突撃!兄の風呂場

 色々あってどっと疲れた。


 風呂に入って数分。湯船の中で、今にも寝てしまいそうな衝動に駆られながらも、なんとか意識だけは繋いで行く。

 湯船の中で眠気が来るのって、血圧がどうのって関係なんだっけか? テレビでやったような気がするけど、覚えてねぇな。


 無駄のようで無駄ではないだろう知識を思い浮かべながら、今日のことを自分の中で思い返していた。


 突然のキスからの告白。

 断られることがわかっていたと言っていた阿子の表情。そして、答えを言わせて貰えなかった俺。

 本当は阿子の言う通り、断るつもりだった。だって俺にとっては、彼女はただの後輩で、気の合う奴だったから。年下ってこともあったし、どこか真澄の同じような位置づけにしていたのかもしれない。

 だからどうしても、異性としては見れて無かった。

 その愚かさのせいで、きっといままで、あいつのことを傷付けていたんだと思う。今思い返せば、そうとも取れる言動や行動ばかりだった。


 単純に距離が近い奴なんだと思っていた俺は、本当に馬鹿だな。


 パシャリと、手でお湯を顔にかける。


 今後のことは考えないといけない。たぶんいずれ、阿子の方からまた告白してくる日が必ず来る。それまでのあいだに、俺があいつのことをどう思うのか。ちゃんと向き合わないといけないな。


「好きかどうか……かぁ……」


 気になってる人はいる。けれどそれが、果たして恋なのかどうかと言われたら、自分ではよくわからないでいる。ただ彼女には笑っていてほしいという気持ちがあるから、大切なんだとは思う。それを恋と言ってしまえば簡単なんだと思うけど、それがどうしても自分で納得ができていない。

 例えば、彼女と手を繋ぎたいかと言われれば、悩むところだ。

 例えば、彼女とキスをしたいかと言われれば、躊躇してしまう。

 例えば、彼女とそういうことがしたいのかと言われれば、はっきりとは答えられない。


 曖昧で中途半端。それなのに、いっちょまえに傍にいたいと思う。

 自分の気持ちがよくわからないな。


「今はいいか。考えるのも疲れた」


 ふっ……と意識が飛びそうになって、いかんいかん。と首を横に振る。

 そろそろ出るかな~、なんて考え始めた時だった。


 突然風呂場の扉が開いた。開けるやつなんて、この家では一人しかいない。

 あいつは生まれたままの姿で風呂場に突撃してくる。


「一緒に入って良い!?」

「前を隠せ!」


 こいつの羞恥心は、いったいどこに捨てられてしまったのだろうか? そう悩む、風呂場での出来事だった。

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