と変わらないね。」
自分の居場所、自分の立場、自分が自分である意味。
やっぱり妖怪って、やっていることは人とあんまり変わらないのかも。
「ふむ。そんな事をいう巫女殿は初めてじゃ。」
「へー。他の巫女さんは、何て言っているの?」
「妖怪は殺してしまえと言うじゃろうな。」
「えっ!?」
「まぁ、水樹殿は驚くかも知れぬ。じゃが、人と妖怪の歴史は根深い。幾人もの罪なき人々が、雑草を刈るが如く殺されているからの。悪と認識し倒す、という行動に出るのも無理はない。」
私は考えさせられた。
「でも、今までに出会った妖怪さん達は、誰もが歴史があって、妖怪であることの理由があったよ。それを人間だからって簡単に討伐することはおかしいと思う!」
いつの間にかテーブルに体を乗り出し力説していた。
「ワシらは巫女殿に助言し、援護ぐらいしか出来ぬ。決めるのは巫女、つまり水樹殿じゃ。お主の信じる道を行くが良い。」
「あ…、ごめんなさい。でしゃばっちゃった…。」
「気にするな。この老いぼれ、これが最後の任務になろう。それが水樹殿で本当に良かったと思っておる。」
「黒爺…。」
「俺も!俺も水樹についていく!」
「勿論よ。私のために、その足が折れるまで走るって言った言葉、忘れてないからね!」
「任せとけ!」
食事を済ませると、実家の向かいに住んでいる源爺のところへ行く。
そこで、スマートフォンでテレビ電話を
『水樹ちゃん!心配してたのよ?大丈夫?』
「うん、大丈夫です。」
おばさんの背後は見慣れた高賀山自然の家だった。
「今日はお客さんはいらっしゃいますか?」
『それがね、一人しかいないのよー。これじゃぁ赤字待ったなしだわ。』
あぁ、死活問題ですよね…。
「実はですね…。」
『やっぱり
「違います!違いますー!」
『あら?違うの?』
韋駄天…、あんたどれだけ親に信用されていないのよ…。
「今晩、そこのグラウンドで妖怪さん達が集まって会議をすることになったんです。」
『あれま。大丈夫かしら?』
「危害は加えないと思います。だけど、一応早めに帰っておいてください。」
『分かったわ。お客さんにも、なるべく外に出ないように言っておくわ。』
「お願いします。また何かあったら連絡しますね。」
『はいはーい。天大!しっかり水樹ちゃんを守るのよ!!』
「言われなくてもわかってるちゅうの!」
『水樹ちゃん、天大はむっつりすけべだから気を付けてね。』
「あははははは。気を付けます。」
「誰がむっつりじゃー!」
そこで電話を切った。
「水樹、無理はするでないぞ。」
話を聞いていた源爺の言葉だ。
「瞳も光司もそうじゃが、いつの間にか突っ走ってて、危なっかしいったらありゃせん。」
「でもね、私がやらないといけないの…。ううん。私じゃないと出来ないの。だから頑張る。それだけだよ。」
そう言って微笑んだ。
源爺はちょっと驚いて、そして笑った。
「まったく。水樹は瞳そっくりじゃわい。留守は任せておけ。じゃが、帰りを待っている人もいることを、忘れるなよ。」
私はその言葉に、ちょっとウルッときちゃった。
再び家に戻ると、黒爺がスマートフォンを見せてくれと言ってきた。
「何と便利な箱じゃ。これで離れていても顔が見れて、しかも話も出来るとは…。」
「黒爺、スマホ知らないの?」
「初めてみたわい。」
そう言えば黒爺って、天皇直属部隊とか何とか言っているけど、実はそれ以外何も知らなかったりするよね…。
「今日は体を休めつつ、夜に備えるとしようぞ。」
黒爺はそう言って、縁側でのんびりお茶をすすっていた。
だけど、これが嵐の前の静けさだとは思いもよらなかった。
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