041.葛藤-Trouble-
1991年5月31日(金)PM:18:00 中央区特殊能力研究所二階
「今日は、授業を開始する前に、まずは新しい塾生の紹介です」
由香さんの言葉を合図に、一人の少女が教室に入ってきた。
あれ?
何処かで見た事あるような?
あ、たい焼きの娘、柚香さんだったかな。
たい焼きの娘とか呼ばないように注意しなきゃ。
さすがに失礼過ぎる。
そうか、すぐにわからなかったのは、髪をおろしていたからかもな。
確か三井さんの同級生なんだっけか?
彼女も何か異能を持っているって事なのか。
「十二紋 柚香(ジュウニモン ユズカ)です。お見知りおきを」
柚香さんの自己紹介が終わると、皆が順番に、自己紹介をしていく。
そう言えば、山本さんがいないな。
珍しい事もあるもんだ。
「それじゃ、柚香さんは三井君の隣でいいかな?」
頷いた柚香さんは、三井さんの隣の席に座った。
吹雪さんとは反対側だ。
吹雪さんと柚香さん、ぶつかったりしないのだろうか?
「本日、山本君は、学校の関係でお休みです」
なるほど、それでいないのね。
そういえば、伽耶さん、沙耶さんはギブスとかしてないな。
骨折治ったのかな?
常人より、回復力が早いのは聞いてる。
けど、どんだけ回復力早いの・・・。
「三つ目の連絡事項ですよ。明日明後日の桃鬼族(トウキゾク)、緑鬼族(ロクキゾク)との交流会についてです」
桃鬼族(トウキゾク)、緑鬼族(ロクキゾク)の若者達との交流会か。
確か桃鬼族(トウキゾク)が豊平区。
緑鬼族(ロクキゾク)が宮の森の、奥の方に住んでるんだっけか。
交流会についてのプリントを、配り始めた由香さん。
毎回ちゃんと資料を準備してくれている。
あ、毎回って言う程じゃないや。
まだ数えるぐらいしかしてないか。
「詳しい事は、読んでくれればわかると思うけど、交流会なんだから喧嘩とかしないようにね」
由香さん、それどうゆう意味ですか・・・。
実は鬼だけに、喧嘩っぱやかったりするのだろうか?
とてもそうは見えなかったけど。
配り終わった由香さんは、プリントの内容を順々に説明を始める。
待ち合わせは、明日十時にここか。
必要なのは、二日分の着替えだな。
桃鬼族(トウキゾク)と緑鬼族(ロクキゾク)は、鬼人族(キジンゾク)の中でも比較的温厚で、大人しいらしい。
確かに極さんも伊麻奈ちゃんも、そんな感じだったな。
やはり同じ鬼人族(キジンゾク)でも、それぞれで特徴とかあるんだろうか?
まぁ、人間と同じように個性があるから、一概には言えないのかもしれないけど。
交流会、山本さん以外は全員参加なんだ。
そうすると七人か。
これに柚香さんと茉祐子ちゃん、優菜ちゃんの十人。
伊麻奈ちゃんは、桃鬼族(トウキゾク)側だから除外かな?
そう考えても結構な人数だ。
何度か見舞いに来ていた、桃鬼族(トウキゾク)らしき人達もいるんだろうな。
僕も何度か話しした事がある。
けど、印象としては悪くはなかった。
僕達が、どう思われているかわからないけど。
でも、交流会するぐらいだし、悪い印象ではないんだろうな。
「ゆーと君、愛菜ちゃんは連れて行かないの?」
唐突に、僕は由香さんに声を掛けられた。
予想外の問い掛けに、うまく反応出来ない。
「へっ? はっ!?」
あ、やばい変な声がでた。
伽耶さんと沙耶さんも、会いたいなーとか言ってるけど。
「いや、だって、隠してるわけで」
「エレメントを使うような事態になる事はないだろうし、大丈夫なんじゃない?」
「・・確かにそうかもしれないけど」
いやらしい笑みを浮かべた由香さん。
爆弾発現をしてくれた。
「まぁ、抵抗しても、もう無駄なんだけどね」
「え? 無駄ってどうゆう・・・?」
「さっき電話して、交流会の事教えたらね、来る気まんまんだったよ」
なんで電話してるし・・。
「鬼人族(キジンゾク)の事は、どうするんですか?」
「彼らも、力を行使しなければわからないでしょ」
「・・・ばれても知りませんよ・・・」
「まぁ、大丈夫だろうさ」
三井さん、そんな簡単に無責任な事を。
溜息しか出ないわ。
ばれて困るのは僕なんだけどな。
僕以外は、もう既に、愛菜が行く事を前提に話ししてるよ・・・。
この様子だと、愛菜を行かないように説得するのも難しそうだな。
諦めるしかない・・・のか。
「はい、それじゃ。質問もないようだし、授業をしますよ」
そう言うと、由香さんが真面目な先生の顔になった。
今日の授業用のプリントを配って行く。
今日は精霊士、エレメンターについてだ。
火のイメージカラーは赤、青は水のイメージカラー。
緑は風のイメージカラー。
そして土のイメージカラーは黄。
イメージカラーて、何の為に必要なんだろう?
