第5話『課題の呪い』

 ――課題の呪い。

 渚曰く、それは俺や彩花、渚が通っている月原高校にまつわる呪いのようだ。俺、七不思議とかそういう話は全く聞いたことがないけれど。

「課題の呪いって何なんだ?」

「私も前に女バスの先輩から聞いたのを思い出したの」

「そうなんだ……」

 代々語り継がれている月原高校の呪いってことか。

「……あたし、金崎高校で良かったわ。うちの高校……そういったオカルト的な話は全然ないから」

 どうやら、咲……オカルト的な話は苦手のようだ。顔が青白くなっている。

「私も知りませんでした。渚先輩、具体的にはどういう内容なんですか?」

「ええと……先輩の話だと確か、何年か前……2学期が始まったとき、1人の女子生徒が亡くなったんだって」

「えっ……」

「その女子生徒は夏休みの課題を忘れてしまって、忘れた科目の教師から激しく叱られたみたいで……それを苦にして自殺したんじゃないかって言われているの」

「そんなことがうちの高校にあったんですね……」

 また、不思議な出来事の背景に自殺が絡んでいるかもしれないのか。

 でも、確かに……学生が自殺する日として一番多いのは夏休み明けだと聞いたことがある。その原因はいじめなど色々あるけれど……教師に激しく叱られたら、中には思い詰めてしまう生徒もいるだろう。

「そのことがあって以降、毎年9月は夏休みの課題を忘れた生徒を中心に大きな怪我や、重度の病気にかかる生徒が多くなるみたいなの」

「そして、いつしかそれが課題の呪いと言われるようになったんですね」

 話だけなら、夏休みの課題をきちんと行なうためにも語り継ぐのも良さそうだけど、実際に苦しんでいる生徒がいると何とも言えないな。自業自得……という言葉で片付けてしまってはいけないような気がする。

「うん。その呪いの話を信じているのかは分からないけれど。まあ、女バスも夏休み前半はインターハイで色々と忙しくて、夏休みの宿題が終わっていない生徒が多いから、下旬は全て活動なしで、新学期になったら心機一転して頑張りましょうってことになったの」

「なるほどです」

 それでも、渚はやっていない宿題があったけれど。まあ、夏休み中に思い出したから何も言わないでおくか。

「ただ、今の渚の話だと……夏休みの課題をやってこなかった生徒に災いが起こるんだよな。俺、期末試験を受けなかった変わりの課題も含めて全部終わらせたんだけどな」

「もしかしたら、私みたいにまだやっていない課題があるんじゃない?」

「……調べてみる必要はありそうだな」

 他の生徒と同じくやる夏休みの課題、俺だけの特別課題。量がたくさんあるので整理してあるんだけどな。

 というか、小学生の頃から思っていたけれど、夏休みなのにどうしてこんなにもたくさん課題をこなさければいけないのか。休みたいよ。まあ、俺の場合は期末試験を受けなかったので、そっちの課題は仕方ないけれど。

「ただ、この課題の呪い……課題をやらなかった本人だけじゃなくて、終わっていても、課題が終わっていない生徒と遊びまくったりして課題が終わらなかったら、連帯責任としてその生徒にも災いが起こると言われているわ」

