第35話 EXTended Life/3

    ◆


 世界は激震した。その根幹を打撃され、その形を崩落させていた。


「何をばかな。世界がそのような脆いものか」


 言った瞬間、音を立てて崩れていた大樹の崩落が、ぴたりと停まる。


「……まぁ、は止むを得まい。それだけ多くのものを失い、大きなものを喪ったのだ」


 停まっていた崩落が再開されるが、それは一部に留まった。

 だが、大樹は今もなお傾き、砂礫と化して崩れてしまいそうだ。


「ふむ……が必要か」


 翳した手に光が灯り、大樹の根元、崩落した欠片の中からひとつの存在が掘り起こされる。

 光に覆われたその存在を、大樹の幹へと埋め込んでいく。


「喜べよ。お前が《生きた証》として、世界は今の形のまま存続するんだからな」


 ひとつの存在を飲み込み、幹を中心に大樹全体に光が走る。

 乾き、罅割れていた表皮がみしみしと音を立て、根や枝が力強く伸び、黒緑の葉が一斉に葉擦れの音を響かせる。

 そこには、もう枯れかけの古木など存在していなかった。


『貴方の望みは果たされました……よかったですね』


 大樹に触れる手は、小さく、白い。女性の手であった。


『あら……?』


 響く声もまた、女性の声であった。


『これは……』


 振り返れば、そこには黄金の外套が長く伸びている。

 白い手が触れると、それはしゅるしゅると音を立てて巻き上がり、首から肩、腕を覆う外套として身についた。

 現在のサイズに合わせた調整が行われたのだ。


『……やってくれましたね』


 今や隆々とした大樹を振り仰ぎ、その表皮を軽く小突く。その口元には笑みが浮かんでいた。



    †


 世界は“変革”を迎えた。


 それは全てを変えるものだった。


 常識、法則、歴史、秩序―――世界を世界足らしめる何もかもが


 だが、それでも変わったのは“ほんの一部”に過ぎなかった。


 生命いのちそのものは変わりなく、世界ぶたいそのものも変わりはしない。


 ただひとつの存在が失われ、いくつかの存在が加わり、そしてが入り込んだ。


 世界は“変革”を迎えた。


 それは決して、


 を狂わせたのだ。


 ここから先は、なる道となるだろう。

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