お金を使わないデートは新鮮
鈴木さんがまず最初に連れて来てくれたのは、ショッピングモールの中にある大型チェーン店の雑貨屋さんだった。目立つ黄色の看板に特徴的な四文字の英語並んでいる。
入口付近には季節感に沿った夏物の雑貨。扇子やら小型扇風機やら風鈴やら、中には甚平なんてものも置いてあった。
こういった大型の雑貨屋さんはあまり馴染みがないので、色々な物が売っているんだな……。と感心の目を向けた。
「何か買われるんですか?」
彼に尋ねると、「いや別に?」と即答で返ってくる。何も買わないのに、お店に入るのも変な感じがする。けどこれが、一般的なデートなのかもしれない。
考えあぐねていると、鈴木さんが「今日はお嬢様のために、お金を使わないデートプランをお教えしますよ」と、私の考えを読み取って答えてくれた。
その対応がなんとも腹立たしい限りだが、私のためということなら受け入れよう。
「お金を使わずに、楽しめるんですか?」
「楽しめるとも。それに俺達大学生も、もちろん真澄ちゃんのような高校生も、あんまりお金は持ってないからね。デートをするにしたって、ウィンドウショッピングが関の山だよ」
「ですが、お店に入ったら最低は何かを購入するべきでは? これではただの冷やかしですよ?」
「そこまで皆頭回ってないって。知らなかった? お金を払わない人間にはほとんどが無関心なのさ」
なんとも世知辛い話だとは思うが、至極当然という気持ちもどこかにあった。
事実その通り、入ってみて痛感させられるこの孤立感。お客さんもいて店員もいるというのに、その全てが自分の世界にいるようで、周りにたいしてほとんどが無関心だった。
「なんといいますか。少し寂しい気持ちになりますね」
私が世間とずれていることもあるが、買い物と言ったら最低限店員の目があり、何か困ったことがあったら話しかけてくれて、意見を述べてくれる。そんなことが当たり前だと思っていたから、ここまで無関心を貫かれるとどうも接しづらい。
困ったことがあったら気軽に話しかけることもできないし、常に忙しそうにしてるから話しかけても迷惑になりそうで嫌な感じだ。
「田中さんは、こういうところ初めてでしょ?」
「ええ。雑貨に関しては家で全て揃ってしまうので、入用のものと言えば服選びくらいですね」
「ゲームは?」
「全てネットです。けれど、やると言っても真澄がやってるゲームだけですからね?」
「わかってるよ」
彼は率先して中に入って行く。私はその後ろにくっついていく形で、人込みに溢れる店中に足を踏み入れた。
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