181.甲冑-Armor-
1991年7月3日(水)PM:18:24 中央区精霊学園札幌校中等部一階
「三井さん、遅いね」
「忙しそうだったしねぇ」
体育館にいるのは二人。
桐原 悠斗(キリハラ ユウト)と中里 愛菜(ナカサト マナ)だ。
他には誰もいなかった。
所在なさげに座る愛菜。
半袖の白の体操シャツに紺のブルマ姿だ。
悠斗も半袖の白の体操シャツ。
下は紺の短パンを穿いている。
「忙しいのに、無理に頼んじゃったかな?」
申し訳なさそうな声。
呟いた愛菜。
悠斗は彼女の隣に座っている。
頭に手を置いて撫でた。
「んっ。慰めてくれてるの? ありがと」
「時間に遅れるかもしれないとは言ってたしさ。気長に待とうよ」
「うん、そうだね。ゆーと君、ありがと」
彼女は恥ずかしそうに俯いた。
しばらくして、聞こえてくる音。
それなりに重さのある、体育館の扉が開く音だ。
扉の奥から現れたのは三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。
白髭に白髪の人物、土御門 鬼湯(ツチミカド キユ)もいる。
更にその後から河村 正嗣(カワムラ マサツグ)。
隣にはモヒカンの男性もいる。
「悠斗に愛菜ちゃん、遅くなってわるかった。愛菜ちゃんには、このじじぃが指導担当する」
「じじぃはじじぃじゃが、ちゃんと紹介してくれんか? 馬鹿弟子め」
二人の謎の遣り取り。
唖然としている悠斗と愛菜。
鬼湯は苦笑いの表情。
二人を見ていた。
「この方は土御門 春己(ツチミカド ハルミ)様です。悠斗様、愛菜様、焼肉の時以来ですね。悠斗様のお相手は私がします」
「そうなんだ。それでマサは何でここに?」
「あぁ? 俺か? 俺は自分の力のコントロール方法を教えて貰う為にね。あ、そっか。悠斗も愛菜ちゃんも、親父に会った事ないんだっけ?」
「親父?」
正嗣の背後で無表情で立っていた男。
悠斗達の前にゆっくりと出てきた。
「悠斗君、愛菜さん、お話しは息子の正嗣から聞いている。俺は河村 正富(カワムラ マサトミ)、話しでわかったと思うがこいつの父親だ」
「俺も知らなかったんだけどさ。うちの家族や有紀の家族も学園創設に関係してるらしいぜ」
「まじか?」
「いろいろと話しもあるじゃろうが、時間も限られておるし、それぞれ始めようかのう?」
「俺は、まだ学園関係の仕事があるから、じじぃ後はよろしく」
そう言うと、答えも待たなかった。
体育館から走り去っていく義彦。
「せっかちじゃのぅ」
彼が体育館からいなくなる。
正嗣と正富は、少し離れた所に移動していく。
歩きながら、正富が正嗣に何かの説明を始める。
悠斗も鬼湯に連れられて、愛菜達とは離れた場所に移動した。
「さて、動きやすい服装とは聞いていたとは思うが、そんなに激しい運動はしないからのぅ。明日からは普通に普段着でもかまわんぞ」
「え? あ、えっと。はい」
少し恥ずかしそうな表情になる愛菜。
「さて、お主は全くコントロール方法を知らないと聞いておるが、間違いないかのぅ?」
「はい、申し訳ありません。知らないです」
春巳の前に立ちながら愛菜はそう言葉にした。
「何、そう畏まる事はないじゃろ? 最初は誰もがそうじゃからのぅ。義彦じゃて、吹雪じゃても最初はそうじゃったのだから」
「はい」
「知識的な事は授業ですると思うからのぅ。実践的な事に止めようと思う。そうじゃな、まずは目を瞑って意識を集中してもらえるかのぅ」
春巳の言葉に目を瞑った愛菜。
目を瞑っている彼女。
その耳に、春巳の声が響く。
「最初は中々難しいかもしれんが、自分の体の表面を流れる力があるはずなんじゃ。精神統一して何も考えずに感じてみるとええ」
その頃、悠斗は鬼湯と組手をしていた。
彼女は愛用の手甲を腰にぶら下げている。
鬼湯は防御をするだけのようだ。
しかし、悠斗の攻撃は悉く宙をきる。
もしくは逸らされていた。
正嗣は正富の説明を聞いている。
同時に意識を集中させているようだった。
愛菜と同じような事をやっているようにも見える。
愛菜の体が一瞬震えた。
しかし、その場に膝をついてしまった。
少し汗をかいており、疲労しているようだ。
「ほう。一瞬だが感じたようじゃの。慣れるまでは大変かもしれんが、まずはその感覚を自然に出来る様にせないかん。コントロールしようにも、感じる事が出来なければ、話しにならんからのぅ。ちなみにじゃ、義彦は二週間、吹雪は一月かかったのぅ。それまでは二人とも感情の暴発でしか無理じゃった」
