第42話『Girls Love so sweet』

 気付けば、私はベッドで横になっていた。

 絢さん達の話によると、水代さんの霊が遥香さんの体に入っており、私の意識を強制的に失わせたそうだ。

 水代さんとどんなことを話したのかを説明してくれているとき、絢さんがあまり元気ではないように見えた。どうかしたのかと彼女に訊いてみたら、説得のために水代さんと口づけしたこと。そして、私と口づけをしたことが遥香さんに知られ、泣かれてしまったとのこと。だから、元気がないのか。

 私と口づけをしたことを知ったときの直人先輩がどんな反応をしたのか気になって訊いてみると、先輩も遥香さんから口づけをされそうになったので、お互い様だと言ったそうだ。気にしないで……と。先輩と遥香さんへの罪悪感と、先輩の優しさに泣きたくなった。

「そういうことがあったんだよ、彩花ちゃん」

「なるほど。私が眠っている間に、色々とあったんですね。とにかく、氷高さんを殺害したいという水代さんの気持ちを抑えることができて良かったです」

 直人先輩は理由がどうであれ、やってはいけないことはきちんと言う性格だからなぁ。水代さんのように、もう相談しないと怒られてしまうこともあるだろう。それでも、LINEを使って私達にこのことをいち早く伝えてくれるところはさすが。

「でも、ごめんなさい。私が絢さんに口づけをしてしまったせいで、絢さんと遥香さんに悲しい想いをさせてしまって。直人先輩もきっと……」

 複雑な心境を抱いているに違いない。もしかしたら、遥香さんと今頃、あんなことやこんなことを……うううっ、してほしくないけれど、直人先輩は素敵な人だもんね。それに、私も絢さんに恋をしてしまっているし。仮にあんなことやこんなことをしていたとしても、遥香さんのことを責めることなんてできないし、するつもりもない。

「……少なくとも、私は大丈夫だよ」

 そう言うと、絢さんは優しい笑顔を浮かべながら、私の頭を優しく撫でてくれる。

「それに、遥香のことは直人さんが守ってくれると言ったんだ。だから、私も彩花ちゃんのことをしっかりと守るよ。それに……彩花ちゃんの想いに応えてあげてほしいって直人さんに頼まれたから」

「そう、なんですか……」

 きっと、それって……私や遥香さんの想いに気付いているからだよね。想いに応えてあげてほしい、と言った直人先輩も、それを受け入れた絢さんもきっと辛いんだろうな。

「遥香はともかく、藍沢さんはしっかりと受け答えをしていたよ。遥香のことは藍沢さんに任せて大丈夫だと俺も思ってる」

「色々と複雑な想いを抱くと思うけれど、甘えられる相手がいるんだから甘えていいと思うよ。藍沢君はそれを許していたし。絢ちゃんに甘えられないなら、私に甘えてくれたっていいし。大学生のお姉さんだからね」

「……お気持ちありがとうございます。ただ……今は絢さんに甘えたい気分で。きっと、遥香さんも直人先輩に甘えているでしょうから、先輩の言うとおり……これはお互い様ですよ」

 奈央さんの言うとおり、甘えていい人が目の前にいるんだから甘えよう。直人先輩の言葉に甘えてしまおう。そう、これはお互い様なんだから。それに、こんなときでも私のすぐ側に絢さんが座っていることにドキドキしちゃっているから。

「……分かった。じゃあ、彩花さんのことは絢さんに任せるよ」

「分かりました。彩花ちゃんのことは……私が守ります」

 そう言うと、絢さんは私のことを抱き寄せてくれる。うううっ、直人先輩みたいで取っても優しくてかっこいい。好きな女性に抱かれるってこういう感覚なんだ。顔の所に柔らかい胸が当たってる。

「宜しく頼むね、絢さん。じゃあ、俺と奈央は隣の部屋に戻るけれど……何かあったらいつでも来てね」

「……はい」

「じゃあ、戻るか、奈央」

「そうだね。じゃあ……おやすみ。絢ちゃん、彩花ちゃん」

 隼人さんと奈央さんは隣の部屋へと戻っていった。

 カチャ、と隣の部屋へと繋がる扉が閉まった音が聞こえた後、絢さんのことを抱きしめ、じっと見つめる。私のことを見下ろす彼女はとても優しい目つきをしていた。

「……私のことを守ると言ってくれてとても嬉しいです」

「当然だよ。直人さんに何も言われなかったとしても、そのつもりだった」

「……ありがとうございます」

 その笑顔にキュンときてしまって。絢さんに恋をしているとはっきり自覚してしまった。だから、彼女のことを求めたくなってしまう。

「絢さん。……口づけ、してもいいですか?」

 私のことを守ると言ってくれたけれど、こんなことを言ってしまったら……絢さんを困らせて嫌われてしまうかもしれない。勢いで言ってしまったことにちょっと後悔してしまった。

