第65話:「ねねさん、コースインする」の巻

(まささんたちのグループが一巡して二度目のアタックが始まったころ、まささんはねねさんに告げます)


「じゃあ、事務所でヘルメット借りてきたんで、これ被ってください」


「? 何するんですか?」


「あなたを助手席に乗せてコースインします。サーキットの中を走るんですよ」


「え~、何か怖いです」


「きちんと安全走行しますから大丈夫ですよ。実際、これまで誰も事故ってないでしょ?」


「う~ん、約束でしたしね。わかりました」


「気乗りしないなら別にいいですよ。無理しなくて」


「いいえ。乗てみたいと言たのは、わたしのほうです。まささんを嘘つきにするわけにはいきません。わたし、勇気振り絞てまささんのクルマに乗ります! まささん、命預けましたよ!」


「そこまで信用ないんですか、ボクのドライビングは……」


 やがてねねさんは、ヘルメットを被りインプレッサの助手席に乗り込みます。


 悲壮な表情です。


 別の意味でまささんの表情も悲壮です。


「(心の声:この事がきっかけでフラれたら洒落にならんな)」


 そんな一組の男女を乗せて、まささんの痛インプレッサはサーキットコースにインします。


 まささんたちがいま走ろうとしているサーキットは、一周だいたい一キロちょっと。


 決して大きなサーキットではありません。


 まささんがゆっくりアクセルを踏みます。加速エリアはまだです。


「じゃ、ねねさん。そろそろ行きますね」


「おけいです」


 ねねさんの許可を得てまささんがアクセルを踏みます。


「きゃ~ッ!」


 スピード計が、あっという間に百キロを指します。


 さすがは三百二十馬力。とんでもない加速です。


「きゃ~ッ! 怖いィィィ~ッ!」


 続いて目の前のコーナーにターンイン。


 ただし、まささんの基準ではめっちゃゆっくり。


 かなり手前からブレーキ踏んで、タイヤも鳴らさずインベタでクリア。


 でもねねさんのおしりは、シートの上で暴れます。


「きゃ~ッ! 怖いィィィ~ッ!」


「きゃ~ッ! 怖いィィィ~ッ!」


「きゃ~ッ! 怖いィィィ~ッ!」


「もーもどりましょー、まささーん!」


「(心の声:ああ、仕方ないか。やっぱ連れてきたのは失敗だったかなぁ)」


 絶叫マシンは好き!なんて言ってたのにな、とトホホな気分になるまささんなのでありました。

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