151.始動-Begin-
1991年6月15日(土)AM:11:04 中央区特殊能力研究所五階
「なるほど、中々に面白そうな提案だと思いますよ」
第四研究室まで僕は来ていた、
不健康そうで、色白の青年の白磁さん。
僕の提案を、そう評してくれた。
ふと、窓ガラスの向こう側を見た。
桜田さんが、一人の研究員と話している。
どうやら、指示を飛ばしているようだ。
「拓真さんはどう思います?」
白磁さんの問いかけ。
少し思案するような表情になった拓真さん。
僕と拓真さんが車椅子。
白磁さんがソファーに座っている。
僕を運んでくれた紗那さん。
拓真さんを運んできた火伊那さん。
ソファーに座るのを辞した。
僕達の背後に立っている形だ。
遠慮せずに座ればいいのに、とは思ったけど。
「そうですね。おそらく可能ではないかと思います。発想としても悪くないと思いますし」
「それじゃ?」
「悠斗さん、私も協力させてもらいます」
「第四研究室も同じく」
拓真さんも白磁さんも、協力を約束してくれる。
まさかこんなにすんなりいくとは思ってなかった。
即答に近い形での、協力の約束。
正直言って、びっくりだ。
「ありがとうございます」
意識したわけじゃない。
けど、僕は思わず、座りながら頭を下げていた。
「悠斗さん、頭を上げてください。それでまずは四分の一のサイズぐらいで、試作してみるのがいいと思うのですが、白磁さんはどう思います?」
「そうですね。いろいろと問題点もでてくると思いますので、試作する必要があるという意見に同意ですね」
「それでは僕は、内部の図面とモデルを作成しますね」
「お願いします。その間に、外部の素材選定を、悠斗さんと協力して行ないますね」
「白磁さん、拓真さん、本当に協力ありがとうございます。またこれからよろしくお願いします」
「こちらこそ、自分の技術がいかせる場所を、提供してくれた事にお礼がいいたいぐらいですよ。それでは、所長に呼ばれてるので僕は先に失礼しますね。白磁さんもまた後日」
「はい、拓真さんよろしくお願いします」
拓真さんと火伊那さんが出て行った。
「紗那さん、残ってても大丈夫なのですか? 退屈じゃないです?」
「私の事は気にしないでください。もし協力出来る事があればお手伝いしますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「彼女にも、外部素材の選定に協力してもらいましょうか」
「素材の選定ってどうするんですか?」
「そこはまず、悠斗さんに協力してもらう必要があります。実はですね、元々悠斗さんにお願いしたい事がありまして。今回の事にもいかせると思うのですよ。少しお待ち下さいね」
立ち上がった白磁さん。
ガラス窓の向こうの部屋へ移動した。
研究員の一人らしき、女性と何か話している。
その後に桜田さんにも何か伝えているようだ。
少ししてから、戻ってきた白磁さん。
彼と話していた研究員の女性と桜田さんの二人。
次々に、ケースに入れられた金属の板を運んできた。
色合いから、それぞれが異なる金属のようだ。
見た目で何となくわかるものから、わからないもので様々だった。
全て運び終わったらしい。
白磁さんを残して、研究員の女性と桜田さんは部屋から出て行く。
おそらく、本来の仕事に戻ったのだろう。
「ここにある八種類の金属。これを悠斗さんの力で強化して欲しいんだ。その上で、強化後の金属で今回の件に相応しいのはどれか決める、という考えなのだけどどうかな?」
「わかりました。それぞれを強化すればいいんですね」
「うん、後、紗那さん。拓真さんに基本的な戦闘技術は、教えてもらっていると思うのだけども、間違いないですかね?」
「はい、実戦でどの程度、役に立つかまではわかりませんが」
「いや、それなら問題ないです。悠斗さんが強化後の金属の耐久性についてのテストに、協力してもらいたいけどかまいませんか?」
「はい、もちろん、是非にお願いします。でも実際にはどうするのでしょうか?」
「それはテストを行なう時に説明しますよ」
二人が話している間。
僕は何をするでもなく、会話に耳を傾けていた。
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1991年6月15日(土)AM:11:05 中央区特殊能力研究所五階
所長室で一人、黙々と事務作業に没頭している古川 美咲(フルカワ ミサキ)。
明日は竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)を連れて出かける予定。
なので、本音を言えば、今日中に終わらせたい。
彼女はそう、考えている。
しかし、人間一人で処理できる量。
それはどうしても、限度があった。
終わらせたいとは思いながらも、終わらないだろうなと彼女も自覚している。
それでも、ほったらかすわけにもいかない。
なので、上がってきた順番に、報告書に目を通す。
必要な箇所には、付箋を貼り付けメモを書き足して行く。
そんな作業を延々と続けている古川。
突如ノックされる音が響いた。
ふと時計を見て、既に時間が過ぎている事に気付く。
部屋に入るように声を掛けた彼女。
扉を開けて入ってきたのは朝霧 拓真(アサギリ タクマ)。
彼の車椅子を押している堤 火伊那(ツツミ カイナ)の二人。
「失礼します。少し時間に遅れてしまいました。申し訳ありません」
拓真は車椅子のまま、火伊那は車椅子の後ろで頭を下げる。
「いや、気にするな。私も没頭しすぎて、時間が過ぎてる事に気付いたばかりだしな。二人ともコーヒーでいいか? インスタントだけどな」
椅子から立ち上がった古川。
二人が頷くのを確認。
棚から来客用のカップを二つ取り出す。
そして、コーヒーを淹れていく。
ついでに自分のカップにもコーヒーを淹れた。
拓真と火伊那の分のコーヒー。
先にテーブルに運ぶ。
最後に自分のを置いた上で、ソファーに座った。
「火伊那、ソファーに座っててもいいぞ」
少し躊躇した彼女だった。
だが、拓真の頷きに、車椅子をテーブルの側まで移動。
その上でソファーに座った。
「それで所長、相談したい事があるという話しでしたが?」
「あぁ、そうだったな。その話しをする前に、悠斗君の提案についてはどう思った?」
「今さっき悠斗さん、白磁さんと話しをして来ました。実際にうまくいくかは、やってみないとわかりませんけど、中々いい発想だと思いますよ」
「そうか。最初はいろいろと問題点もでてくるだろうが、よろしく頼む」
「はい。もちろんです」
「それでだな。相談したい事なんだがな。拓真の技術で、魔子または霊子で動く、戦闘も可能な義手なんてものは作成可能か?」
「んー? もちろん可能不可能で言えば可能ですが、義手という事は、人間に装着するのが前提という解釈ですか?」
「そうゆう事になるな」
「可能では有りますけど、本来人形として確立されるものの一部を、という事ですから、調整とか利用者本人の協力も不可欠になります。前例はありますけど、僕自身が義手目的で作成した事は今までないので、直ぐに完成とはいかないと思いますよ」
「それでも構わない。何個か試作した上でも構わないさ。その当たりは利用する当事者と話し合ってもらえると有り難いかな」
少し思案する拓真。
技術を活かせる場面という事ではある。
だが、果たして自分に出来るのか悩む。
だが自分の技術により、何かの助けになる。
それなら、出来うる限りの事をしてみようと決めた。
「わかりました。それで、実際に義手を必要としているのは誰なんでしょうか?」
「ここに呼ぶから、悪いが少し待っててくれ」
受話器を取り何処かに電話をかけているようだ。
電話は短い遣り取りで終わった。
彼女は受話器を置くとソファーに戻る。
「すぐ来ると思うぞ」
誰が来るのか教えてはくれない古川。
拓真と火伊那は、視線を合わせて苦笑するしかなかった。
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