あ、そう言えば、桜田さんの名札が黄色だったな。
あそこは、アースエレメンターの研究って事なのか。
そういう区分の為の、イメージカラーなのかもな。
得意属性は得意な順に、呼び方が一応あるのか。
得意な順に、第一属性、第二属性、第三属性、第四属性。
そのまんまじゃないか。
これに当てはめると、僕なら第一属性は土って事か。
第四属性まで使えたのは、記録にある限り一人しかいなかったらしい。
それだけ、制御したりするのが難しいって事なんだろうな。
小さい頃は、ちょっと使うだけでも物凄い疲れたっけね。
ここ数年、数える位しか使わなかったけど、あの頃程の疲労はなかった。
制御がうまく出来てるって事なんだろうか?
考えてみても、よくわかんないや。
僕は自分の第一属性すらも正確には理解出来てない。
余り関係のない話しなのかもしれないな。
そもそも僕のエレメントだって、木製の物に関しては何も出来ない。
出来るものと、出来ないものの基準さえも、よくわからないしな。
鉱物系には使えるみたいだけども。
そんな事を考えながら、由香さんの説明を聞いていた。
今日も由香さんの、東京の学園に通学していた頃の話しなんかも交えてる。
そんな感じで、二日目の授業も、新しい仲間を迎えて過ぎて行った。
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1991年5月31日(金)PM:21:34 中央区桐原邸一階
愛菜は風呂に入っているので、僕は一人で居間でテレビを見ていた。
テレビの内容なんててんで頭に入ってきてはいない。
右耳から入って左耳から抜けていってる状態だ。
そもそも、何で愛菜はわざわざこっちで風呂に入ってるんだろうか?
今まで気にした事なかったけど。
節約の為とかなのかもしれないな。
愛菜、明日の交流会、本当楽しみにしていたな。
由香さんは鬼人族(キジンゾク)達の事を、何て愛菜に話したのだろうか?
いや、話していないんだろうな。
でもそれなら、どんな説明をしたのだろうか?
「愛菜も疑問に思ったりしないのかな?」
自分の頭でいろいろと考えてみるけど、さっぱり思い付かなかった。
いっその事愛菜に聞いてみるという手もあるか?
いやいや、駄目だ駄目だ。
それで不審に思われたら隠している意味がないじゃないか。
「由香さんに聞いてみるべきだったか? でも、はぐらかされそうな気もするんだよなぁ?」
それとも全て正直に話してしまうか?
いや、それは出来ないな。
どう思われるかわからないし。
そう思いながら、心の中では別の事も思っていた。
近くにいるからには、いつまでも隠し続ける事は不可能だ。
いつか必ず、言わなければならない日が来るだろうとも考えていた。
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1991年5月31日(金)PM:21:47 中央区特殊能力研究所付属病院三階七号室
「ねぇ? 伊麻奈ちゃん」
「なにー? マユちゃん?」
「伊麻奈ちゃんって鬼人族(キジンゾク)? だよね? 私達と何か違うの?」
なんとなく質問した竹原 茉祐子(タケハラ マユコ)。
極 伊麻奈(キワ イマナ)は彼女の質問に少し悩む。
口川 優菜(クチカワ ユウナ)も伊麻奈が答えるのを待っているようだ。
「お爺ちゃんに怒られるから秘密にしてね」
伊麻奈の頭に桃色の渦が角の様に生えてくる。
だが、さして長くはない。
それでも彼女は頑張って妖力をコントロールしていた。
「渦!? 角!?」
驚きの表情の茉祐子と、口をポカンと開けている優菜。
「良くわからないけど、すごーい!!」
純粋に感心している茉祐子。
「う・・ん、何か・・すごいよ」
二人の言葉に、伊麻奈は照れている。
直後、角のような渦は消失した。
「えへへへ! でも私もまだ制御うまく出来ないんだ。だから秘密だからね」
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