043.交流-Mingling-

1991年6月1日(土)AM:11:12 中央区緑鬼邸一階


 僕は今、宮の森のとあるお屋敷の玄関にいる。

 隣には、凄く嬉しそうな顔をしている愛菜や、伽耶さん達。

 愛菜は、何がそんなに嬉しいのかよくわかんない。


 昨日帰宅した時点で、愛菜は既に説得不能状態だった。

 由香さんは一体何で、愛菜を連れてくるように仕向けたのだろうか・・・。

 聞いてみても恍(トボ)けるだけだったし。

 由香さんって普段の真面目さの割に、結構腹黒いんだろうか・・・。


 とりあえず鬼人族(キジンゾク)と友好を深めようという事で、ここに来た形だ。

 桃鬼族(トウキゾク)と緑鬼族(ロクキゾク)は、他の鬼人族(キジンゾク)と比べると、繋がりが深いらしい。

 その為、緑鬼族(ロクキゾク)も今回の交流会に、一口噛みたいという事になった。


 スケジュール的には、今日は桃鬼族(トウキゾク)と俺達とで、緑鬼族(ロクキゾク)のお屋敷にお泊り。

 明日は逆に、桃鬼族(トウキゾク)のお屋敷に、俺達と緑鬼族(ロクキゾク)で遊びにいくという感じ。

 だったら、緑鬼族(ロクキゾク)のお屋敷でもいいんじゃないかって気もするけども。


 着物を着た、緑髪の女性陣にそれぞれの泊まる部屋に案内される。

 女性陣は四階の部屋のようだ。

 男性陣の僕と三井さんは三階。

 建物の、一番南の部屋に案内された。

 和風の比較的質素な部屋だけど、何か高級感漂うな。


 案内してくれた緑髪の少女に聞くと、何でも昔は高級旅館だったらしい。

 ついでに、彼女も交流会に参加するそうだ。

 自己紹介されたので、僕も自己紹介をしといた。

 彼女は眼鏡っ娘の緑鬼族(ロクキゾク)。

 たぶん僕より年下だろう。


 そう言えばそもそも、人と鬼人(キジン)の違いって何なんだろう?

 ぱっと見た限り、僕達と違いがあるとは思えない。

 鬼って言うから、角でも生えてるのかと思ったけどそんな事もない。

 後で、鬼の皆様がいない所で、三井さんに聞いてみるかな。


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1991年6月1日(土)AM:11:20 中央区緑鬼邸二階


 僕と三井さんは荷物を置き終わった後、大広間に案内された。

 顔合わせも兼ねているらしい。

 そこでは既に、桃鬼族(トウキゾク)らしき人達がいる。

 緑鬼族(ロクキゾク)らしい人達と談笑していた。

 その中に、秦斜さんと伊麻奈ちゃん達もいる。


 僕と三井さんは、案内された席に座った。

 少し遅れてきた愛菜達女性陣。

 順番に、案内された席に座っていく。


 何故か三井さんが、自己紹介の一番目に選ばれた。

 予想外の事らしく、三井さん本人も渋い顔をしている。

 事前に知らされていたわけでもないのか。


「俺は三井 義彦(ミツイ ヨシヒコ)、よろしく」


 三井さんの自己紹介みじかっ・・・。

 予想通り、隣の僕に来ましたよ。

 無難に名前と、中一である事を紹介しましたさ。


 それにしても、この人数か。

 順番に自己紹介して行くけど、人数多すぎて覚えきれないだろこれ。

 僕達は愛菜や三井さん、柚香さん他、総勢十二名。


 伽耶さんと沙耶さん、紗那さんの三人は、着物に興味津々のようだ。

 少し不満そうな表情の吹雪さん。

 たぶん、三井さんと席が離れたからなのだろうな。


 瀬賀澤さんは夕凪さんと、何か談笑している。

 竹原さんと口川さんは微笑みあっているようだ。

 理由はよくわからない。


 後は、桃鬼族(トウキゾク)らしいのは秦斜さん、伊麻奈ちゃん含めたぶん八名。

 それだけでも二十名か。


 緑鬼族(ロクキゾク)に至っては、今座っているのが九名。

 交流会参加の若者だけでも九名だ。

 おそらく、座っていないで準備を手伝ったりしているのもいるだろう。

 この屋敷だけでも、他に何人いるのかわからない。


 交流を深めるって、この人数でどうするつもりなんだろうか?

 詳しい事はお楽しみ、とか言ってたけども。

 一通り自己紹介が終わったみたいだ。


 それぞれの席には、名前の他に数字が書かれてる。

 名前の方は、持ち運び出来るようになってるけど、数字の方は出来ないな。

 僕はそんな事を考えていた。


 緑鬼族(ロクキゾク)の一人が、注目するように皆に呼びかける。

 波打つ緑の髪を、後ろでポニーテールにしている女性。

 確か碧 市菜(ヘキ イチナ)さんだったかな。


 桃鬼族(トウキゾク)の人達が、順番にくじっぽいのを引いてる。

 その間も市菜さんの説明は続く。

 ようするに、くじで引いた番号の席に席替えって事か。

 ホワイトボードに書かれていた席順。

 わかりやすいように、その図の番号の所に名前が書かれていく。


 これでランダム席になるから、両隣と交友を深めて下さいって事か。

 そんなんでいいのかな?

