バレンタインデー前日の忙しさ

 2月13日。バレンタインデー前日。

 明日は絶対、綴君にチョコを渡して見せる!


「これください」

「あっ、はーい」


 そう決意を新たにしつつ、私はお店の手伝いに生を出すのだった。


「ありがとうございました」


 お客さんもそろそろ来なくなる時間帯になり、ようやく落ち着くと思うと安堵の息が零れる。しかし私にはまだ仕事が残っている。

 明日のために、チョコ菓子を作らなければいけない!


 これでも洋菓子店の娘である私は、こと菓子作りにおいてはプロ級の腕前を持つ。大抵の物は作れるが、どれを作るかが問題だ。


「綴君、何が好きかな?」


 できることなら相手の好みに合わせて作ってあげたい。そんで喜んでもらいたい。綴君の笑顔が見たい。一回も見たことないし。


 一年近く同じ大学に通ってるわりには、付き合いはそこまでなかったりする。だからこそ、こういうイベントでしっかりアピールしとかないと。


「よし! それじゃあそろそろ始めて……」


 ふと、視線を感じた。それは以前にも感じたことのある、不吉な視線というやつだった。怖くてそちらに向けないが、見ないわけにはいかない。おそるおそるそこを確認してみると。


 真澄ちゃんが、暗いオーラを放ちながら、除き込むように店の中を見ていた。


「にょわぁぁぁぁぁ!!」


 思いっきり叫んでしまった。

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