「……じゃあ、例えば渚に課題を手伝ってほしいと言われたのに、俺が手伝わないことが原因で課題が終わらなかったら……渚と俺に災いが起きるってことか」

「そういうこと」

「というか、もし、俺の体が小さくなった原因がその課題の呪いだったとしたら……何かの予兆として体を縮めさせたってことになるな」

 今までにないパターンだ。渚の話だと、早くても災いが起きるのは9月1日だと思うけれど、今日は8月29日だぞ? 課題の呪いの説は薄い気がするな。

「吉岡さんの宿題を手伝ってあげなさいってことなんじゃない? 昨日の段階で直人は吉岡さんが宿題を終わらせていないことを知っていたんでしょう?」

「……そう、だな」

 まあ、課題の呪いの可能性も捨てきれないから、とりあえず課題が終わるまで渚の面倒を見よう。それで、俺も課題が終わっているかどうか今一度チェックすることにするか。

「じゃあ、吉岡さんとあたしの宿題を手伝ってね」

「……咲の課題もかよ」

「直人に手伝ってもらうためにここに来たんだけどな。もしかしたら、学校問わず課題で困っている生徒を助けないと元の体に戻れないかもよ?」

「……つ、都合がいいように解釈しているな」

 ただ、他校でも、夏休みの課題で困っている生徒に手を差し伸べることをしなかったら災いが起こるかもしれないな。それに、困っている人を見過ごすことはできない。

「分かった。咲の課題も見るよ。ちなみに、咲が終わらせていない課題って?」

「英語のプリント」

「……そっか。ちなみに、咲には紅林さんっていう親友が近くにいるはずだけど」

「ああ、杏子は家族旅行に行ってる。みんなにもお土産を買ってくるって」

「な、なるほどね」

 それで、俺に頼ってきたわけか。紅林さんは英語が苦手なのかなって思ったんだけど。

「英語だったら、私も手伝えると思います。数学は無理ですけど……」

「そう? ありがとう、助かるよ。考えてみれば、金崎よりも月原の方が偏差値高いし、きっと1年生の宮原さんの方が2年生のあたしよりも英語はできるかも……」

 と、咲は苦笑いをしながら自虐している。まあ、英語は確かに学年は関係ないのかもしれないな。

「じゃあ、渚と咲はそこのテーブルで終わっていない課題を始めよう」

「分かったわ」

「じゃあ、さっそく始めようか、広瀬さん。英語だったらちょっとは教えられるかも」

「助かるわ。数学は……多分、無理だと思う」

「ははっ、分かったよ」

 渚と咲、バスケで何度も戦ってきた間柄なのに、それ以外だとバスケが好き同士の友達なんだな。予選の時は険悪な感じだったけれど、仲良くなって良かった。

「俺と彩花は課題が全部終わっているかどうかのチェックをしよう」

「分かりました」

「じゃあ、2人とも。俺と彩花はそれぞれ自分の部屋で、やり残した課題があるかどうか確認してくるから」

 俺は自分の部屋に行って、夏休みの課題と特別課題がきちんと終わっているかどうかをチェックする。

「終わってるよな……」

 ところどころ間違っている回答をしているかもしれないけれど、それは適当にやったわけじゃなくて、自分なりに考えて書いた回答だし。あと、体が縮んでしまったせいか、教科書やノート、プリントが今までよりも大きく感じる。

「直人先輩、私の方は全部の課題終わっていました」

「そうか、分かった」

「先輩の方はどうです? 夏休みの課題以外にも特別課題もありますけど」

「特別課題は担任から纏めて渡されたから、このプラケースに入れてある。確認したけど、全部やり終わってた。通常の夏休みの課題も……課題プリントはそれぞれの教科書に挟んであるけれど、うん……終わってる」

 渚のやっていない数学のプリントもしっかりとやっていた。1学期にやった内容の総復習という感じだ。担任からもらった実際の期末テストの問題から推測すると……テストで8割くらいできていれば難なくこなせると思う。量は多いけれど。

 まあ、渚は1年の頃から理系科目は苦手であることを公言していたし、量も多いから俺に手伝ってもらおうと考えるよな。

「うん、俺の方も全部終わってた。じゃあ、リビングに戻って2人の課題のサポートをすることにしようか」

「はい、分かりました。そうだ、先輩がワンピース姿になってくれましたから、約束通りプリンを作りますね。今から作れば夜に食べられると思うので」

「……楽しみにしてるよ」

 その時には元の体に戻っているといいんだけど。プリンは大好きだし、彩花の作ったプリンは食べたことはないけれど、きっと美味しいだろうから。たくさん食べたい。

 ――ちゅっ。

「うわっ、急にビックリした……」

 不意に彩花から口づけをされたので驚いてしまった。

「先輩の笑顔があまりにも可愛かったので、つい……」

「……そっか。美味しいプリンを楽しみにしてるよ」

 そして、今度は俺の方から彩花に口づけをする。

「約束だからな」

「……はい。ていうか、今の直人先輩から口づけをされたら……色々な意味でキュンとしちゃいますよ」

「そうかい。彩花から見たら、体が小さくなってワンピース姿の俺を可愛いと思っているかもしれないけれど、心は何も変わってない。だから、俺にとって彩花は……とっても可愛い恋人だと思ってるよ。そんな彩花がとっても好きなんだ」

 今までとはまるっきり違う姿になってしまったから、俺の心はこれまでと全く変わっていないことを彩花に知っておいてほしかった。

「……ありがとうございます、直人先輩。気持ちが変わっていなくて、安心したのと同時にとても嬉しいです」

「ああ。だから、体は小さくなって、姿はこんなんだけど……これまでと変わらずに頼ってきていいから。俺もこの体でできるだけ応えられるように頑張るから」

「……はい」

「でも、彩花はさっき……俺の手となり足となるって言ってくれた。きっと、この体じゃできないこともあるから、その時は彩花に頼るよ」

「任せてください」

 そう言うと、彩花は俺のことを抱き寄せ、口づけをしてきた。体が小さくなっても、彩花との口づけでこれまでと変わらずに幸せな気持ちになれて良かった。


「遅いと思ったら、やっぱり2人でイチャイチャしているよ」

「吉岡さんの予想通りだったね」

「まあ、2人は恋人同士だしね。2人きりになるとしたくなるんじゃない?」

「じゃあ、あたし達がここにいたらお邪魔かもね」

「そうかも」


 廊下から渚と咲がこちらをのぞき見しながら、小さい声で喋っていた。

「邪魔だと思うなら、さっさとリビングに戻って課題を進めなさい!」

『ごめんなさーい!』

 俺が強い口調でそう言うと、2人はリビングの方へと戻っていった。まったく、俺達のことが気になる気持ちも分からなくはないけど、もう少し課題を真剣に取り組もうとはしないのか。

「じゃあ、私達もリビングに戻りましょうか」

「そうだね」

 渚の課題をサポートするために、数学の教科書とノートを持って彩花と一緒にリビングへと戻るのであった。

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