073.風呂-Bath-

1991年6月2日(日)PM:20:01 中央区環状通


 竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)の手を引いている古川 美咲(フルカワ ミサキ)。

 彼女の歩調に合わせて歩いている。


 まともに料理をした事がない古川。

 基本的に外食か弁当、パン類で済ましてきた。


 彼女も、このままじゃいけないなと思ってはいる。

 しかし、解決策は今の所思い付かない。

 とりあえず食パンとマーガリンはあるので明日の朝ぐらいは何とかなる。


 別れ際に、三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)と茉祐子が何かを話していた。

 もちろん古川も、その場にいたので知っている。

 しかし少し離れていた為、彼女の耳には、内容は届いていない。

 その為、茉祐子の思惑は知らなかった。


「美咲姉って外食ばかりなの?」


「外食ばかりってわけじゃないけど、多いかな」


「そうなんだー。料理出来ないっていってたもね」


「マユちゃんと同居するわけだし、何とかしないといけないなとは思うんだけどね。当分外食が続くかもしれない、ごめんな」


「ううん、大丈夫だよ」


 一見会話が成立しているように見えている。

 古川が感じている大丈夫の言葉の意味合い。

 それと茉祐子が言っている大丈夫の意味は、実は違うのだ。

 彼女がその事を理解するのは、残念ながらもう少し先の事となる。


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1991年6月2日(日)PM:20:23 中央区桐原邸一階


