思いもよらない

「ま…真澄ちゃん? どうしたのそんな暗い顔して?」


 無言で店内に入って来る真澄ちゃんは、いつもの無表情なのに、周りのオーラだけがどんよりと曇っていた。器用なことするな、なんて思いつつも少し心配になる。


「由美ちゃん。どうしよう……」


 何か悩んでいるのかな? もしかして、あの友達のことで相談!? あの変た――じゃなくて、ちょっと頭の螺子が緩い子だから、何かあったのかも。


「お兄ちゃんにチョコを贈りたいんだけど、作れなくて」

「……な~んだ!」


 よかった。あの子がらみじゃないなら、何の問題もないよね。


「由美さん?」

「ああ、ごめん! そっか……でも真澄ちゃん。代わる代わるでお夕飯とか作ってるんじゃないの?」


 前にこれ見よがしに、綴君が妹が作ったお弁当なんだ、って見せびらかしてた時があったから、料理は得意なんだと思ってた。


「つくれない訳じゃないんだけど……お菓子は苦手なの」

「分量と手順さえ間違えなければ大丈夫なはずだけど……」


 真澄ちゃんは首を横に振る。だけど、普通の料理ができるのに、お菓子作りだけはできないってのも何か可笑しな話しだ。


「爆発するの」

「爆発!?」


 どこの次元の話しなのかなそれは!?


「えっと、爆発って。具体的にどんなふうに?」

「レンジが壊れた」


 それはいけないと思う!


 話を聞くに、なぜかオーブンを扱うと爆発してしまったのだという。一体どうやったらそんな現象に辿り着くのか疑問だが、そのせいで凝ったお菓子作りができないのだとか。


「だから私のところに来たのね」

「由美ちゃんだったら洋菓子店の人だし、オーブンを使わないお菓子も作れるかなって」

「そうだね~」


 私は焼き菓子を想定して作ろうと思ってたけど、真澄ちゃんがこう頼んで来てるんだし、ひと肌脱いじゃいますかね!


「いいよ。手伝ってあげる!」


 この時私は、何も考えずに承諾してしまった。まさかこの後、あんなに苦労されるとは思いもしなかった。

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