第26話『お着替え-前編-』

 彩花達4人が疑問に思っていることについて、答えられる範囲で俺と遥香さんで一通り話していった。

 どうやって元に戻ることができるかも考えたけれど、なかなか思いつかない。

 もし、本当に水代さんの霊が彩花と遥香さんの体を入れ替わったとしたら、生きている俺達に何ができるのか。水代さんの遣り残したことを俺達が代わりにするとか、かな。

 そんなことを考えていたら気付けば、午後3時近くになっていた。

 彩花と遥香さんの体調がすっかりと良くなったということもあり、このまま海やプールであまり遊ばないのはもったいないという判断で、俺達は6人で海やプールで遊ぶことになった。

 俺は遥香さんと一緒に一旦、部屋に戻る。

「水着は浴室の中に干しておいてあるんですよ」

「そうなんですか。私、今は彩花さんの体ですから、彩花さんが持ってきた水着を着ないといけませんね」

「そうなりますかね。遥香さんは自分が持ってきた水着を着たかったですか?」

 もし、そうなら着替えるときに彩花と要相談だな。

「いえいえ! わ、私の水着を着たらきっと胸が苦しくなりそうですし。それに、一度の旅行で2種類の水着を着ることができるなんてお得な気がします」

「ははっ、そうですか」

 ポジティブに考えてもらえるとこちらとしても有り難い。あと、胸が苦しくなるほど遥香さんと彩花の胸の大きさに差があるのかな。

「じゃあ、遥香さんはこの水着を着てくださいね」

「ありがとうございます。可愛いなぁ」

 彩花の水着を手にとり、遥香さんは嬉しそうに見ている。

 その後、俺と遥香さんはプール近くの更衣室まで行くと、既に彩花達4人が更衣室の入り口前に立っていた。

「遥香、藍沢さん」

「お待たせしました」

「……直人先輩と私が並んでいる姿はなかなかいいものですね。これは入れ替わらないと見ることのできない景色です」

「ふふっ、そうですね。私も自分と絢ちゃんが並んで立っているのを見て、何だかいいなぁって思っていたんです」

 確かに、鏡で見ない限りは、恋人と並んでいる場面を正面から見ることができないか。こういうところでお互いに笑っていられるからいいのかな。

「じゃあ、着替え終わったらそこの入り口で待ち合わせにしよう」

 という坂井さんの言葉で、俺達は男女別で更衣室に入る。

「昨日、藍沢さんと出会ったときには、まさかこんな風になるとは思わなかったですね」

「そうですね」

 坂井さんがウォータースライダーで気絶したことも驚きだったけれど、彩花と遥香さんの体が入れ替わったことでその驚きは吹き飛んだな。

「藍沢さん、遥香の様子はどうですか? 絢さんも時折、遥香のことを気にしている様子でしたから」

「そうですか。遥香さんは……元気ですよ。ただ、彩花の体の影響なのか、俺のことが気になってきているようです。もちろん、俺は彩花の彼氏として彼女と接していくように心がけますが」

 絢さんのことを気にかけているときもあるけれど、段々と俺のことを見てくるときが多くなってきている。これもまさか、水代さんの仕業……なのだろうか。

「なるほど。実は……彩花さんも遥香の体が影響しているからか、絢さんの側にいることが多いんですよ。兄目線ですが、入れ替わる前のような2人にも見えるときがあって。もちろん、絢さんも目の前にいるのが彩花さんだと思って接してくれていますけど」