「暴発!?」
春己の発言に驚きの愛菜。
しかし、彼はそのまま言葉を続ける。
「そうは言っても本当小さい頃じゃったから、暴発しても微々たるもんじゃったがな。二日で習得した者もいたが、これは論外じゃな。そう簡単に出来る事でもない。だから、愛菜ちゃんも焦らないで地道にやればええ」
肩で息をしている愛菜。
春巳の言葉を聞いている。
彼女は、春巳の言葉に肯定の返事を返す。
その後、再び立ち上がり、精神集中を始めた。
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1991年7月3日(水)PM:21:32 中央区精霊学園札幌校第四研究所一階
「機鎧型式神豪壁一号(キガイガタシキガミゴウヘキイチゴウ)とか言ったか?」
「確かそうじゃな」
ブルーシートに積まれている上半身だけの甲冑。
そのうち背部に破壊の痕跡が無いのだけは、端に除けられていた。
壊れた上半身だけの甲冑。
眺めているのは義彦と春己の二人。
義彦は屈んで、一番手前の壊れている甲冑を拳で軽く叩いた。
小気味良い金属音が響く。
「この状態なら壊せそうなのにな。あの時は殴るだけじゃ壊す事も出来なかった」
「ふむ。そうなのか? それじゃ実際に試してみようかのぅ」
「え? 試すってどうするんだよ?」
出入口に備え付けられている電話。
そこまで歩いた春己、何処かに連絡している。
その様子を、義彦は何するでもなく見ていた。
「忙しい所悪いのぅ。少し頼みがあるんじゃが?」
誰かと話している春己の声を聞いている義彦。
全く別の事を考え始めた。
銀斉 吹雪(ギンザイ フブキ)、十二紋 柚香(ジュウニモン ユズカ)とのいざこざ。
そして陸霊刀 黒恋(リクレイトウ コクレン)との確執だ。
「そうじゃ。四個位なら壊しても問題ないんじゃな。わかった。忙しい所すまんかった。ありがとう」
電話を終わり戻ってきた春己。
無事だった鎧の一つを装着する。
「じじぃ、何してんだ?」
突如、春己の体が全身甲冑に覆われた。
「なるほど。魔力を発動させると、その後は強制的に吸い続けるようじゃのぅ。これは確かに正式採用はされないわけじゃ」
「何納得してる? それでどうするんだ?」
「儂と戦え」
「はっ!? 突然何だ? じじぃ、意味がわからんぞ」
「そうじゃのぅ。壊せるかどうか儂を殴ってみぃ」
「ん!? そうゆう事か。殴ればいいんだな」
「そうじゃ。全力で構わないぞ」
「わかった」
義彦の瞳が赤黒くなる。
体中に赤黒いオーラを纏っていった。
春己は、両手を交差させて防御の姿勢だ。
義彦は一気に加速して前に突き進んだ。
暴風のように突っ込んだ義彦。
何も考えないで右ストレートを放つ。
衝撃に後ろに吹っ飛ばされそうなった春己。
しかし、割と平然としている。
鎧にもダメージは全く無かった。
「どうゆう原理かはわからぬが、流す魔力が膨大である程、強度も爆発的に上がるようじゃのぅ」
「おいおい、あの時は手加減してたけど、今のは割と本気だったんだぜ。燃やし尽くすとかは出来るだろうけど、殺す以外に行動不能にする方法無いのかよ」
「試してみると良いじゃろう」
「建物ぶっ壊してもいいのかよ?」
「余程じゃなければ、自動修復されるじゃて。それにここは、利用開始するのはまだまだ先になるじゃろうから問題あるまい?」
「文句言われたら、じじぃに罪を擦り付けるぞ?」
義彦は竜巻を左手に集中させて殴る。
しかし、ダメージを与える事はない。
更に竜巻を放ったが、春己の両手で握り潰された。
「やっぱ、切断系の攻撃じゃないと無理っぽいぞ」
「相手を殺す事ではなく倒す事だけを前提にすると、直接攻撃が効かない場合の攻撃の手段が限られるというのは、弱点になり得るのぅ」
「そうだな。くそ、何か方法はないだろうか?」
「これ自分の意志では脱げないのかのう?」
「なんだよそれ? 欠陥もいい所じゃないか? 魔力放出やめればいいんじゃないの?」
「ううむ。それが式神が解けないのじゃ」
「そうなのか? それじゃあいつ等はあの後這う這うの体で戻ったんだろうか?」
「そうゆう事になるんじゃろうな? 馬鹿弟子よ、悪いが背中を斬ってくれぬかのぅ?」
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