その気持ちに名前をつけるとするなら
ウィンドーショッピングというのも初めて体感した私だったが、思ったよりも楽しめていることに気が付いた。
というのも、見るだけという行為だが、その見るという行為を共にするというだけで、意外にも楽しいものだということがわかったのだ。
それと、世の中は以外にも面白いアイディアに溢れていた。商品一つを見ても、ありふれた物から一風変わった物までさまざまで、開発者のアイディアやデザイナーのセンスが垣間見えて面白い。
なるほど、こういうことが高校生らしさというものなのでしょう。きっと私ではわからなかった感覚です。
雑貨屋を一通り見て回っていると、ふと傍に鈴木さんがいないことに気が付いた。
後ろにいると思いましたけど、まさかはぐれた? そのともあの人、私を置いてどこに行ってしまったの?
まさかいなくなるとは思っていなかった。仮にもデートなのだから、彼氏は彼女と一緒にいてしかるべきものなのではないでしょうか? それにはぐれそうになったら、咄嗟に手を引いて近くに寄せるとか、手を繋いでいるとか、いろいろ方法があるでしょうに。
そこまで考えて、ハッ、っと我に返る。
私は一体に何を考えているんでしょうか? これは仮のデート。私たちは本当の彼氏彼女の関係じゃないのに、手を引くだとか繋ぐだとか、一般的な男女の仲を逸脱している。それこそ本当に、彼氏と彼女の関係のようじゃないですか。それにこれじゃあ、私がそれを求めているような……ええい! そんなことはありません! 私はあの人のことは、観察対象としか思っていない!
スマホを取り出してメッセージを打ち始める。向こうもはぐれたのがわかればメッセージを入れているはずだし、気づいていないとしてもこれで気づくはず。そうすればすぐに見つけられるでしょう。
えっと……鈴木さんどこにいるんですか? はぐれるだなんていい度胸ですね。
……なんか、違うような気がする。
別に最後の文は必要ないですよね? これは取り用によっては、はぐれてしまったことに憤りを覚えていると思われる。別に怒ってはいないのに、これではあまりにも勝手が過ぎるでしょう。
……鈴木さんどこにいるんですか? 突然いなくなると心配――心配は別にしてません!
ただ居場所を聞きたいだけなのに、なぜこう考えてしまうのでしょう。アホらしい。さっさと適当に打って居場所を聞けばいいのに。
「あっ、いたいた」
スマホの画面から顔をあげると、目の前に鈴木さんの顔があった。
「ちっ!」
「ちっ?」
「近い!」
「うぐっ!」
突然のことにボディブローが出てしまった。
「あっ、すみません」
「もう少し威力を抑えて欲しかったかな?」
今にも膝を折りそうな鈴木さんだったが、公衆の面前ということもあり、不審に思われないためになんとか堪えてくれた。
「突然目の前に来られると焦ります」
「田中さんって、そういうところ意外にも初心だよね?」
「喧嘩なら買いますよ?」
「冗談なのでおやめください」
全くこの人は。
「仮にも彼氏役なんですから、はぐれないでくださいよ」
「田中さんが一人で先にいっちゃうからでしょ? それとも、寂しかった?」
「冗談は口だけにしてください」
寂しくなどなかったが、この人が来てくれたおかげなのかなんなのか、少しだけ安心している自分がいる。けれど私は、その気持ちを見ようとはせずに、鈴木さんを後ろに感じつつまたウィンドーショッピングに戻るのだった。
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