第62話:「まささん、愛車を走らせる」の巻

(出発早々助手席で寝てしまったねねさんを起こさないよう、まささんは慎重なアクセルワークで愛車を走らせたのでした)


「(すぴ~)」


「(心の声:連れが寝てると妙に気が散る。まだひとりで運転してたほうがましでござるよ)」


「(すぴ~)」


「(心の声:このクルマ、エアコンなんておもてなしはないからなぁ。うう、なんとなく酒臭い。雨降ってなかったら窓開けるんだが、この状態で開けたら車内が地獄絵図になりそうだ)」


「(すぴ~)」


「(心の声:この……ひとの気も知らないで……なんだかむかついてきたぞ! 乳揉んだろか!)」


「……まささん、駄目ですよ~」


「わぁぁッ!!! ごめんなさいィィィッ!!!……って、寝言かよ」


 ものの三十分も走らないうちに、最初の目的地であるSAに到着。


 周囲は未だ真っ暗に近く、そのうえ雨はザーザー降り。


 仲間たちが建物の入り口付近にたむろってるのを発見したまささんは、「すぴ~」状態のねねさんに声をかけます。


「ねねさん。トイレ行きたかったら今のうちにどうぞ」


「別にいいですぅ~(すぴ~)」


「じゃ、なんか飲み食いします?」


「お願いします~(すぴ~)」


「パンとおにぎりと、どっちがいいですか?」


「おにぎり~(すぴ~)」


「了解(心の声:失敗だった。のんべを早朝に連れ出すのは絶対に失敗だった! ああ、俺の莫迦ッ!)」


 仲間たちと挨拶を交わし、売店で買い物を済ませるまささん。


 仲間たちのひとり スイスポ海苔のふなちゃんがおそるおそる声をかけてきます。


「まささんさん。例の彼女はひょっとして……」


「ひょっとしなくてもクルマの中で爆睡中」


「で、そのおにぎりその他は?」


「もちろん、ボクと彼女の朝飯です」


「まささんさん」


「何かな、ふなちゃん?」


「この時点で尻に敷かれて楽しいですか?」


 ベッドのなかではとっくのむかしに蹂躙されてます、とは言えず、言葉を濁すまささんなのでありました。

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