039.品胎-Triplets-

1991年5月31日(金)PM:17:02 中央区特殊能力研究所五階


 俺は今、所長室にいる。

 隣には何故かもじもじしている柚香。

 テーブルを挿んで古川所長。


 柚香は少し緊張しているようだ。

 何故、そこまで緊張しているのかは俺にはわからない。

 人見知りなわけでもないから、尚更理解不能だ。


「三井君、彼女に学園の事は話したのか?」


 柚香は何それって感じで、首を傾げている。

 彼女には一切説明してない。

 だから首を傾げるのは当然だな。


「いや、まだだっていうか、一切説明していない。質問される事も考えたら、所長から説明した方がいいと思ってな」


「なるほど」


 立ち上がった古川所長は、自分のデスクに向かい、何かを探し始めた。

 探しているのはおそらく、こないだ俺達に渡した資料だろう。

 入学願書らしきものも必要なので、俺のは持ってこなかった。


 どうやら見つけたようだな。

 古川所長が再び、ソファーに座った。

 俺は既に説明されてるし、ここにいる意味もない。


「俺はちょっと、別の用事もあるから、済ませてくる」


 柚香と古川所長にそう言って、部屋を後にした。

 柚香は何か言いたそうな表情をしている。

 だが、俺がいる意味もほとんどないからな。


 俺が向かうは隣の病院。

 一応、傷の経過報告と挨拶。

 由香にも声かけようと思った。

 のだが、この時間は資料の準備とかで忙しいかもしれない。

 そう思って、結局やめた。


 廊下を歩いていると、顔見知りの研究員とすれ違う。

 研究室以外で会うのは、もしかしたら初めてかもしれない。

 俺は軽く挨拶をすると、相手も軽い受け答え。

 少し世間話しをしてから、廊下を再び歩き始めた。


-----------------------------------------


1991年5月31日(金)PM:17:03 中央区菊水旭山公園通


 学校を後にした僕と愛菜。

 歩いていると、背後から声を掛けられた。

 誰の声だったっけ?

 そんな事を考えながら、後ろを振り向く。

 転校生の銅郷さんがいた。


 愛菜は、少し話しとかしたみたいだ。

 僕は余り関わらず、いつも通りに過ごしていた。

 その間、何か接点があったわけでもない。

 愛菜にでも、用事があったのかな?


「銅郷さんも帰りですか?」


 特に何の疑問もなく、愛菜は彼女に話しかけた。

 彼女が自己紹介の時。

 最初じっと僕の事を見ていたのが、引っかかっていた。

 それ以前に、今朝僕を見ていたのも彼女だ。

 勘違いではないと思う。


 実は勘違いだったとしたら、僕は阿呆だ。

 でも、彼女に問うつもりはなかった。

 勘違いかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 どっちにしても問題が勃発する気がしたからだ。


「はい、中里さん、桐原さん、よければ一緒に帰りませんか?」


「はい。ゆーと君もいいよね?」


「うん? あぁ」


「それじゃ銅郷さん、ゆーと君帰ろっ!」


 愛菜と銅郷さんが、二人で話しながら歩いている。

 僕はその後ろで、話しを振られたら答えている感じだ。


 あれ?

 そーいえば、何で僕の苗字知ってるんだ?

 愛菜が、僕の話しでもしたのだろうか?

 まぁ、そう考えるのが妥当な所だろう。


 僕と愛菜が仲良しだよねとか、そんな話しをしている。

 転校してきて、一日もたっていないのに、そんな事わかるだろうか?

 給食だって、態々席を移動して、一緒に食べてるわけでもない。

 何処かで、面識でもあったのだろうか?

 うーん、記憶には、なさそうなんだけどな。


 何か釈然としない。

 そのまま、研究所に向かうので僕は二人と別れた。

 ただ単に、僕が自意識過剰なだけなのかなぁ?

