176.担任-Homeroom-

1991年7月1日(月)AM:8:33 中央区精霊学園札幌校中等部三階


 担任が教室に現れた。

 驚きの声の桐原 悠斗(キリハラ ユウト)。

 中里 愛菜(ナカサト マナ)は目が点になっている。


 驚いているのは他にもいた。

 びっくり仰天している河村 正嗣(カワムラ マサツグ)。

 沢谷 有紀(サワヤ ユキ)は目を白黒させていた。

 担任を二度見した銅郷 杏(アカサト アン)。


 入学一日目のホームルーム。

 担任として現れた山中 惠理香(ヤマナカ エリカ)。

 彼女は我が意を得たりという表情。

 驚きの表情の五名に、順に視線を向けた。


 まさかの彼女の登場。

 驚愕の顔をしばらく続けていた五名。

 他の同じクラスの生徒達。

 彼ら五名の反応にこそ驚きの眼差しだ。


「何で惠理香先生がここに?」


「悠斗君、しゃらーっぷ! 見知った顔もいますが、気にしないで進めます。始めまして、今年度、中等部一年一組の担任をする事になった山中 惠理香(ヤマナカ エリカ)です。受け持ち学科は英語と魔術全般になるからね」


「魔術だって? そんなの今まで聞いた事ないって」


 正嗣の言葉と同じ思い。

 悠斗も心の中で感じていた。


「当たり前でしょ。話す必要性がなかったんだから。そんな事はいいじゃない。本当は皆の自己紹介をして欲しい所だけど、まずは入学式があります。廊下側の生徒から順に廊下に並んでね。男女で分かれて、出席番号順に一列に並んでね。先導は私がするから」


 彼女の言葉に少し躊躇した生徒達。

 廊下側の生徒から教室を出始める。

 順々に廊下に並び始めた。


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1991年7月1日(月)AM:9:15 中央区精霊学園札幌校競技場


 古川 美咲(フルカワ ミサキ)の挨拶が終わった。

 学生代表の挨拶が始まる。

 まずは高等部の代表だ。

 代表として呼ばれた名前。

 悠斗も知っている人物だった。


 しばらくして、瀬賀澤 万里江(セガサワ マリエ)が壇上に現れる。

 ショートヘアのボーイッシュな黒髪の彼女。

 普段よりも凛々しい彼女の声が響いた。


 はっきりと話す彼女の言葉を聞いている悠斗。

 背後からの視線を感じて、振り向いた。

 そこで愛菜と視線が合う。

 彼女に微笑んだ悠斗。

 再び正面を向いた。


 精霊学園の制服等はあるらしい。

 だが、ここ最近の頻発した事件の影響。

 手が回らず、後日に支給になるそうだ。


 その為、今この場には様々な服装が入り乱れている。

 私服もいれば、元々通っていた学校の制服の生徒もいた。

 悠斗と愛菜は私服を着ている。


 中には目立つ服装の人もいた。

 白髪の少女達は振袖姿。

 単色のドレスとベールを纏っている少女達。

 悠斗が気付いただけでも五人はいた。


 祭りの時に見た人達。

 その姿と似通っていた。

 しかし、祭りの時もしっかりと顔まで見たわけではない。

 同一人物だという確証を悠斗は得られなかった。


 チャイナドレスを羽織っていた少女。

 同じクラスにも二人いた。

 そんなに多いわけではない。

 しかし、目立つ服装の人物。

 どうしても目立ってしまう。

 悠斗も、見ようとして見ていたわけではなかった。


 万里江の代表挨拶が終わった。

 次に名前を呼ばれたのは白紙 伽耶(シラカミ カヤ)。

 中等部代表だ。


 壇上に立つ彼女。

 珍しくツインテールにしている。

 はきはきとした彼女の声が響いてきた。


 彼女の短い挨拶が終わる。

 小等部の代表の名が呼ばれた。

 壇上に現れた竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)。


 悠斗も何回か話しをした事があった。

 聞いた事のある彼女の声が響き渡る。

 彼女の話しを聞きいている悠斗。

 第二回焼肉宴会の時。

 テキパキとした動作で給仕をしていた。

 その姿を思い出している。


 彼女の挨拶も終了。

 次に呼ばれたのは三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)。

 悠斗は何故、彼が呼ばれたのか疑問に思った。


 しかし、その疑問は彼の言葉により解消される。

 彼の背後には同じクラスにいた振袖姿の三人。

 意匠が異なる袴と巫女服。

 二つを合わせたような服装の五人が立っていた。


「暫定風紀委員長の三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)だ。正式な風紀委員が選出されるまで、我々九人が暫定的に風紀委員として秩序の維持に努めさせてもらう。入学早々問題が起きるような事はないと思うが、各々本分を忘れずに勉学に修練に励んでくれ」