「そうですか」

 俺がいる前ではこれまでと変わらない様子だけれど、俺のいないところでは遥香さんのように、体の影響で絢さんに気持ちが動いてしまっているのかもしれない。

「何にせよ、遥香と仲良くしていただいてありがとうございます。昔はあいつ……俺の側から離れなかったんですけどね」

「そうなんですか。俺にも妹がいるんですけど、小さい頃は遥香さんのように俺にべったりとくっついていましたね」

 今年、久しぶりに実家に帰ったときはクールな感じになっていたけれど、それは恥ずかしかっただけであっという間に昔のようになった。一緒に寝たっけな。

「大きくなっても妹っていうのは可愛いんですよね。正直、遥香は……女の子と付き合うようになって良かったですよ、俺は」

「そうですか。本人が幸せそうなら性別はどちらでも構いませんが。ただ、妹が可愛いっていうのは本当に頷けますね」

 美月は可愛い妹だからなぁ。そんな妹もいつかは結婚したりするときが来るのかな。そんなことを考えていたらちょっと悲しくなってきたぞ。

「大人になってもお兄ちゃん、って呼ばれたいですよね。遥香は呼んでくれるかな」

「ははっ。でも、その気持ちは分かります。せめても2人きりの時だけでも呼んでほしいですよね」

「妹を持つ大抵の男はそう思いますよね、やっぱり」

 美月は何歳まで俺のことを「お兄ちゃん」と呼んでくれるかな。せめても、美月が学生の間は呼んでほしい。

「そんな可愛い妹だからこそ、藍沢さんと一緒にいて楽しそうなことに本当に安心しますよ」

「遥香さんのことは任せてください。元の体に戻るまできちんと面倒を見ますので」

 姿や声は彩花だけれど。彼女は絢さんの恋人であり、坂井さんの妹なんだよな。気をつけて行動していかないと。

 まさか、坂井さんと妹トークができるとは思わなかった。まあ、可愛い妹がいるならみんな思うことは一緒だよな。

 妹トークをしている間に、水着へのお着替えは終了した。

「今日は藍沢さんがいるので、奈央にウォータースライダーへ連れて行かされることはないですね」

「……確かに、昨日よりも顔色がいいですよね」

 昨日は青白かったからな、坂井さん。慣れない運転を3時間ほどしたことでの疲れもあったそうだけど。

「ただ、奈央は俺のことは関係なく、自分の欲で動くところがあるので……なるべく、今日は藍沢さんから離れないようにします」

「そ、そうですか……」

 香川さん、そんなことをする人には見えないけれど。そんなに彼女のことが怖いのかな。ウォータースライダーが怖いと思っているのは確実だろうけど。

「じゃあ、行きましょうか」

「そうですね」

 俺は坂井さんと一緒に、待ち合わせ場所であるプールに行ける入り口へと向かう。そこには……まだ彩花達はいなかった。

「さすがに、遥香達はいませんね」

「そうですね」

 さすがにまだ来ていないか。ここで待っているとしよう。

「何となくですけど、俺達のことを水代さんはどこからか見ているんでしょうね。もしかしたら、遥香達が着替えているところを見ているかもしれませんが」

「そうかもしれませんね」

「ただ、水代さんがやったとして……どうして20年経ってから、体の入れ替わりを起こしたんでしょうね」

「……分かりませんね。自殺をしてから20年という節目なのか、それとも別の理由があるのか」

 そういえば、水代さんが自殺した後に生まれた妹さんが高校生になっているんだっけ。自分よりも長い年月を生きるようになった妹さんが関係している……という可能性はありそうだ。

「藍沢さん、何だか……女性達がこちらを見てきているような気がするんですが」

「確かにそんな感じはしますけど……女性と話すのが苦手なんですか?」

「つ、つい最近まで女性恐怖症を患っていて、奈央と付き合うことを機に治ったんですが……さ、再発しちゃったのかな」

 女性恐怖症なんてものがあるんだな。坂井さんはどことなく不安そうな表情を見せる。彼がそんな様子を見せているのに、周りの女性達は黄色い声を挙げ始めてしまう。女性の考えることって時として分からないことがある。

「女性達がこちらに来たら、俺が上手く対処しますので安心してください」

「宜しくお願いします」

 なるほど、俺の側にいるとさっき言ったのはこういうことも想定していたのかな。

 その後も女性達から視線を送られたり、声をかけられたりしたのであった。

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