 知り合いで並ぶ可能性だって、無いわけじゃないのに。


 そんな感じで席順は決まっていった。

 僕の右隣は、部屋まで案内してくれた少女に決定。

 ツインテールをカールにしている眼鏡っ娘の碧 伊都亜(ヘキ イトア)さん。

 左隣は、今日は髪をおろしている伊麻奈ちゃんだ。


 昼ご飯終了まで、この布陣らしい。

 三井さんとは離れてしまった為、さっきの疑問は聞けないな。

 伊麻奈ちゃんは、僕と逆隣の緑髪の男の子と話してる事が多かった。


 必然的に僕は伊都亜さんと話す事になる。

 伊都亜さんを挿んで逆隣の、桃鬼族(トウキゾク)の男の子も話にはいってきた。

 前髪が妙に長い彼は、轍 学亞(ワダチ ガクア)というらしい。


 桃鬼族(トウキゾク)と緑鬼族(ロクキゾク)は、希望者は学園に入学させるつもりらしい。

 伊都亜さんと学亞さんの話しを総合すると、そうゆう事になる。

 もちろん伊都亜さんと学亞さんも行くつもりのようだ。


 僕はどうするのかは、特に突っ込んで聞いてはこなかった。

 話しを聞く限り、全員行くものと勘違いしているらしい。


 そんなこんなで気付けばお昼。

 和風な、魚がメインの豪華な食事が運ばれてきた。

 伊都亜さんの話しだと、緑鬼族(ロクキゾク)の料理人チームがものすげー張り切ってたらしい。

 何をそんなに張り切っていたのだろう?

 僕達にはわからない、大人の事情とかがあるんだろうか?


 自炊と給食と、愛菜の料理以外食べる事がほとんどないから、新鮮と言えば新鮮だ。

 愛菜はどちらかと言うと、洋風よりだし。

 こうゆう和風の魚料理は、食べる機会そのものが余りない。


 うん、愛菜の料理に負けず劣らず旨い。

 伊都亜さんも、ここまで豪華なのは普段食べてはいないらしい。

 緑鬼族(ロクキゾク)の料理人チーム、どんだけ気合いれたんですか・・・。


 そんなこんなで、昼食美味しく頂きました。

 他の皆も凄い美味しそうに食べてる。

 愛菜も満足そうだ。

 連れて来て良かったのかもな。


 昼食も終了し、僕達は部屋に戻った後、夕食まで自由時間となった。

 いきなり自由時間を与えられても困るけど・・・。

 どうしようか考えながら、部屋に戻る僕。


 気付けば愛菜と、紗那さんが隣にいる。

 何か話しかけたほうがいいのかな?

 でも何を話そうか?

 そんな事を思っていると、愛菜が話しかけてきた。


「ゆーと君、料理どうだった?」


「美味しかったね。何か日本らしいっていうかさ」


「そうだね」


 その間、紗那さんは一言も話さず相槌だけ。


「桐原さん、また食べたいと思いますか?」


 相槌だけだった紗那さんが話しかけてきた。


「そうだねぇ、また食べに来たいね」


 何でそんな事を僕に聞くのだろうか?

 愛菜と紗那さんは、よくわからない気合をいれている。

 僕を置いて先にいってしまった。

 一体何だったんだろう・・・。

 とりあえず部屋に戻るか。


 部屋に戻ると、既に三井さんは戻っていた。

 胡坐をかいて、何か思案気にしている。

 声をかけるのも躊躇って、どうしようか迷う。

 少し離れて座ろうとしていると、逆に声をかけられた。


「桐原、これからどうする?」


「どうしましょうかね?」


「特に予定は無しか?」


「そうですね」


「そうか・・・」


 何かあるのだろうか?


「市菜さんと双菜さんに、ちょっと頼まれごとをしてな」


 市菜さんはともかく、双菜さんって誰だっけ?

 あぁ、市菜さんと一緒にいた、髪型の違うそっくりさんだ。

 確か緑の髪をおろしている女性、翠 双菜(スイ フタナ)さんと言ってたな。


「どんな頼みごとですか?」


「俺もまだ、その現場を見てないから、何て説明していいのかわからん、とりあえずこれから見に行かないか?」


「現場? 何か穏やかじゃなさそうですね!? 行くのはいいですけど」


「それじゃ行こうか」


 こうして、僕と三井さんは再び部屋を出た。

 彼が、僕、一体何処に連れて行くつもりなのかはわからない。

 だけど、何かやっかいな事に巻き込まれるような予感がした。

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