 自己紹介とか、特に何もしてないけれど。

 まぁ、こっちから、深く絡まなければいいか。

 そんな事を思いながら、僕は一人歩いていた。


 研究所に向かい、僕は一人歩いている。

 橙色の髪の毛の女の子が、向こうから三人歩いてくるのが見えた。

 鮮やかな橙色って、吹雪さん程ではないにしても、珍しい髪色だな。

 そんな事を思っていると、三人の橙色の髪の女の子は、僕の前で止まった。


 三人とも、ポニーテールにしているようだけど、微妙に違う。

 どうやら三つ子らしく、三人とも全く同じ顔に見える。

 とりあえず、目の前に停止されたので、僕も歩みをとめた。


 可愛い系の感じだな。

 三人とも服装が全く違うのは、好みの差なのかな?

 何かしゃべる訳でもなく、じっと僕を見ている。


「「「こんにちわ」」」


 三人が同時に、そう口を開いた。


「こんにちわ」


 とりあえず挨拶を返してみた。

 何処かで会った事あったかな?

 記憶を探るが、特にそれっぽい事は思い出せない。


「何処かで会った事ありましたか?」


「ううん、ないよ」


 一番左の、ティーシャツにスカートの娘がそう答えた。


「それじゃ、僕に何か用なのかな?」


 たぶん同い年か、年下だろうな。

 次は、真ん中の娘が答えた。

 白と水色のワンピースの、大人しそうな娘だ。


「一度、あなたに会ってみたかったんですぅ。かっこいいですねぇ」


「――ありがとう」


 とりあえず、女の子に褒められて、悪い気はしなかった。

 しかし、会ってみたかったとは何だ?


「そうかな? 僕的には、こないだの眼鏡な浅黒い人が好みだったな」


 一番右の、ティーシャツにズボンの、活発そうな娘がそう言いだした。

 眼鏡に浅黒い人って誰さ?

 三井さんは一応当てはまるけど、別の人だろうさ。


「それじゃ二人とも行こうよ。ばぁい」


 再び、真ん中の娘がそう言って、僕を避けて歩き出した。

 残りの二人も、それに続いて歩き始める。

 一体、何だったんだろうか?

 何となく振り向いて、見送ってみる。


「またねー」


 左側の娘が、こっちを向いて手を振っている。

 真ん中にいた娘は、スタスタと一人歩いているようだ。

 その後に続いて、右の活発そうな娘が少し後ろを向いた。


「桐原君いや悠斗君かな、さよなら」


 その言葉を呑み込み、理解するまで、しばらく時間をようした。

 理解した時に、一気に疑問が駆け巡る。

 何で、僕の本名を知っているんだ?


-----------------------------------------


1991年5月31日(金)PM:17:22 中央区特殊能力研究所付属病院四階十二号室


 俺は、極 秦斜(キワ シンシャ)の病室に来ている。

 札幌の桃鬼一族の頭領で穏健派。

 白髪ではあるが、年齢の割にがっしりとした身体つき。


「孫もすっかり、元気になりました」


「そうですか、良かった」


「本当、あなた方のおかげです。二度も助けられました。本当、どうお礼申し上げていいか」


「気にしないで下さい」


 あの時も、極さんは酷い怪我を負った。


「三井さんも、明日は来られるんですよね?」


「ええ、もちろん行きます」


 俺達へのお礼もかねて、極さんの家に招待したい。

 そんな話しが、少し前に持ち上がっていた。

 学園の話しも関係している。

 俺達と桃鬼族(トウキゾク)の若者達とで、友好を深めさせるという意図もあるのだ。

 だが、それだけが目的ではない。


 伊麻奈ちゃんは、ここに入院している間に、マユや優菜ちゃんとも仲良くなった。

 優奈ちゃんは、マユや伊麻奈ちゃんのおかげで、踏みとどまった部分もある。

 元魏さんは、どうするか迷ったらしい。

 だが、最終的に、優菜ちゃんも連れて行く事を、許可してくれた。


 伊麻奈ちゃん、マユも、表立ってそうゆう所は見せてない。

 けど、実際の所はわからない。

 心の深い部分が、少しでも回復してくれればいいと思っている。

 そうゆう意図も含めて企画したのかもしれないけど。


 優奈ちゃんは、極さんが養子として引き取る事にしたらしい。

 まだ、本決まりではないらしいけども。

 どんなやり取りがあって、そうなったのかは聞いてない。


「それじゃ、三人娘の所にも顔出して来ますね」


「三人娘とは、うまい事いいますな」


 そう言う極さんは、嬉しそうに笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る