第12話 Alchemist/1
私の目的。それは、私を私足らしめること。
†
「……君は、錬金術、というものについて知っているかね?」
「……錬金術?」
……これはまた胡散臭いワードが出てきた。
錬金術とは、有り体に言えば「石ころを金に変えることのできる技術」だ。
現代的に言えば、化学の
「その様子では、あまり詳しくはなさそうだ」
「オカルトは信じないタチなんでな」
「死人から蘇生した君が言っても説得力に欠ける」
「……好きで蘇ったわけじゃねぇ」
冗談を言ったつもりなのかもしれないが、まったく笑える気がしない。
“ドクター”は表情を変えることなく、こちらに左手を差し出し、人差し指を立てた。
「錬金術とは、簡潔に言えば“完全な存在”を志す学問だ。石を金に換えたり、生命を複製したりといった技術は、あくまでもその副産物に過ぎない」
「俺はその副産物とやらで助かったわけか」
「…………」
“ドクター”は答えないが、答えているようなものだ。
専売特許で最重要秘匿事項。簡単にはいそうですとは言えまい。
「続けてくれ。その錬金術とやらがあんたの目的なのか?」
「いいや。錬金術はあくまで手段に過ぎない。目的に至るまでの過程……“踏み台”に過ぎん」
「ふーん、なるほどね……で? あんたは錬金術を踏み台にして何をするつもりなんだ?」
「――何も」
「……何も? 何もしないってことか? どういうことなのか、説明してくれよ」
「先ほどの言葉が全て答えだ。私は錬金術を“踏み台”にし、目的に到達する」
†
「私の目的は“錬金術の完遂”ではない。ただその
……そもそも、これまでの錬金術は全て誤りであったのだよ」
そう。錬金術の目的は“完全な存在”にある。これまで錬金術師と呼ばれたものたちは、それを「どうにかして具現化しようとした」に過ぎない。
その結果が石を金に換え、黄金を溶かし、土塊に生命を与えたに過ぎない。
複雑極まる「物質の真理」などというものを見究めんとし、ただひたすらに“純粋な存在”を生み出そうとしていただけなのだ。
私は違う。
「私は“私自身”を“完全な存在”とやらにしてみたいのだよ」
†
人間の体というのはどうにも不便だ。
まず、食事を必要とするというのが頂けない。特に、現状のような何も食べるものを持たない事態に於いては。
次に、力が出ない。これは前述の食事の要を足していないせいでもあるが、立ち上がるのさえ困難な状況だ。おそらく、この廃教会の扉を押し開け外に出ることも侭ならないだろう。
そして、これが一番重要で最も危急の問題なのだが、
「煙草を吸うには火が必要……分かってはいても叶えられないとは」
火の付いていない煙草を咥えていたところで、肝心の煙は吸い込めない。
人の身に落ちて身に沁みて分かったことは、煙草を持つなら着火具も供に携帯しなければ駄目だということだった。
「それにしても、遅いな……どこまで行ってるんだ」
この廃教会で出会った、《魔女》を名乗る少女。
幸い、この教会の周囲には木々が生い茂っている。果実か何かが手に入れられるはずだろう、と彼女は言っていたが。
時間を知る術もなく、外の様子を探ることもできない。ただ、彼女が帰ってくるのをひたすらじっと待つだけだ。
「…………」
ひとりでいることには慣れている。普段、仕事はひとりで執り行うのが常だ。
ただ、ひとりで何もせずじっとしているというのは、何だか新鮮だ。
「働きすぎ、だったのかもなぁ……」
ワーカホリック、というやつだろうか。全てを文字通り擲って此処でこうしていられることが、自分にとって息抜きになっていればいいのだが。
背もたれに身を預け、
†
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