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1991年7月1日(月)AM:10:34 中央区精霊学園札幌校中等部三階


 初日は、入学式と学園のついての説明。

 昼前には終わる予定だ。

 担任の惠理香の説明が始まった。


 通常の学校と同じだ。

 月曜から金曜は午後までの授業。

 土曜日だけは午前中までだ。


 それとは別に、月曜水曜金曜は特別授業を行う。

 この特別授業こそが、この学園の本題となるわけだ。


 最低六人からのチーム登録が事前に必要ではある。

 だが、授業外時間に仕事を請け負う事が可能。

 アルバイトのようなものだ。

 仕事内容は事務的な事から調査。

 危険を伴う物まで、多岐に渡るようだ。


 明日以降は、能力測定や身体測定等が順次行われる。

 生徒会長選出の自薦他薦募集等も開始予定。

 惠理香は、一つ一つ順番に、細かく噛み砕いて説明していく。

 また、内容の区切り毎に質問も受付ていった。


 学園の時計塔周辺にあるテナントスペース。

 アメリカに本社を置くスーパー。

 精霊学園でのみ出店しているお店。

 明日からの開店準備に取り掛かっているそうだ。

 店の名前はエレメンタリ札幌。

 他にも喫茶店や、中華料理店等の出店予定もあるらしい。


 事前申請無しの外出可能時間も決まっている。

 六時から二十二時までだ。

 指定時間外の外出。

 許可無しに行ったのが判明した場合。

 ペナルティが課せられる予定のようだ。


 学園としてのイベントも企画されている。

 音楽祭や学園祭、修学旅行等。

 通常の学校でも行うような行事。

 トーナメント等の、学園独自のものもある。


 あくまで予定だ。

 今後変更される可能性も考えられるだろう。

 生徒達は説明の間、比較的真面目に話しを聞いていた。


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1991年7月1日(月)PM:13:54 中央区精霊学園札幌校時計塔五階


 頑強そうな机の上。

 書類仕事に追われている古川。

 彼女は理事長という役職だ。


 ここは、理事長室。

 彼女は寝不足のようだ。

 瞼の下には少し隈が出来ている。


「くそ、こんなに忙殺される事になるとは思わなかった」


 半ばやけくそ気味にぼやいた古川。

 そこに扉がノックされた音が響いた。


「誰だ?」


「俺だ」


「そんな反応するのは一人か二人しか思いつかないぞ」


 扉を開けて入ってきたのは義彦。


「一人か二人って俺と誰だよ?」


「他には龍人しかいないだろ? それでどうした?」


「一応事の結末を聞きに来た」


「悪いが忙殺中なんでな。仕事しながらでいいか?」


「もちろん構わない」


「コーヒーが飲みたければ、勝手にいれてくれ」


「わかった」


 勝手にコーヒーを入れた義彦。

 ソファに座ってから古川に話しかけた。


「それで、襲ってきたのは監察官なのか?」


「お前達の証言と状況証拠から、ほぼ確定だろうな。だが加害者が全滅してしまったからどうなるか?」


「全滅ってどうゆう事だ? 少々の怪我はしたとは思うが、殺してはいないはず?」


「殺したのはお前達じゃないさ。確か監察官の札幌支部の第三倉庫だったか? そこで死体で見つかったらしい。私も詳しくはまだ知らないのだが、手を下したのは監察官札幌支部の支部長、鳥澤 保(トリサワ タモツ)だ」


「鳥澤? その名前どっかで聞いた事あるような?」


「三属性使いの覚醒者だからな。名前位は知ってて当然だろ」


 言葉を続ける古川の表情。

 微かに何か苦いものに塗れている。


「なんでそんな事に?」


「さあ? 迪から聞いた話しだからな。だが支部長補佐の雁来も死亡したらしいから、関係あるのかもな?」


「どうゆう事だ?」


「迪の話しだと、二人は深い関係だったらしい」


「暴走・・か」


「たぶんな。鳥澤は事を成した後、自首したらしい。今頃は、監察官東京本部も大騒ぎだろう。たぶん組織としての監察官は、解体されるんじゃないか?」


「そうか」


「当分先になるだろうけど、詳しい事がわかったら教えるか?」


「了解。お願いする。それじゃお邪魔しました。コーヒーご馳走様。いやご馳走様じゃないか?」


「そこはどうでもいいだろ? カップそこ置いといていいぞ」

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