「……いいよ、彩花さんとなら」

「えっ?」

 爽やかな笑みを浮かべながら絢さんがそう言うので、思わず変な声が漏れてしまった。

「ははっ、自分から言ったのに驚くなんて。可愛いね」

「……もう、からかわないでください」

 でも、何だか緊張が解けたような気がする。もしかして、気をほぐすためにからかってくれたのかな。

「じゃあ、しますね」

「……うん」

 でも、いざするとなると……急にドキドキしてくる。目を瞑ると絢さんって可愛さ満点になるんだな。

 そして、私は絢さんにそっと口づけをする。直人先輩よりも唇が柔らかくて、甘い匂いがして。さっきも思ったけれど、これが女の子同士の口づけなんだ。

 唇をそっと離すと絢さんの優しい笑顔があって。遥香さんの体の影響かもしれないけれど、本格的に女の子同士の恋に目覚めちゃったような気がする。


「……絢さん。あなたのことがとても好きになってしまいました」


 その時に直人先輩や遥香さんの顔が思い浮んだけれど、絢さんへの想いを口にしないままなのは嫌だったから。だから、今はスッキリしている。

「……そっか。ありがとう、彩花ちゃん」

「……はい」

 今のありがとう、って言葉には色々な意味が込められているように思えた。そして、遥香さんという恋人がいるから、好きだとは言えずにありがとうと言ったのだと思いたい。

「彩花ちゃん、やっと……いつもの可愛い笑顔に戻ったね」

「絢さんこそ……いつもの素敵な笑顔にようやく戻った気がします」

 本当は口づけをしてもいいかって訊いたときからそうだったけれど。

「ははっ、そっか。彩花ちゃんと口づけをしたらどうなるか正直不安だったんだ。体は遥香だし、彩花ちゃんって可愛いからさ……私の我が儘で彩花ちゃんを傷つけちゃうかもしれないって。でも、実際にしてみると……不思議と心が落ち着いたよ。こうなるのは遥香だけだと思ったのにね。彩花ちゃんが魅力的だからなのかな」

 そう言ってはにかむ絢さんがとても可愛らしい。絢さんって第一印象ってかっこよくてクールなイメージを持つけれど、少しでも話すとこういった可愛らしさが出てくる魅力的な女の子なんだ。遥香さんが一目惚れをした理由が分かったような気がする。そして、遥香さんと肩を並べることができたような気がして嬉しかった。

「これなら、彩花ちゃんと楽しく夜を過ごせそうだよ」

「……そう思ってくれるなら、今度は……絢さんの方から口づけをして欲しいです。まだ、絢さんからはしてもらってないから……」

 気持ちが重なっていることが分かって、絢さんにそんな我が儘を言ってみる。

 すると、絢さんは両手を私の頬に当てて、

「いいよ」

 そう呟いて、私に口づけをしてきた。直人先輩以外と口づけして温かい気持ちになってしまうなんて。罪悪感が生まれてくる。

「ねえ、彩花ちゃん。今の口づけで体が熱くなって、ちょっと汗掻いちゃった。今から大浴場に行かない?」

「いいですね。私、昨日は部屋のお風呂で先輩と一緒に入っていたんですよ。ですから、一度行ってみたかったんです」

「じゃあ、決まりだね」

 確か、ここの大浴場には露天風呂もあったはず。楽しみだなぁ。

 あっ、でも、大浴場に行くってことは……お互いに裸を見せ合うってことだよね。午後に水着へ着替えたときは、遥香さんと一緒にいたから……絢さんの裸は見てなかった。入れ替わってから裸を見せ合うのは実質、これが初めてなんだ。緊張する。

「どうしたの、彩花ちゃん。顔が赤くなっているけれど」

「な、何でもありませんよ。さあ、行きましょう!」

「ははっ、そんなに入りたいんだね。じゃあ、浴衣を着ていこうか」

「そうですね」

 お互いに下着を着ているからまだいいけれど、浴衣を着ることもちょっと恥ずかしかった。それだけ絢さんのことを意識しているんだな。

 そして、必要なものを準備して、私は絢さんと手を繋いで大浴場へと向かうのであった。

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