 猫耳少女の服と下着類。

 これについては、とりあえず中里 愛菜(ナカサト マナ)のを貸して着せている。

 彼女も別段反対はしなかった。


 出来れば二人を連れて服や下着を買いに行きたい。

 だが、言葉が通じないので意見も聞く事が出来ないのだ。


 猫耳についてはヘアバンドで隠せばいい。

 尻尾についても目立たないように、服の中にでも入れればいいだろう。


 しかし、現実は過酷である。

 そもそもの、その説明がうまく通じなかった。

 故に、おいそれと外に連れ出せないというループ。


 数日分の下着と服を、愛菜が隣から持ってきてくれていた。

 その為、当面は衣類については大丈夫な形になっている。


「ミオちゃんとマテアちゃんと、三人でお風呂入ってくるね」


 必要な物を事前に脱衣所に準備した愛菜。

 彼女が居間に戻って来た。

 桐原 悠斗(キリハラ ユウト)に視線を向けて告げる。


 彼女は、猫耳少女二人の手を引いて、風呂場に向った。

 桐原邸の風呂場は一軒家にしては広く、三人ぐらいなら問題ない。

 愛菜は脱衣所で、まずは身振り手振りで脱ぐように説明してみる。


 残念ながら通じないようだ。

 しかし、説明させるのに悠斗を呼ぶわけにもいかない。


 彼女自身の服と下着を、目の前で脱いでみる。

 それでも通じなかった。

 しばしどうやって伝えようか迷う愛菜。


 おずおずとミオの服と下着を脱がしていく。

 彼女を脱がし終わった愛菜。

 次にマテアの服と下着を脱がしていった。

 その間、二人は抵抗する事もなく素直に従っている。

 一糸纏わぬ姿になった三人の少女。


「お風呂にはいろっ!」


 通じないとわかっていながらも、声を掛けてしまう愛菜。

 風呂場の扉を開けて、猫耳少女二人の手を取り中に入っていく。

 バスチェアーは二つしかない。

 その為、ミオとマテアを座らせて、彼女は立ったままだ。


「お湯かけるよっ!」


 愛菜はお湯を満たしてある浴槽から、風呂桶を使い掬った。

 マテア、ミオの順に二回ずつかけていく。

 二人は一瞬びくっとしたものの、それだけだった。

 最後に自分の体にもお湯を二回かける。


「それじゃはいろうか」


 見本を見せるかのように、浴槽にゆっくりと入っていく愛菜。

 愛菜が入り終わるのを、じっと見ていたミオとマテア。

 先に動いたのはミオ。

 恐る恐る同じように足から湯船に入っていく。

 ミオが入り終わった後に、同じようにマテアも湯船に入っていった。


 浴槽がそれなりに広い。

 その為、少女が三人はいっても余裕があるのだ。

 愛菜と対面するように、ミオとマテアが並んでいる。

 言葉が通じない為、残念ながら何か会話をする事はなかった。


「やっぱりお風呂は気持ちいいよね!」


 微笑んだ愛菜と同じように微笑むミオとマテア。

 二十分ほどお湯に浸かっていた三人。

 愛菜が浴槽から出る。


 すると、その後に素直に従いミオも出てきた。

 マテアの手を引っ張るミオ。

 引っ張られたマテアも順に湯船から出てくる。

 二人は、その後にバスチェアに座った。


「それじゃ体を洗うね!」


 ボディスポンジを泡立てた愛菜。

 ミオの体を優しく撫でるように、泡だらけにしていく。


 泡を興味深く見ているミオとマテア。

 マテアはミオの体についている泡を、恐る恐る突っついている。


 ミオの体を一通り泡だらけにした愛菜。

 今度はマテアを泡だらけにしていく。

 そして最後に、自分の体を泡だらけにしていった。


「泡だらけだね」


 にっこりと微笑んだ愛菜。

 ミオもマテアも、意味は理解してないだろうが微笑んだ。


「それじゃミオちゃん目を瞑ってね」


 愛菜は自分の目を数秒瞑ってみせる。

 数秒瞑って瞼を開けて数秒瞑ってを繰り返すと、通じたのだろう。

 ミオは両目をしっかりと瞑った。

 その間も、マテアはミオの体の泡を突っついて遊んでいる。


 ミオが目を瞑ったまま十秒ほど経過。

 開けない事を確認した愛菜。

 まずは石鹸を使い、手で泡立てて顔を優しく洗っていく。


 一度自分の手を洗い流してから、シャンプーを二回プッシュ。

 彼女の頭を洗っていく。

 その間ミオは目をじっと瞑ったままだ。


「流すからそのままでね」


 風呂桶に浴槽からお湯を掬い、洗い流していく。

 何度か洗い流して、泡がなくなった事を確認した愛菜。

 ミオが、ちゃんと目を瞑っている事を念の為に確認する。


「まだ瞑ったままでね」


 正直通じているわけはない。

 だが、ミオはそのまま目を瞑っている。

 再びシャンプーを二回プッシュして、ミオの頭を洗っていく愛菜。


 先程よりも丹念に洗っていく。

 そして再び、風呂桶にお湯を掬い流していった。

 今度はリンスを一回プッシュした愛菜。

 頭髪に優しく馴染ませる様にしていく。

 その上で再び洗い流した。


「終わったよ」


 実際に言葉が通じているわけではないのは愛菜も理解している。

 しかし数秒してから、ミオは瞑っていた目を開けた。

 その上で、マテアの耳元で何かを囁いている。

 愛菜には聞こえているものの、意味は全くわからなかった。


「マテアちゃんに説明してるのかな?」


 何とはなしに呟いただけだったがミオが頷いた。

 その反応に、少し疑問に思った愛菜。

 しかし、思考はそこから先に進む事はなかった。


 愛菜が何か言うまでも無く目を瞑ったマテア。

 ミオの時と同じように頭を洗っていく。

 その間、今度はミオがマテアの体の泡を突っついて遊んでいた。


 マテアの頭も洗い、流し終わった愛菜。

 今度は自分の頭を洗っていく。

 その間、ミオとマテアが愛菜の体についている泡を突っついている。

 少しこそばゆいのを我慢している彼女。

 だが、耐えれない場所もあるわけだ。


「キャッ!」


 たまたまマテアの指が、愛菜の弱点。

 脇腹の一点にピンポイントでヒット。

 愛菜もびっくりしたが、その声を聞いたミオとマテアもびっくりしている。

 しばし身動き一つしない二人の猫耳少女と愛菜。


「もう、ゆーと君に聞かれたらどうしようかと思った」


 声が聞こえていたら、彼の事だから急いで確認しに来るだろう。

 その事を考えただけで、何故か恥ずかしさに顔を赤らめてしまった愛菜。

 なんとか落ち着いてから、頭を洗うのを再開して体を洗い流した。

 その間、ミオとマテアは身動き一つしないで静かだ。


「もう一回はいろっか」


 再び湯船に浸かる愛菜。

 彼女に従うように、ミオとマテアも順番に湯船に浸かる。

 言葉が通じないのって大変だ。

 そう思いつつも、愛菜は妹が二人出来たみたいで、悪い気はしていない。

 二人の猫耳少女に微笑みつつ、少女は今日一日の疲れを癒していた。


 二十分程湯船に浸かっていた三人。

 愛菜が湯船から出た。

 従うかのようにミオとマテアも順番に湯船からあがる。


 脱衣所に出た愛菜。

 まずは自分の体にバスタオルを巻く。

 次にミオ、マテアにもバスタオルを巻きつけた。


 別途用意していたバスタオル。

 先にミオ、マテアの順に体を拭いていく。

 最後に自分の体を拭いた。


 猫耳少女二人に用意していた下着と服。

 二人にを着せてから、自分も下着と服を着る。

 その上で、まずはミオの頭をバスタオルで拭いていく。

 次はマテア、最後に自分の頭を拭いた。


 ドライヤーでミオの頭を乾かし、次にマテア、最後に自分。

 ミオにドライヤーの温風を当てた時、ちょっとだけびっくりしていた。


 最後に自分の髪を乾かし終わった。

 二人を風呂に入れるという大仕事をやり終えて、満足した愛菜。

 ミオとマテアの手を引いて、居間に戻っていった。

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