おや? 田中さんの様子が……
近頃の私は、やはりどこか変だ。
図書館からの帰り。歩いて自宅に帰っている途中の信号待ち。そこで、自分の気持ちが可笑しいことに気が付いた。
先程の光景が頭から離れない。あの両側回遊魚が見せたもの悲しそうな視線が、私の心に残っている。
あれはやはり……。
彼の気持ちがなんとなく理解できている。きっとあの人は、恋をしているのだと思う。そしてその相手は、あの時あの場にいた女性。私とは対照的な、見た目からは優しげな印象を受ける女性。
鈴木さんの好みはああいう女性なのですね。清楚系だろうなとは思っていましたが、まさにその通りでしたね。目立った特徴はないけれども、むしろそれが味……なんでしょうか? 私とは真逆の人ですね。
「……って。なんで私は、あの人の好みを分析してるんでしょう」
自分の行動に理解ができない。私にとってあの人は、別にどうでもいいようなそんな人のはずなのに、妙に興味が引かれてしまう。むしろ最初は生理的に嫌ってさえいたのに、いつの間にか普通に話すようにもなってるし。会ってる回数もそんなにないはずなのに、どうしてでしょう?
海の時になんとなく気持ちに整理はついていたのだが、改めて考えさせられて、自分は今あの人の何に興味が向いているのか考えた。
気になっている原因は十中八九あの光景だ。鈴木さんが見知らぬ女性に向けた視線。あれを見てから、ずっと考えている。
なんで私は、あの光景を心に止めてしまっているのか。わからない。わからないけれど、鈴木さんが原因であることは間違いないのだ。
「……」
信号が青になってしまったので、歩きながら考える。
もし、これが鈴木さんじゃなかったら、私はどう思うだろう。もし相手が綴さんだったら……。
考えて、何も思わないな。という結論に至った。むしろそのまま他の女とくっついて真澄を明け渡して欲しいくらいだ。
綴さんでは思わないけど、鈴木さんでは思う。謎かけのようだが、そこがこのもやもやを解決する近道のように思えた。
綴さんにあって……鈴木さんにないもの。綴さんにあって……鈴木さんにないもの……。
「あっ」
そうか。わかった。なんで私が、鈴木さんにたいして興味が引かれたのかが。
二次元大好きなはずのあの人が、三次元に恋をしているからだ!
以前、あるゲームを押し付けられたことがあった。それを返す時に話したのだ。
『これは返します』
『そう? 持っててもいいけど』
『持っててもしかたがないですよ。やらないので』
『可哀そうに。帰ったら俺がいっぱい可愛がってあげるから』
『人のように話すの止めてくれませんか? 気持ち悪い』
『え~。だってほら、パッケージに俺の彼女映ってるし』
『はあ? 彼女』
『うん。彼女。友香ちゃん』
『……二次元ですよね?』
『二次元こそが。俺の彼女だよ』
『……きも』
というやり取りを。本気の目をしていたので、この人は本当に二次元に恋をしているんだと思っていた。だがそれが、三次元で恋をしている。
「これは……どうしたらいいのでしょう」
自分一人で消化できない。誰かと話したい。意見を分かち合いたい。
スマホを取り出し、ラインを開く。
一先ず。由美さんに相談してみましょう。困った時は由美さんに頼れば、なんか良い方向に転がしてくれるはずです!
トーク画面を開いて。私は高速で文面を打つのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます